心房細動患者の予後と降圧薬との関連性は?
動脈性高血圧は心房細動(AF)における最も一般的な心血管合併症であることが報告されています。しかし、心房細動における高血圧の管理戦略について検討した研究はほとんどありません。
そこで今回は、イタリア全国で進行中のSTART登録から経口抗凝固薬を服用している5,769例の心房細動患者を対象に降圧薬の処方と死亡リスクを調査した人口ベースのレジストリ研究の結果をご紹介します。性別と主な心血管合併症によるサブグループ解析についても行われました。
試験結果から明らかになったことは?
平均年齢は80.8歳、女性は46.1%、高血圧患者は80.3%でした。
各薬剤の使用率 | |
利尿薬 | |
フロセミド | 30.1% |
ヒドロクロロチアジド | 15.4% |
カンレノ酸カリウム | 7.9% |
β遮断薬 | |
ビソプロロール | 34.2% |
アテノロール | 6.2% |
アンジオテンシン変換酵素阻害薬 | |
ラミプリル | 20.9% |
エナラプリル | 5.3% |
ペリンドプリル | 2.8% |
アンジオテンシン受容体拮抗薬 | |
バルサルタン | 7.6% |
イルベサルタン | 6.4% |
カルシウム拮抗薬 | |
アムロジピン | 14.0% |
レルカニジピン | 2.3% |
最も頻用された利尿薬はフロセミド(30.1%)、次いでヒドロクロロチアジド(15.4%)、カンレノ酸カリウム(7.9%)でした。61.1%がβ遮断薬を投与されていた(34.2%がビソプロロール、6.2%がアテノロール)。さらに、36.9%がアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I:ラミプリル 20.9%、エナラプリル 5.3%、ペリンドプリル 2.8%)、31.7%がアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB:バルサルタン 7.6%、イルベサルタン 6.4%)を使用していました。アムロジピンは14.0%、レルカニジピンは2.3%でした。
男性ではACE-I(p<0.001)、α遮断薬(p=0.020)、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(p=0.004)の使用が多く、女性ではARB(p=0.008)、サイアザイド系利尿薬(p<0.001)、β遮断薬(p<0.001)の使用が多いことが示されました。
ハザード比 HR (95%信頼区間 CI) | |
ACE-I | HR 0.758 (0.612〜0.940) p=0.012 |
ARB | HR 0.623 (0.487〜0.796) p<0.001 |
利尿薬 | HR 1.608 (1.305〜1.982) p<0.001 |
D-CCB | HR 0.935 (0.721〜1.211) p=0.610 |
β遮断薬 | HR 1.100 (0.903〜1.339) p=0.343 |
脂質低下薬 | HR 0.715 (0.570〜0.897) p=0.004 |
22.61±17.1ヵ月の間に512例が死亡しました。多変量Cox回帰分析の結果、ACE-I(ハザード比[HR] 0.758、95%信頼区間[95%CI] 0.612〜0.940、p=0.012)とARB(HR 0.623、95%CI 0.487〜0.796、p<0.001)は死亡率と逆相関していました。ACE-I/ARBは男女および糖尿病患者において死亡率と逆相関を示しました。この関連は心血管系疾患の既往のある患者ではACE-Iで、HFではARBで明らかでした。
コメント
高齢の心房細動における高血圧の管理戦略について検討した研究はほとんどありません。高齢者では心不全など多くの併存疾患を有していることから、降圧薬による予後への影響についての検証が求められます。
さて、イタリアのレジストリ研究において、ACE-I/ARBを使用している高齢の心房細動患者では死亡リスクが低いことが示されました。利尿薬やジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、β遮断薬では、死亡リスクの低減効果は示されませんでした。ただし、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。
どのような因子が影響しているのかについての検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ACE-I/ARBを使用している高齢の心房細動患者では死亡リスクが低いことが示された。
根拠となった試験の抄録
ハイライト
-高血圧性心房細動患者ではACE-Iが36.9%、ARBが31.7%、D-CCBが16.3%であった。
-ACE-I、α遮断薬、D-CCBは男性に多かった。
-女性ではARB、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬が多かった。
-ACE-IとARBは心房細動患者の死亡リスクと逆相関していた。
背景:動脈性高血圧は心房細動(AF)における最も一般的な心血管合併症である。心房細動における高血圧の管理戦略について検討した研究はほとんどない。
材料と方法:イタリア全国で進行中のSTART登録から経口抗凝固薬を服用している5,769例の心房細動患者を対象とした。降圧薬の処方と死亡リスクを調査した。性別と主な心血管合併症によるサブグループ解析を行った。
結果:平均年齢は80.8歳、女性は46.1%、高血圧患者は80.3%であった。最も頻用された利尿薬はフロセミド(30.1%)、次いでヒドロクロロチアジド(15.4%)、カンレノ酸カリウム(7.9%)であった。61.1%がβ遮断薬を投与されていた(34.2%がビソプロロール、6.2%がアテノロール)。さらに、36.9%がアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I:ラミプリル 20.9%、エナラプリル 5.3%、ペリンドプリル 2.8%)、31.7%がアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB:バルサルタン 7.6%、イルベサルタン 6.4%)を使用していた。アムロジピンは14.0%、レルカニジピンは2.3%であった。男性ではACE-I(p<0.001)、α遮断薬(p=0.020)、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(p=0.004)が多く、女性ではARB(p=0.008)、サイアザイド系利尿薬(p<0.001)、β遮断薬(p<0.001)が多かった。
22.61±17.1ヵ月の間に512例が死亡した。多変量Cox回帰分析の結果、ACE-I(ハザード比[HR] 0.758、95%信頼区間[95%CI] 0.612〜0.940、p=0.012)とARB(HR 0.623、95%CI 0.487〜0.796、p<0.001)は死亡率と逆相関していた。ACE-I/ARBは男女および糖尿病患者において死亡率と逆相関を示した。この関連は心血管系疾患の既往のある患者ではACE-Iで、HFではARBで明らかであった。
結論:ACE-I/ARBを使用している心房細動患者では死亡リスクが低いことが示された。降圧薬の処方パターンは男女で異なっている。
引用文献
Renin‐angiotensin-aldosterone system inhibitors and mortality risk in elderly patients with atrial fibrillation. Insights from the nationwide START registry
Danilo Menichelli et al.
European Journal of Internal Medicin 2023
Published:August 28, 2023 DOI:https://doi.org/10.1016/j.ejim.2023.08.019
ー 続きを読む https://www.ejinme.com/article/S0953-6205(23)00303-5/fulltext
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