PCI後の血栓コントロールにおけるプラスグレル単独療法はDAPTよりも優れるのか?
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後1ヵ月以内の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy, DAPT)による出血率は、特に急性冠症候群や出血リスクの高い患者において、臨床現場では依然として高いことが報告されています。
これに対して、アスピリンフリー戦略(single antiplatelet therapy, SAPT)は心血管イベントを増加させることなくPCI後早期の出血を減少させる可能性があります。しかし、その有効性と安全性はランダム化比較試験で検証されていません。
そこで今回は、PCI直前の急性冠症候群または出血リスクの高い患者6,002例を対象に、プラスグレル(3.75mg/日)単剤療法群、またはアスピリン(81~100mg/日)とプラスグレル(3.75mg/日)を併用するDAPT群にランダムに割り付け、両群ともプラスグレル20mgを負荷し、有効性・安全性を比較検証したSTOPDAPT-3試験の結果をご紹介します。
本試験の主要評価項目は、優越性については大出血(Bleeding Academic Research Consortium 3または5)、非劣性については心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、明確なステント血栓症、脳卒中の複合)とし、相対的50%のマージンが設定されました。
試験結果から明らかになったことは?
解析対象は5,966例(アスピリンフリー群:2,984例、DAPT群:2,982例、年齢71.6±11.7歳、男性76.6%、急性冠症候群75.0%)。ランダム化前7日以内にアスピリン単独投与が21.3%、アスピリンとP2Y12阻害薬併用が6.4%、経口抗凝固薬投与が8.9%、ヘパリン静注投与が24.5%でした。プロトコールで規定された抗血小板療法の1ヵ月後のアドヒアランスは両群とも88%でした。
アスピリンフリー群 (SAPT) | DAPT群 (アスピリン+プラスグレル) | ハザード比 (95%CI) | |
主要出血エンドポイント (Bleeding Academic Research Consortium 3または5) | 4.47% | 4.71% | ハザード比 0.95 (0.75〜1.20) 優越性のP=0.66 |
主要心血管系エンドポイント (心血管死、心筋梗塞、明確なステント血栓症、脳卒中の複合) | 4.12% | 3.69% | ハザード比 1.12 (0.87〜1.45) 非劣性のP=0.01 |
1ヵ月後、アスピリンフリー群はDAPT群に対して主要出血エンドポイント(4.47% vs. 4.71%;ハザード比 0.95、95%CI 0.75〜1.20;優越性のP=0.66)において優れていませんでした。
アスピリンフリー群はDAPT群に対して、主要心血管系エンドポイントで非劣性でした(4.12% vs. 3.69%;ハザード比 1.12、95%CI 0.87〜1.45;非劣性のP=0.01)。
正味の臨床的有害転帰と主要心血管系エンドポイントの各要素に差はありませんでした。
予定外の冠動脈血行再建術(1.05% vs. 0.57%;ハザード比 1.83、95%CI 1.01〜3.30)と亜急性の確実または可能性の高いステント血栓症(0.58% vs. 0.17%;ハザード比 3.40、95%CI 1.26〜9.23)はDAPT群と比較してアスピリンフリー群で過剰でした。
コメント
PCI後に抗血小板療法としてDAPTを行うことは一般的であり、有効性・安全性の観点から、DAPT実施期間に関する検証が行われてきました。また、DAPT後のアスピリン単独療法(アスピリンによるSAPT)とDAPT継続との比較も行われており、患者によってはDAPT後のSAPTを選択することも治療選択肢の一つとなっています。一方、比較的新しい抗血小板薬を用いたアスピリンフリーSAPTとDAPTとの比較は充分に行われていません。
さて、ランダム化比較試験の結果、低用量プラスグレルを用いたアスピリンフリー戦略は、DAPT戦略と比較してPCI後1ヵ月以内の大出血については優越性を証明できませんでした。一方、PCI後1ヵ月以内の心血管イベントについては非劣性でした。予定外の冠動脈血行再建術(ハザード比 1.83、95%CI 1.01〜3.30)と亜急性の確実または可能性の高いステント血栓症(ハザード比 3.40、95%CI 1.26〜9.23)はDAPT群と比較してアスピリンフリー群で多く認められました。ただし、発生率(及び発生数)が低いことから、あくまでも傾向が示された程度に捉えておいた方が賢明であると考えられます。本試験結果のみでDAPTの方が優れているとは結論づけられないでしょう。追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 低用量プラスグレルを用いたアスピリンフリー戦略は、DAPT戦略と比較してPCI後1ヵ月以内の大出血については優越性を証明できなかったが、PCI後1ヵ月以内の心血管イベントについては非劣性であった。
根拠となった試験の抄録
背景:経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後1ヵ月以内の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)による出血率は、特に急性冠症候群や出血リスクの高い患者において、臨床現場では依然として高い。アスピリンフリー戦略は心血管イベントを増加させることなくPCI後早期の出血を減少させる可能性があるが、その有効性と安全性はランダム化試験でまだ証明されていない。
方法:PCI直前の急性冠症候群または出血リスクの高い患者6,002例を、プラスグレル(3.75mg/日)単剤療法群、またはアスピリン(81~100mg/日)とプラスグレル(3.75mg/日)を併用するDAPT群にランダムに割り付け、両群ともプラスグレル20mgを負荷した。
主要評価項目は、優越性については大出血(Bleeding Academic Research Consortium 3または5)、非劣性については心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、明確なステント血栓症、脳卒中の複合)とし、相対的50%のマージンを設定した。
結果:解析対象は5,966例(アスピリンフリー群:2,984例、DAPT群:2,982例、年齢71.6±11.7歳、男性76.6%、急性冠症候群75.0%)。ランダム化前7日以内にアスピリン単独投与が21.3%、アスピリンとP2Y12阻害薬併用が6.4%、経口抗凝固薬投与が8.9%、ヘパリン静注投与が24.5%であった。プロトコールで規定された抗血小板療法の1ヵ月後のアドヒアランスは両群とも88%であった。1ヵ月後、アスピリンフリー群はDAPT群に対して主要出血エンドポイント(4.47% vs. 4.71%;ハザード比 0.95、95%CI 0.75〜1.20;優越性のP=0.66)において優れていなかった。アスピリンフリー群はDAPT群に対して、主要心血管系エンドポイントで非劣性であった(4.12% vs. 3.69%;ハザード比 1.12、95%CI 0.87〜1.45;非劣性のP=0.01)。正味の臨床的有害転帰と主要心血管系エンドポイントの各要素に差はなかった。予定外の冠動脈血行再建術(1.05% vs. 0.57%;ハザード比 1.83、95%CI 1.01〜3.30)と亜急性の確実または可能性の高いステント血栓症(0.58% vs. 0.17%;ハザード比 3.40、95%CI 1.26〜9.23)はDAPT群と比較してアスピリンフリー群で過剰であった。
結論:低用量プラスグレルを用いたアスピリンフリー戦略は、DAPT戦略と比較してPCI後1ヵ月以内の大出血については優越性を証明できなかったが、PCI後1ヵ月以内の心血管イベントについては非劣性であった。しかし、アスピリンフリー戦略は冠動脈イベントの過剰を示唆するシグナルと関連していた。
試験登録:https://www.clinicaltrials.gov. NCT04609111
キーワード:アスピリン、二重抗血小板療法、経皮的冠動脈インターベンション
引用文献
An Aspirin-Free Versus Dual Antiplatelet Strategy for Coronary Stenting: STOPDAPT-3 Randomized Trial
Masahiro Natsuaki et al. PMID: 37994553 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.066720
Circulation. 2023 Nov 23. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.066720. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37994553/
コメント