冠動脈疾患患者の予後における各スタチンの影響は?
成人の冠動脈疾患患者におけるロスバスタチン投与とアトルバスタチン投与の長期的な有効性と安全性については充分に検討されていません。
そこで今回は、ランダム化、オープンラベル、多施設共同試験であるLODESTAR試験の二次解析の結果をご紹介します。
本試験は、韓国の12病院で2016年9月~2019年11月に行われました。試験の対象者は、冠動脈疾患を有する成人 4,400例(年齢19歳以上)でした。
試験参加者は、2×2要因ランダム化を用いて、ロスバスタチン(n=2,204)またはアトルバスタチン(n=2,196)を投与する群に割り付けられました。
本試験の主要アウトカムは3年間の全死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合でした。副次的アウトカムは安全性エンドポイントであり、糖尿病の新規発症、心不全による入院、深部静脈血栓症または肺血栓塞栓症、末梢動脈疾患に対する血管内再灌流、大動脈インターベンションまたは手術、末期腎疾患、不耐性による試験薬の中止、白内障手術、および検査で検出された異常の複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
4,400例中4,341例(98.7%)が試験を完了しました。3年後の試験薬の1日平均投与量は、ロスバスタチン群で17.1mg(標準偏差 SD 5.2mg)、アトルバスタチン群で36.0(SD 12.8)mgでした(P<0.001)。
ロスバスタチン群 | アトルバスタチン群 | ハザード比 (95%信頼区間) | |
主要転帰 (3年間の全死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合) | 189例(8.7%) | 178例(8.2%) | ハザード比 1.06 (0.86~1.30) P=0.58 |
主要転帰は、ロスバスタチン群189例(8.7%)、アトルバスタチン群178例(8.2%)で発生しました(ハザード比 1.06、95%信頼区間 0.86~1.30;P=0.58)。
ロスバスタチン群 | アトルバスタチン群 | |
治療中のLDLコレステロール値 | 平均1.8 mmol/L (SD 0.5) P<0.001 | 平均1.9 mmol/L (SD 0.5) |
治療中の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値の平均は、ロスバスタチン群で1.8(SD 0.5)mmol/L(69.66mg/dL)、アトルバスタチン群で1.9(SD 0.5)mmol/L(73.53mg/dL)でした(P<0.001)。
ロスバスタチン群 | アトルバスタチン群 | ハザード比 (95%信頼区間) | |
糖尿病の新規発症率 | 7.2% | 5.3% | ハザード比 1.39 (1.03~1.87) P=0.03 |
白内障手術 | 2.5% | 1.5% | ハザード比 1.66 (1.07~2.58) P=0.02 |
ロスバスタチン群では、抗糖尿病薬の開始を必要とする糖尿病の新規発症率が高く(7.2% vs. 5.3%;ハザード比 1.39、95%信頼区間 1.03~1.87;P=0.03)、白内障手術(2.5% vs. 1.5%;ハザード比 1.66、95%信頼区間 1.07~2.58;P=0.02)の発生も高いことが示されました。
その他の安全性エンドポイントは両群間に差はありませんでした。
コメント
国内外のコホート研究の結果により、LDLコレステロールの上昇に伴い冠動脈疾患の発症や死亡リスクが増加することが報告されています。HMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン系薬によるLDLコレステロール低下により、スタチン系薬の非投与と比較して、冠動脈疾患患者の予後が改善することが知られています。しかし、スタン系薬間の比較は充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の二次解析の結果、成人の冠動脈疾患患者において、ロスバスタチンとアトルバスタチンは3年後の全死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合アウトカムに対して同等の有効性を示しました。ただし、ロスバスタチン投与群では抗糖尿病薬を必要とする糖尿病の新規発症と白内障手術のリスクが高いことも示されました。
