食事の口移し予防効果はどのくらいなのか?
小児の口腔内細菌は主に母親から感染することが示唆されており、小児の齲蝕罹患率とその両親の齲蝕罹患率の関係を説明しているのかもしれません。しかし、口腔内細菌の垂直伝播を防止するための対策が小児の齲蝕レベルに及ぼす影響について検討した研究はほとんどなく、研究結果には賛否両論があります。
そこで今回は、口腔内細菌の垂直伝播防止策と3歳児のう蝕経験との関連を調査した横断研究の結果をご紹介します。
本試験では、3歳児を対象とした歯科検診とその保育者を対象とした自記式質問票からデータが収集されました。口腔内細菌の垂直伝播を予防するための行動に関する変数として、母親による食器の共有と養育者と小児の間の口移し給仕の欠如が用いられました。性別、月齢、食行動、口腔衛生行動、社会人口統計学的因子が共変量とされました。
試験結果から明らかになったことは?
3,035例の小児(対象者の73.5%)のデータが分析されました。垂直感染予防を実践している養育者は、口腔保健行動が良好な傾向にありました。
オッズ比 | |
垂直感染予防行動と虫歯経験 | OR 1.10 (95%CI 0.86〜1.41) |
多変量ロジスティック回帰分析では、垂直感染予防行動とう蝕経験との間に有意な関連は認められませんでした(OR 1.10、95%CI 0.86〜1.41)。
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2023年8月31日、一般社団法人日本口腔衛生学会から「乳幼児期における親との食器共有について」と題した声明文が公表されました。この声明文のうち、今回取り上げた論文を根拠に「う蝕に関連する複数の要因を調べた日本の研究では、3歳児において親との食器共有とう蝕との関連性は認められていません」と述べられています。この根拠はどの程度の確実性があるのか元論文を読んでみました。
さて、日本のアンケート調査に基づく研究結果によれば、垂直感染を予防するための養育者の行動は、小児う蝕のレベルを低下させるのに有効ではないことが示唆されました。
ただし、本試験は2011年以前に行われたアンケート結果に基づいており、現在の日本の状況を反映していない可能性が高いと考えられます。また、一つの時点の結果のみに基づいていることから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。
したがって、本試験結果のみで、親との食器共有とう蝕との関連性について結論づけることは困難であると考えられます。より質の高い前向き研究の実施、あるいは複数時点の横断研究の実施が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本のアンケート調査に基づく研究結果によれば、垂直感染を予防するための養育者の行動は、小児う蝕のレベルを低下させるのに有効ではないことが示唆されたが、より質の高い前向き研究の実施が求められる。
根拠となった試験の抄録
背景:小児の口腔内細菌は主に母親から感染することが示唆されている。そのことが、小児の齲蝕罹患率とその両親の齲蝕罹患率の関係を説明しているのかもしれない。しかし、口腔内細菌の垂直伝播を防止するための対策が小児の齲蝕レベルに及ぼす影響について検討した研究はほとんどなく、研究結果には賛否両論がある。本研究の目的は、口腔内細菌の垂直伝播防止策と3歳児のう蝕経験との関連を調査することである。
方法:3歳児を対象とした歯科検診とその保育者を対象とした自記式質問票からデータを収集した。口腔内細菌の垂直伝播を予防するための行動に関する変数として、母親による食器の共有と養育者と小児の間の口移し給仕の欠如を用いた。性別、月齢、食行動、口腔衛生行動、社会人口統計学的因子を共変量として用いた。
結果:3,035例の小児(対象者の73.5%)のデータが分析された。垂直感染予防を実践している養育者は、口腔保健行動が良好な傾向にあった。多変量ロジスティック回帰分析では、垂直感染予防行動とう蝕経験との間に有意な関連は認められなかった(OR 1.10、95%CI 0.86〜1.41)。
結論:この研究から、垂直感染を予防するための養育者の行動は、小児う蝕のレベルを低下させるのに有効ではないことが示唆された。
引用文献
Association between caregiver behaviours to prevent vertical transmission and dental caries in their 3-year-old children
S Wakaguri et al. PMID: 21576961 DOI: 10.1159/000327211
Caries Res. 2011;45(3):281-6. doi: 10.1159/000327211. Epub 2011 May 12.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21576961/
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