抗アミロイド治療の効果が得られそうな患者はどのくらいいるのか?
アルツハイマー病(AD)の治療選択肢は限られており、主に対症療法とQOLの改善に焦点が当てられてきました。最近、抗βアミロイドモノクローナル抗体(mAbs)であるlecanemab(レカネマブ)が、バイオマーカーで確認された症候性ADの初期段階における治療薬として、2023年1月6日に承認米国食品医薬品局(FDA)より迅速承認を取得しました。さらに抗βアミロイドmAbsであるアデュカヌマブが2021年に承認され、近い将来さらに多くの抗βアミロイドmAbsが使用可能になる可能性があります。日本においても2023年8月21日、レカネマブの承認を了承しました。
このように非常に関心の高い領域であるのにも関わらず、一般集団で利用可能なバイオマーカーを有する成人に対する抗βアミロイドmAbsの適格性基準の適用性と一般化に関する研究は充分に実施されていません。
そこで今回は、集団ベースのMayo Clinic Study of Aging(MCSA)の早期AD参加者にレカネマブ治療の臨床試験適格基準を適用し、抗アミロイド治療(レカネマブとアデュカヌマブ)の一般化可能性を評価することを目的に実施された研究の結果をご紹介します。本研究の副次的目的は、MCSA参加者におけるアデュカヌマブ治療の臨床試験適格基準を適用することでした。
試験結果から明らかになったことは?
軽度認知障害(MCI)または軽度認知症を有し、PiB PETにより脳アミロイド負荷が増加した237例のMCSA参加者(平均年齢 80.9(SD 6.3)歳、男性 54.9%、白人 97.5%)が研究サンプルとなりました。
レカネマブ試験の組み入れ基準により、研究サンプルは112例(237例中の47.3%)に減少しました。この試験の除外基準では、対象となりうる人数はさらに19例(237例中の8%)に絞られました。すべてのMCI参加者を含めるように除外基準を変更した結果(認知基準を追加適用する代わりに)、MCI参加者の17.4%がレカネマブ治療の対象となりました。
1,004例の参加者(237例中の43.9%)がアデュカヌマブ臨床試験の組み入れ基準を満たしました。アデュカヌマブ臨床試験の除外基準により、参加可能な人数はさらに減少し、12例(237例中の5.1%)に絞られました。一般的な除外項目は他の慢性疾患と神経画像所見に関するものでした。
コメント
超高齢社会における認知症治療薬への関心は高く、特にβアミロイドタンパク質の蓄積に端を発している理論が支持され、βアミロイドに対するモノクローナル抗体の開発が盛んに行われています。しかし、これまでの開発の歴史を見るとβアミロイドタンパク質の蓄積が認知症の原因であるとするのは困難であると考えられます。
認知症治療候補薬 | 臨床試験の結果 |
アデュカヌマブ | 途中解析で無益性が示され試験中断 事後解析において有効である可能性が示されたことにより 米国で迅速承認(日欧は保留) |
ガンテネルマブ | 途中解析で無益性が示され試験中断 |
クレネズマブ | 途中解析で無益性が示され試験中断 |
ソラネズマブ | プラセボと差なし |
バピヌズマブ | プラセボと差なし |
とはいえ、認知症の発症(あるいは移行)を抑制できる可能性があることから、どのような患者が恩恵を受けられるのか検証が求められます。
さて、抗βアミロイドモノクローナル抗体の適格性を検証した試験によれば、レカネマブやアデュカヌマブの適格性は50%を下回り、低い場合は10%をも下回っていました。
臨床試験の結果や恩恵を受けられる患者層は、世間一般的な認識や報道内容とはかけ離れています。過度に抗βアミロイドモノクローナル抗体に期待しない方が良いでしょう。現状、かなりコストが高いことからも、早期に使用する意義は低いと考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 抗βアミロイドモノクローナル抗体の適格性を検証した試験によれば、レカネマブやアデュカヌマブの適格性は50%を下回り、低い場合は10%をも下回っていた。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:アルツハイマー病(AD)の治療選択肢は限られており、主に対症療法とQOLの改善に焦点が当てられてきた。最近、抗βアミロイドモノクローナル抗体(mAbs)であるlecanemab(レカネマブ)が、バイオマーカーで確認された症候性ADの初期段階における治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)から早期承認を取得した。さらに抗βアミロイドmAbsであるアデュカヌマブが2021年に承認され、近い将来さらに多くの抗βアミロイドmAbsが使用可能になる可能性がある。一般集団で利用可能なバイオマーカーを有する成人に対する抗βアミロイドmAbsの適格性基準の適用性と一般化に関する研究は、これまで欠如していた。本研究の第一の目的は、集団ベースのMayo Clinic Study of Aging(MCSA)の早期AD参加者にレカネマブ治療の臨床試験適格基準を適用し、抗アミロイド治療の一般化可能性を評価することであった。本研究の副次的目的は、MCSA参加者におけるアデュカヌマブ治療の臨床試験適格基準を適用することであった。
方法:本研究では、レカネマブとアデュカヌマブの臨床試験適格基準を、人口ベースのMCSAの早期AD参加者に適用し、抗アミロイド治療の一般化可能性を評価することを目的とした。
結果:軽度認知障害(MCI)または軽度認知症を有し、PiB PETにより脳アミロイド負荷が増加した237例のMCSA参加者(平均年齢 80.9(SD 6.3)歳、男性 54.9%、白人 97.5%)を研究サンプルとした。レカネマブ試験の組み入れ基準により、研究サンプルは112例(237例中の47.3%)に減少した。この試験の除外基準では、対象となりうる人数はさらに19例(237例中の8%)に絞られた。すべてのMCI参加者を含めるように除外基準を変更した結果(認知基準を追加適用する代わりに)、MCI参加者の17.4%がレカネマブ治療の対象となった。1,004例の参加者(237例中の43.9%)がアデュカヌマブ臨床試験の組み入れ基準を満たした。アデュカヌマブ臨床試験の除外基準により、参加可能な人数はさらに減少し、12例(237例中の5.1%)に絞られた。一般的な除外項目は他の慢性疾患と神経画像所見に関するものであった。
考察:今回の結果は、認知機能障害を有する典型的な高齢者における抗βアミロイドmAbの適格者が限られていることを推定するものである。
引用文献
Eligibility for Anti-Amyloid Treatment in a Population-Based Study of Cognitive Aging
Rioghna R Pittock et al. PMID: 37586881 DOI: 10.1212/WNL.0000000000207770
Neurology. 2023 Aug 16;10.1212/WNL.0000000000207770. doi: 10.1212/WNL.0000000000207770. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37586881/
コメント