治療中のLDLコレステロールの平均については0.1mmol/L(4mg/dL)の差がありますが、70mg/dL前後であれば、スタチン間の患者予後への差はなさそうです。一方で、ロスバスタチン投与群においては、治療を要する糖尿病の発症や、白内障の発症リスクが増加することから、アトルバスタチンよりもロスバスタチンを優先的に使用する意義は低いと考えられます。ただし、1日平均投与量は、ロスバスタチン群で17.1mg(標準偏差 SD 5.2mg)、アトルバスタチン群で36.0(SD 12.8)mgであり、日本における承認用量(ロスバスタチン:10mg/日、アトルバスタチン:20mg/日)よりも多い点は結果の解釈に注意を要します。※家族成高コレステロール血症の患者がどの程度含まれていたかは明記されていない。
日本人においても同様の傾向が示されるか検証が求められますが、同じアジア人種であることから本試験結果の外挿はある程度の信頼性をもって行えると考えられます。
✅まとめ✅ 成人の冠動脈疾患患者において、ロスバスタチンとアトルバスタチンは3年後の全死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合アウトカムに対して同等の有効性を示した。ただし、ロスバスタチン投与群では抗糖尿病薬を必要とする糖尿病の新規発症と白内障手術のリスクが高かった。
根拠となった試験の抄録
目的:成人冠動脈疾患患者におけるロスバスタチン投与とアトルバスタチン投与の長期有効性と安全性を比較すること。
試験デザイン:ランダム化、オープンラベル、多施設共同試験。
試験設定:韓国の12病院、2016年9月~2019年11月。
試験参加者:冠動脈疾患を有する成人 4,400例(年齢19歳以上)。
介入:参加者は、2×2要因ランダム化を用いて、ロスバスタチン(n=2,204)またはアトルバスタチン(n=2,196)を投与する群に割り付けられた。
主要評価項目:主要アウトカムは3年間の全死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合であった。副次的アウトカムは安全性エンドポイントとした:糖尿病の新規発症、心不全による入院、深部静脈血栓症または肺血栓塞栓症、末梢動脈疾患に対する血管内再灌流、大動脈インターベンションまたは手術、末期腎疾患、不耐性による試験薬の中止、白内障手術、および検査で検出された異常の複合。
結果:4,400例中4,341例(98.7%)が試験を完了した。試験薬の1日平均投与量は、3年後にロスバスタチン群で17.1mg(標準偏差 SD 5.2mg)、アトルバスタチン群で36.0(SD 12.8)mgであった(P<0.001)。主要転帰は、ロスバスタチン群189例(8.7%)、アトルバスタチン群178例(8.2%)で発生した(ハザード比 1.06、95%信頼区間 0.86~1.30;P=0.58)。治療中の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値の平均は、ロスバスタチン群で1.8mmol/L(SD 0.5mmol/L)、アトルバスタチン群で1.9(SD 0.5)mmol/Lであった(P<0.001)。ロスバスタチン群では、抗糖尿病薬の開始を必要とする糖尿病の新規発症率が高く(7.2% vs. 5.3%;ハザード比 1.39、95%信頼区間 1.03~1.87;P=0.03)、白内障手術(2.5% vs. 1.5%;ハザード比 1.66、95%信頼区間 1.07~2.58;P=0.02)であった。その他の安全性エンドポイントは両群間に差はなかった。
結論:成人の冠動脈疾患患者において、ロスバスタチンとアトルバスタチンは3年後の全死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合アウトカムに対して同等の有効性を示した。ロスバスタチンはアトルバスタチンと比較して、LDLコレステロール値は低かったが、抗糖尿病薬を必要とする糖尿病の新規発症と白内障手術のリスクが高かった。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov NCT02579499
引用文献
Rosuvastatin versus atorvastatin treatment in adults with coronary artery disease: secondary analysis of the randomised LODESTAR trial
Yong-Joon Lee et al. PMID: 37852649 PMCID: PMC10583134 DOI: 10.1136/bmj-2023-075837
BMJ. 2023 Oct 18:383:e075837. doi: 10.1136/bmj-2023-075837.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37852649/
コメント