Ca・ビタミンDの長期的な補充は閉経後女性の転帰を改善できるのか?
カルシウムとビタミンD(CaD)の補充は高齢女性の慢性疾患に影響を及ぼす可能性がありますが、健康転帰に対する長期的な影響についてのエビデンスは限られています。
そこで今回は、Women’s Health Initiative CaD試験に参加した閉経後女性の長期的な健康転帰を評価することを目的に実施された長期追跡調査(CaDの7年間のランダム化介入試験 ClinicalTrials.gov: NCT00000611 の介入後の長期追跡調査)の事後解析の結果をご紹介します。
試験設定は、全米の多施設(n=40)試験でした。乳がんまたは大腸がんの既往のない閉経後女性36,282人が対象でした。1日1,000mgの炭酸カルシウム(元素状カルシウムとして400mg)と400IUのビタミンD3またはプラセボをランダムに1対1に割り付けました。
評価項目は、大腸がん、浸潤性乳がん、および全がんの発生率、疾患特異的死亡率および全死因死亡率、心血管疾患(CVD)総数、およびランダム割り付けによる股関節骨折(2020年12月まで)であり、個人的なサプリメントの使用で層別化しました。
試験結果から明らかになったことは?
CaD群 | プラセボ群 | ハザード比 HR (95%CI) | |
がん死亡率 | 1,817例 | 1,943例 | HR 0.93(0.87~0.99) |
CVD死亡率 | 2,621例 | 2,420例 | HR 1.06(1.01~1.12) |
全死亡率 | 7,834例 | 7,748例 | HR 1.00(0.97~1.03) |
CaD群とプラセボ群にランダムに割り付けられた女性において、累積追跡期間中央値22.3年後にがん死亡率の7%減少が観察され(1,817例 vs. 1,943例;ハザード比[HR] 0.93、95%CI 0.87~0.99)、CVD死亡率の6%増加も観察されました(2,621例 vs. 2,420例;HR 1.06、CI 1.01~1.12)。
全死亡率(7,834例 vs. 7,748例;HR 1.00、CI 0.97~1.03)を含む他の指標には全体的な影響はみられませんでした。
がん罹患率の推定値は、参加者がランダム化前にサプリメントの使用を報告したかどうかで層別化すると大きく異なることが示されましたが、死亡率の推定値はCVD死亡率を除いて変わりませんでした。
試験の限界として、股関節骨折およびCVDの転帰は試験参加者の一部でしか得られておらず、またサプリメントの効果検証においては、カルシウム vs. ビタミンD vs. 関節サプリメントを分離することはできまないことが挙げられます。
コメント
サプリメントは食事から摂取できない栄養素について、手軽に摂取できる代替法です。一方で、その長期的な効果については充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の長期追跡期間における事後解析の結果、カルシウムとビタミンDの補充は、閉経後女性において20年以上の追跡後にがん死亡率を減少させ、CVD死亡率を増加させるようでした。一方、全死亡率には影響を及ぼしませんでした。
上記の結果をそのまま受け取るのであれば、死亡に至る要因の内訳に影響を及ぼした可能性がありますが、複合的な介入効果なのか、いずれか一方の介入効果であるのかは不明です。また、被験者のベースラインリスクなど背景情報により転帰が異なるため、どのような背景を有していたのか追加の検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の長期追跡期間における事後解析の結果、カルシウムとビタミンDの補充は、閉経後女性において20年以上の追跡後にがん死亡率を減少させ、CVD死亡率を増加させるようであったが、全死亡率には影響を及ぼさなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:カルシウムとビタミンD(CaD)の補充は高齢女性の慢性疾患に影響を及ぼす可能性があるが、健康転帰に対する長期的な影響についてのエビデンスは限られている。
目的:Women’s Health Initiative CaD試験に参加した閉経後女性の長期的な健康転帰を評価すること。
試験デザイン: CaDの7年間のランダム化介入試験(ClinicalTrials.gov: NCT00000611)の介入後の長期追跡調査の事後分析。
試験設定:全米の多施設(n=40)試験。
試験参加者:乳がんまたは大腸がんの既往のない閉経後女性36,282例。
介入:1日1,000mgの炭酸カルシウム(元素状カルシウムとして400mg)と400IUのビタミンD3またはプラセボをランダムに1対1に割り付けた。
測定:大腸がん、浸潤性乳がん、および全がんの発生率、疾患特異的死亡率および全死因死亡率、心血管疾患(CVD)総数、および無作為割り付けによる股関節骨折(2020年12月まで)。個人的なサプリメントの使用で層別化した。
結果:CaD群とプラセボ群にランダムに割り付けられた女性において、累積追跡期間中央値22.3年後にがん死亡率の7%減少が観察され(1,817例 vs. 1,943例;ハザード比[HR] 0.93、95%CI 0.87~0.99)、CVD死亡率の6%増加も観察された(2,621例 vs. 2,420例;HR 1.06、CI 1.01~1.12)。全死因死亡率(7,834例 vs. 7,748例;HR 1.00、CI 0.97~1.03)を含む他の指標には全体的な影響はみられなかった。がん罹患率の推定値は、参加者が無作為化前にサプリメントの使用を報告したかどうかで層別化すると大きく異なったが、死亡率の推定値はCVD死亡率を除いて変わらなかった。
試験の限界:股関節骨折およびCVDの転帰は参加者の一部でしか得られておらず、カルシウム対ビタミンD対関節サプリメントの効果を分離することはできなかった。
結論:カルシウムとビタミンDの補充は、閉経後女性において20年以上の追跡後にがん死亡率を減少させ、CVD死亡率を増加させるようであったが、全死因死亡率には影響を及ぼさなかった。
主要資金源:米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)の国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)。
引用文献
Long-Term Effect of Randomization to Calcium and Vitamin D Supplementation on Health in Older Women : Postintervention Follow-up of a Randomized Clinical Trial
Cynthia A Thomson et al. PMID: 38467003 DOI: 10.7326/M23-2598
Ann Intern Med. 2024 Mar 12. doi: 10.7326/M23-2598. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38467003/
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