虚血性脳卒中に対するDAPTは72時間以内でも有効なのか?
抗血小板薬2剤併用療法は、急性軽症脳梗塞発症後早期(24時間以内)に治療を開始した場合、アスピリン単独療法と比較して脳卒中再発リスクを低下させることが示されています。一方、動脈硬化による急性脳虚血発症後72時間以内にクロピドグレル+アスピリンを投与した場合のアスピリン単独投与と比較した効果は充分に検討されていません。
そこで今回は、中国の222施設の病院において、血栓溶解療法や血栓除去術を受けていない、かつ動脈硬化が原因と推定される軽症虚血性脳卒中または高リスクの一過性脳虚血発作(TIA)患者を対象としたINSPIRES試験(二重盲検ランダム化プラセボ対照2×2要因試験)の結果をご紹介します。
患者は、症状発現後72時間以内に、クロピドグレル(300mgを1日目に、75mgを2~90日目に毎日投与)とアスピリン(100~300mgを1日目に、100mgを2~21日目に毎日投与)を併用する群と、クロピドグレルのプラセボとアスピリン(100~300mgを1日目に、100mgを2~90日目に毎日投与)を併用する群に1:1の割合でランダムに割り付けられました。本試験のデザインは多変量解析であり、スタチンの即時投与と遅発投与を比較した2番目の試験との間に交互作用はみられませんでした(別の報告)。
本試験の有効性の主要アウトカムは新規脳卒中であり、安全性の主要アウトカムは中等度から重度の出血でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計6,100例の患者が登録され、3,050例が各群に割り付けられました。TIAは13.1%の患者で登録の適格イベントでした。脳卒中発症後24時間以内に治療群に割り付けられた患者は全体の12.8%、発症後24時間以降72時間以内に割り付けられた患者は全体の87.2%でした。
クロピドグレル+アスピリン群 | アスピリン群 | ハザード比 HR (95%CI) | |
脳卒中の新規発生 | 222例(7.3%) | 279例(9.2%) | HR 0.79 (0.66~0.94) P=0.008 |
中等度から重度の出血 | 27例(0.9%) | 13例(0.4%) | HR 2.08 (1.07~4.04) P=0.03 |
新たな脳卒中の発生はクロピドグレル+アスピリン群で222例(7.3%)、アスピリン群で279例(9.2%)に発生しました(ハザード比 0.79、95%信頼区間[CI] 0.66~0.94;P=0.008)。
中等度から重度の出血はクロピドグレル+アスピリン群で27例(0.9%)、アスピリン群で13例(0.4%)に発生しました(ハザード比 2.08、95%CI 1.07~4.04;P=0.03)。
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虚血性脳卒中の治療は、再発リスクを低下させるために初発から短時間で行うことが求められます。治療の主体は抗血小板薬であり、初発から24時間以内に実施された2種類の抗血小板薬を組み合わせるDual Anti-Platelet Therapy(DAPT)は、単独療法(Single Anti-Platelet Therapy, SAPT)よりも脳卒中の再発リスク低減に優れていることが報告されています。しかし、72時間以内に実施された場合における検証は充分ではありません。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果によれば、アテローム性動脈硬化が原因と推定される軽症虚血性脳卒中または高リスクTIA患者において、脳卒中発症後72時間以内に開始されたクロピドグレル+アスピリン併用療法は、アスピリン単独療法よりも90日後の新たな脳卒中発症リスクを低下させました。24時間以内だけでなく、より長時間の72時間以内においても、DAPTを行った方が患者予後に優れることが示されました。
一方、中等度から重度の出血リスクの発生数は低かったもののアスピリン単独療法よりも発生率が高いことが示されました。出血に対しては早期に対処すれば、患者予後への影響は少ないことから、過度に恐れる必要はないと考えられます。
患者背景にもよりますが、状況により治療開始までの時間がかかった場合(72時間以内)においても、DAPT実施を考慮した方が良さそうです。
続報に期待。
✅まとめ✅ アテローム性動脈硬化が原因と推定される軽症虚血性脳卒中または高リスクTIA患者において、脳卒中発症後72時間以内に開始されたクロピドグレル+アスピリン併用療法は、アスピリン単独療法よりも90日後の新たな脳卒中発症リスクを低下させたが、中等度から重度の出血リスクの発生数は低かったもののアスピリン単独療法よりも発生率が高かった。
根拠となった試験の抄録
背景:抗血小板薬2剤併用療法は、急性軽症脳梗塞発症後早期(24時間以内)に治療を開始した場合、アスピリン単独療法と比較して脳卒中再発リスクを低下させることが示されている。しかし、動脈硬化による急性脳虚血発症後72時間以内にクロピドグレル+アスピリンを投与した場合のアスピリン単独投与と比較した効果は充分に検討されていない。
方法:中国の222施設の病院において、血栓溶解療法や血栓除去術を受けていない、かつ動脈硬化が原因と推定される軽症虚血性脳卒中または高リスク一過性脳虚血発作(TIA)患者を対象とした二重盲検ランダム化プラセボ対照2×2要因試験を行った。患者は、症状発現後72時間以内に、クロピドグレル(300mgを1日目に、75mgを2~90日目に毎日投与)とアスピリン(100~300mgを1日目に、100mgを2~21日目に毎日投与)を併用する群と、クロピドグレルのプラセボとアスピリン(100~300mgを1日目に、100mgを2~90日目に毎日投与)を併用する群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。
本試験のデザインは多変量解析であり、スタチンの即時投与と遅発投与を比較した2番目の試験との間に交互作用はみられなかった(別の報告)。
有効性の主要アウトカムは新規脳卒中であり、安全性の主要アウトカムは中等度から重度の出血であった。
結果:合計6,100例の患者が登録され、3,050例が各群に割り付けられた。TIAは13.1%の患者で登録の適格イベントであった。脳卒中発症後24時間以内に治療群に割り付けられた患者は全体の12.8%、発症後24時間以降72時間以内に割り付けられた患者は全体の87.2%であった。新たな脳卒中はクロピドグレル+アスピリン群で222例(7.3%)、アスピリン群で279例(9.2%)に発生した(ハザード比 0.79、95%信頼区間[CI] 0.66~0.94;P=0.008)。中等度から重度の出血はクロピドグレル+アスピリン群で27例(0.9%)、アスピリン群で13例(0.4%)に発生した(ハザード比 2.08、95%CI 1.07~4.04;P=0.03)。
結論:アテローム性動脈硬化が原因と推定される軽症虚血性脳卒中または高リスクTIA患者において、脳卒中発症後72時間以内に開始されたクロピドグレル+アスピリン併用療法は、アスピリン単独療法よりも90日後の新たな脳卒中発症リスクを低下させたが、中等度から重度の出血リスクの発生数は低かったもののアスピリン単独療法よりも発生率が高かった。
試験登録:ClinicalTrials.gov番号 NCT03635749
引用文献
Dual Antiplatelet Treatment up to 72 Hours after Ischemic Stroke
Ying Gao et al. PMID: 38157499 DOI: 10.1056/NEJMoa2309137
N Engl J Med. 2023 Dec 28;389(26):2413-2424. doi: 10.1056/NEJMoa2309137.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38157499/
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