インフルエンザウイルス感染症治療薬としてバロキサビル マルボキシルとオセルタミビル、どちらが良いのか?
新たに開発されたキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるバロキサビル マルボキシル(Baloxavir marboxil, BXM)は、入院患者および外来患者におけるインフルエンザウイルス感染症の治療に広く使用されています。
以前のメタ解析では、外来患者および臨床症状からインフルエンザウイルス感染が疑われる患者のみを対象としていました。しかし、入院患者に対してバロキサビル マルボキシルとオセルタミビルのどちらがより安全で有効であるかについては、依然として議論の余地があります。
そこで今回は、インフルエンザウイルス感染症の入院患者におけるバロキサビル マルボキシルとオセルタミビルの有効性と安全性を検証するために実施された系統的レビューとメタ解析の結果をご紹介します。
本解析では、Scopus、EMBASE、PubMed、Ichushi、CINAHLの各データベースから、2023年1月までに発表された論文が系統的に検索されました。
本試験のアウトカムは、インフルエンザウイルス感染症患者の死亡率、入院期間、バロキサビル マルボキシルまたはオセルタミビル関連の有害事象の発生率、罹病期間、ウイルス力価およびウイルスRNA量の変化でした。
試験結果から明らかになったことは?
外来患者1,624例を対象とした2件のランダム化比較試験と、入院患者874例を対象とした2件のレトロスペクティブ研究が登録されました。
バロキサビル マルボキシルまたはオセルタミビルによる治療を受けた外来患者で死亡例は発生しませんでした。
入院患者では、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルと比較して死亡率を低下させ(p=0.06)、入院期間を有意に短縮しました(p=0.01)。
外来患者においては、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルと比較して、有害事象の発現率が有意に低く(p=0.03)、インフルエンザウイルス力価(p<0.001)およびウイルスRNA量(p<0.001)が減少し、罹病期間が短い傾向が示されました(p=0.27)。
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インフルエンザウイルスを対象とした抗ウイルス薬として、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるバロキサビル マルボキシルは比較的新しいインフルエンザ治療薬です。実臨床での使用実績が豊富なオセルタミビルとの比較検討は充分に行われていません。
さて、2件のランダム化比較試験と2件のレトロスペクティブ研究を組み入れたメタ解析の結果、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルよりも安全かつ有効である可能性が示されました。しかし、対象となった試験数は4件と少なく、出版バイアスの影響が大きいと考えられます。また、4件のうちの2件は後向きの観察研究であることからバイアスが入り込みやすく試験の質(内的妥当性)が低いと考えられます(入院患者を対象にしたのは観察研究の2件)。さらに、異なる試験の結果を統合する際に重要となる異質性の評価が充分ではありません。本解析における患者集団の年齢は、バロキサビル群の方が若く、そもそも重症化や死亡リスクが低い可能性が高いと考えられます。したがって、結果を統合するには不適切である可能性が高いと言えます。
以上のことから本メタ解析の結果から、オセルタミビルよりもバロキサビルが優れているとは結論づけられません。また、費用対効果についても検証が求められます。
続報を待ちたいところです。
✅まとめ✅ メタ解析の結果、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルよりも安全かつ有効である可能性が示されたが、試験数が少なく、試験の質が低く、結果を統合するには不適切である可能性がある。
根拠となった試験の抄録
はじめに:新たに開発されたキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるバロキサビル マルボキシル(Baloxavir marboxil, BXM)は、入院患者および外来患者におけるインフルエンザウイルス感染症の治療に広く使用されている。以前のメタ解析では、外来患者および臨床症状からインフルエンザウイルス感染が疑われる患者のみを対象としていた。しかし、入院患者に対してバロキサビル マルボキシルとオセルタミビルのどちらがより安全で有効であるかについては、依然として議論の余地がある。そこで、インフルエンザウイルス感染症の入院患者におけるバロキサビル マルボキシルとオセルタミビルの有効性と安全性を検証するために、系統的レビューとメタ解析を行った。
方法:Scopus、EMBASE、PubMed、Ichushi、CINAHLの各データベースから、2023年1月までに発表された論文を系統的に検索した。
アウトカムは、インフルエンザウイルス感染症患者の死亡率、入院期間、バロキサビル マルボキシルまたはオセルタミビル関連の有害事象の発生率、罹病期間、ウイルス力価およびウイルスRNA量の変化とした。
結果:外来患者1,624例を対象とした2件のランダム化比較試験と、入院患者874例を対象とした2件のレトロスペクティブ研究が登録された。バロキサビル マルボキシルまたはオセルタミビルによる治療を受けた外来患者で死亡例はなかった。入院患者では、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルと比較して死亡率を低下させ(p=0.06)、入院期間を有意に短縮した(p=0.01)。外来患者においては、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルと比較して、有害事象の発現率が有意に低く(p=0.03)、インフルエンザウイルス力価(p<0.001)およびウイルスRNA量(p<0.001)が減少し、罹病期間が短い傾向にあった(p=0.27)。
結論:メタ解析の結果、バロキサビル マルボキシルはオセルタミビルよりも安全かつ有効であることが示された。したがって、インフルエンザウイルス感染が証明された患者の初期治療にバロキサビル マルボキシルを使用することが支持される。
キーワード:バロキサビル マルボキシル、インフルエンザウイルス、メタアナリシス、オセルタミビル
引用文献
Comparison of clinical efficacy and safety of baloxavir marboxil versus oseltamivir as the treatment for influenza virus infections: A systematic review and meta-analysis
Chihiro Shiraishi et al. PMID: 37866622 DOI: 10.1016/j.jiac.2023.10.017
J Infect Chemother. 2023 Oct 20:S1341-321X(23)00262-3. doi: 10.1016/j.jiac.2023.10.017. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37866622/
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