プロトンポンプ阻害薬の累積使用と認知症リスクに関連性はありますか?(コホート研究; Neurology. 2023)

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PPI使用と認知症発症リスクとの関連性はどのくらいなのか?

プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用と認知症との関連に関する研究では、さまざまな結果が報告されています。しかし、PPIの累積使用の影響については検討されていません。

そこで今回は、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究において、現在および累積のPPI使用と認知症発症リスクとの関連を評価した研究結果をご紹介します。

これらの解析では、登録時(1987~89年)から2017年までの地域住民ベースのコホート(ARIC)の参加者データが用いられました。PPIの使用は、クリニックのVisit 1(1987~89年)からVisit 5(2011~13年)において視覚的投薬目録により評価され、研究の電話連絡(2006~2011年)において毎年報告されました。本研究では、PPI使用が一般的であった最初の診察であるARICのVisit 5をベースラインとしています。

PPIの使用は、Visit 5における現在の使用と、Visit 5以前の使用期間(Visit1~2011、曝露カテゴリー: 0日、1日~2.8年、2.8~4.4年、4.4年超)の2つの方法で検討されました。

アウトカムはVisit 5後の認知症発症でした。Cox比例ハザードモデルを使用し、人口統計、併存疾患、他の薬剤の使用で調整されました。

試験結果から明らかになったことは?

Visit 5の来院時に認知症を有していない5,712例(平均年齢 75.4±5.1歳、黒人22%、女性58%)が解析に組み入れられました。追跡期間中央値は5.5年でした。PPIの累積使用期間は、最短で112日、最長で20.3年でした。追跡期間中央値での認知症発症は585例でした。

Visit 5でPPIを使用していた参加者は、PPIを使用していなかった参加者に比べ、その後の追跡期間中に認知症を発症するリスクは有意に高くありませんでした(ハザード比(HR) 1.1、95%信頼区間(CI) 0.9〜1.3)。

Visit 5以前にPPIを累積4.4年以上使用していた集団ハザード比 HR
vs. PPIを使用していない集団
認知症を発症するリスクHR 1.3(95%CI 1.0〜1.8

Visit 5以前にPPIを累積4.4年以上使用していた人は、使用していないと報告した人に比べ、追跡期間中に認知症を発症するリスクが33%高かいことが示されました(HR 1.3、95%CI 1.0〜1.8)。

PPIの使用量が少ない場合には、有意な関連はみられませんでした。

コメント

プロトンポンプ阻害薬は、胃酸産生を強力に抑制することから、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの治療に用いられています。また、抗血小板薬や抗凝固薬などによる消化管出血のリスク低減のために併用されることもあります。

これまでの研究結果から、プロトンポンプ阻害薬の使用と各有害事象の発生リスクとの関連性が報告されており、特に認知症の発症リスクとの関連性について関心が寄せられています。

さて、人口ベースのコホート研究の結果、45歳以上で処方されたPPIを4.4年以上使用することは、新たに診断された認知症の高い発生率と関連することが示されました。

これまでの報告と矛盾しません。さらには、PPIの累積使用についても明らかにしている点は本研究の強みであると考えられます。限界としては、人口統計、併存疾患、他の薬剤の使用について調整しているものの、依然として交絡因子が残存しているため、追加の検証が求められます。また誤分類バイアスの影響も考えられます。

とはいえ、これまでの研究結果も踏まえると、PPIを安易に、漫然と使用することは避けた方が良さそうです。どのような患者でPPI使用のリスクをベネフィットが上回るのか検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 45歳以上で処方されたPPIを4.4年以上使用することは、新たに診断された認知症の高い発生率と関連する

根拠となった試験の抄録

背景:プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用と認知症との関連に関する研究では、さまざまな結果が報告されており、PPIの累積使用の影響については検討されていない。我々は、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究において、現在および累積のPPI使用と認知症発症リスクとの関連を評価した。

方法:これらの解析では、登録時(1987~89年)から2017年までの地域住民ベースのコホート(ARIC)の参加者を用いた。PPIの使用は、クリニックのVisit 1(1987~89年)からVisit 5(2011~13年)において視覚的投薬目録により評価され、研究の電話連絡(2006~2011年)において毎年報告された。本研究では、PPI使用が一般的であった最初の診察であるARICのVisit 5をベースラインとしている。PPIの使用は、Visit 5における現在の使用と、Visit 5以前の使用期間(Visit 1〜2011、曝露カテゴリー: 0日、1日-2.8年、2.8〜4.4年、>4.4年)。
アウトカムはVisit 5後の認知症発症であった。Cox比例ハザードモデルを使用し、人口統計、併存疾患、他の薬剤の使用で調整した。

結果:Visit 5の来院時に認知症を有していない5,712例(平均年齢 75.4±5.1歳、黒人22%、女性58%)が解析に組み入れられた。追跡期間中央値は5.5年であった。PPIの累積使用期間は、最短で112日、最長で20.3年であった。追跡期間中央値での認知症発症は585例であった。Visit 5でPPIを使用していた参加者は、PPIを使用していなかった参加者に比べ、その後の追跡期間中に認知症を発症するリスクは有意に高くなかった(ハザード比(HR) 1.1、95%信頼区間(CI) 0.9〜1.3)。Visit 5以前にPPIを累積4.4年以上使用していた人は、使用していないと報告した人に比べ、追跡期間中に認知症を発症するリスクが33%高かった(HR 1.3、95%CI 1.0〜1.8)。PPIの使用量が少ない場合には、有意な関連はみられなかった。

考察:PPIの累積使用と認知症発症との間の可能性のある経路を理解するためには、今後の研究が必要である。

証拠の分類:この研究は、45歳以上で処方されたPPIを4.4年以上使用することが、新たに診断された認知症の高い発生率と関連するというクラスIIIの証拠を提供する。

キーワード:加齢、認知症、プロトンポンプ阻害薬

引用文献

Cumulative Use of Proton Pump Inhibitors and Risk of Dementia: The Atherosclerosis Risk in Communities Study
Carin Northuis et al. PMID: 37558503 DOI: 10.1212/WNL.0000000000207747
Neurology. 2023 Aug 9;10.1212/WNL.0000000000207747. doi: 10.1212/WNL.0000000000207747. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37558503/

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