エンドセリン受容体拮抗薬であるアトラセンタンは疼痛軽減と関連するのか?
疼痛は糖尿病や慢性腎臓病(CKD)患者に多くみられます。これらの患者における慢性疼痛の管理は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイドを含む一般的に使用される薬剤の腎毒性によって制限されています。
これまでの研究でエンドセリン-1が疼痛の侵害受容に関与していることが示唆されていますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、SONAR試験の事後解析において、エンドセリン受容体拮抗薬アトラセンタンと疼痛および鎮痛薬の処方との関連を評価した試験の結果をご紹介します。
SONAR試験はランダム化二重盲検プラセボ対照臨床試験であり、2型糖尿病とCKD(推定糸球体濾過量 25〜75mL/min/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比 300〜5,000mg/g)の参加者を対象としました。参加者はアトラセンタン投与群またはプラセボ投与群にランダムに割り付けられました(各群 1,834例)。
本試験の主要アウトカムは治験責任医師により報告された疼痛関連の有害事象(AE)でした。Cox回帰を適用し、アトラセンタンのプラセボに対する効果を、最初に報告された疼痛関連AE、次に鎮痛薬の初回処方のリスクについて評価されました。Anderson-Gill法を用いて、すべての(初回およびその後の)疼痛関連AEに対する効果が評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
中央値2.2年の追跡期間中に1,183件の疼痛関連AEが発生しました。
アトラセンタン群 (1,000人・年当たり) | プラセボ群 (1,000人・年当たり) | リスク (95%信頼区間) vs. プラセボ群 | |
最初の疼痛関連事象の発生率 | 138.2件 | 170.2件 | ハザード比 0.82 (0.72〜0.93) |
全疼痛関連AEの発生率 | – | – | 発生率比 0.80 (0.70〜0.91) |
全疼痛関連AEの発生率(調整後) | – | – | サブハザード比 0.81 (0.71〜0.92) |
NSAIDsやオピオイドを含む鎮痛薬の開始 | – | – | ハザード比 0.72 (0.60〜0.88) |
最初の疼痛関連事象の発生率は、アトラセンタン群で1,000人・年当たり138.2件、プラセボ群で170.2件でした(ハザード比 0.82、95%信頼区間 0.72〜0.93)。アトラセンタンはまた、すべての(初回およびその後の)疼痛関連AEの発生率を減少させました(発生率比 0.80、0.70〜0.91)。これらの所見は、死亡の競合リスクを考慮しても同様でした(サブハザード比 0.81、0.71〜0.92)。
アトラセンタンを投与された患者はプラセボと比較して、追跡期間中にNSAIDsやオピオイドを含む鎮痛薬の開始が少ないことと関連していました(ハザード比 0.72、0.60〜0.88)。
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エンドセリン(ET)-1は、組織傷害、機械的ストレス、低酸素および炎症に反応して産生される強力な内因性多能性ペプチドです。ET1もその受容体も、末梢および中枢の痛覚神経経路に沿った侵害受容器を含め、全身に広く発現していることが報告されています(PMID: 25210474、PMID: 11157085)。筋骨格系の疼痛や関節炎など、痛みが支配的な状態では、全身のET-1レベルが上昇することが知られています。ET-1は、エンドセリンA(ETA)およびエンドセリンB(ETB)受容体を介して、痛覚を刺激し感作します。
ET-1は、CKDの進行にも関与し、さまざまな臨床試験においてエンドセリン受容体拮抗薬がアルブミン尿を減少させることが証明されています(PMID: 26229089、PMID: 19144760、PMID: 37015244)。しかし、エンドセリン拮抗薬の使用が、2型糖尿病/慢性腎臓病(CKD)における疼痛緩和に関連しているのかについては明らかになっていません。
さて、SONAR試験の事後解析によれば、アトラセンタンは、慎重に選択された2型糖尿病およびCKD患者において、疼痛関連イベントおよび疼痛に関連した鎮痛薬の使用を減少させることに関連していました。
ランダム化比較試験の事後解析の結果であることから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎず、交絡因子が残存している可能性があります。前向き試験での検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ アトラセンタンは、慎重に選択された2型糖尿病およびCKD患者において、疼痛関連イベントおよび疼痛に関連した鎮痛薬の使用を減少させることに関連した。
根拠となった試験の抄録
背景:疼痛は糖尿病や慢性腎臓病(CKD)患者に多くみられる。これらの患者における慢性疼痛の管理は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイドを含む一般的に使用される薬剤の腎毒性によって制限されている。これまでの研究でエンドセリン-1が疼痛の侵害受容に関与していることが示唆されているため、SONAR試験の事後解析では、エンドセリン受容体拮抗薬アトラセンタンと疼痛および鎮痛薬の処方との関連を評価した。
方法:SONAR試験はランダム化二重盲検プラセボ対照臨床試験であり、2型糖尿病とCKD(推定糸球体濾過量 25〜75mL/min/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比 300〜5,000mg/g)の参加者を募集した。参加者はアトラセンタン投与群またはプラセボ投与群にランダムに割り付けられた(各群 1,834例)。
主要アウトカムは治験責任医師により報告された疼痛関連の有害事象(AE)であった。Cox回帰を適用し、アトラセンタンのプラセボに対する効果を、最初に報告された疼痛関連AE、次に鎮痛薬の初回処方のリスクについて評価した。Anderson-Gill法を用いて、すべての(初回およびその後の)疼痛関連AEに対する効果を評価した。
結果:中央値2.2年の追跡期間中に1,183件の疼痛関連AEが発生した。最初の疼痛関連事象の発生率は、アトラセンタン群で1,000人・年当たり138.2件、プラセボ群で170.2件であった(ハザード比0.82、95%信頼区間 0.72〜0.93)。アトラセンタンはまた、すべての(初回およびその後の)疼痛関連AEの発生率を減少させた(発生率比 0.80、0.70〜0.91)。これらの所見は、死亡の競合リスクを考慮しても同様であった(サブハザード比 0.81、0.71〜0.92)。アトラセンタンを投与された患者はプラセボと比較して、追跡期間中にNSAIDsやオピオイドを含む鎮痛薬の開始が少なかった(ハザード比 0.72、0.60〜0.88)。
結論:したがって、アトラセンタンは、慎重に選択された2型糖尿病およびCKD患者において、疼痛関連イベントおよび疼痛に関連した鎮痛薬の使用を減少させることに関連した。
キーワード:エンドセリン-1、鎮痛薬、アトラセンタン、慢性腎臓病、糖尿病、エンドセリン受容体拮抗薬、非ステロイド性抗炎症薬、オピオイド、疼痛
引用文献
Post-hoc analysis of the SONAR trial indicates that the endothelin receptor antagonist atrasentan is associated with less pain in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease
Kam Wa Chan et al. PMID: 37657768 DOI: 10.1016/j.kint.2023.08.014
Kidney Int. 2023 Aug 30;S0085-2538(23)00610-5. doi: 10.1016/j.kint.2023.08.014. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37657768/
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