AIによる眼底写真の判定は最高矯正視力を推定できるのか?
最良矯正視力(BCVA)*は糖尿病黄斑浮腫(DME)の管理に用いられる指標であり、時にDMEの発症や抗血管内皮増殖因子による治療の開始、反復、保留、再開の検討を示唆します。
眼底画像からBCVAを推定するために人工知能(AI)を使用すれば、屈折検査に必要な人員や、BCVAの評価に現在必要な時間、あるいは遠隔で撮影した場合には診察回数を減らすことができ、臨床医のDME管理に役立つ可能性があります。
そこで今回は、眼底写真からBCVAを推定するためのAI技術の応用の可能性を、付帯情報の有無にかかわらず評価した研究結果をご紹介します。
本試験では瞳孔散大後に撮影した非同定カラー眼底画像を用いて、画像からBCVAへの回帰を行うAIシステムを事後的に訓練し、その結果の推定誤差を評価しました。試験参加者は、VISTAランダム化臨床試験に登録された患者であり、148週まで試験眼はアフリベルセプトまたはレーザーで治療されました。
試験参加者のデータには、黄斑画像、臨床情報、訓練された検査者によるBCVAスコアが含まれ、プロトコールの屈折およびETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)チャートでのVA測定に従いました。
本試験の主要アウトカムは平均絶対誤差(MAE)**で評価されました。副次的転帰は10文字以内の予測率で、コホート全体およびベースラインから148週目までのBCVAで分類したサブセットについて計算されました。
*メガネ等で矯正した場合を含め、視力表の文字を読む際に達成可能な最高の状態における視力。
**平均絶対誤差(MAE:Mean Absolute Error):統計学/機械学習においては、各データに対して「予測値と正解値の差(=誤差)」の絶対値を計算し、その総和をデータ数で割った値(=平均値)を出力する関数のこと。誤差は「予測値-正解値」あるいは「正解値-予測値」で算出される(微分時の結果の+1/-1が逆になる)。
試験結果から明らかになったことは?
459例の参加者の試験眼と僚眼(fellow eye)の7,185枚の黄斑カラー眼底画像を解析しました。全体の平均年齢は62.2(SD 9.8)歳で、250例(54.5%)が男性でした。ベースラインのBCVAスコアは73~24レター(近似スネレン等価20/40~20/320)でした。
ResNet50アーキテクチャを使用し、テストセット(n=641画像)のMAEは9.66(95%CI 9.05〜10.28)でした(最良であると判断された)。値の33%(95%CI 30%〜37%)は0~5文字以内、28%(95%CI 25%〜32%)は6~10文字以内でした。
BCVAが100文字以下80文字以上(20/10~20/25、n=161)、80文字以下55文字以上(20/32~20/80、n=309)の場合、MAEはそれぞれ8.84文字(95%CI 7.88~9.81)、7.91文字(95%CI 7.28~8.53)でした。
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視力検査では様々な方法が用いられ、具体的には以下のような検査があげられます。
- 他覚的屈折検査(機器を使用)
- 自覚的屈折検査(片眼を覆っての視力検査)
- 細隙灯顕微鏡検査(前眼部を観察)
- 眼圧検査
- 眼底検査
- 視野検査
- 光干渉断層計(OCT)検査(視神経繊維層の厚さや視神経乳頭の陥没の程度を測定)
これらの検査により、黄斑浮腫や緑内障といった眼関疾患のスクリーニングが行えますが、患者及び医療者にとって負担が大きいと考えられます。訓練を積んだ検査技師であっても、患者のBCVAを測定するために、最大で20分程度を要するようです。したがって、眼底写真(画像)からAIが判定を行うことにより、上記の検査を一部省略できる可能性がありますが、充分に検討されていませんでした。
さて、本試験結果によれば、AIは糖尿病黄斑浮腫(DME)患者において、屈折や自覚的視力測定なしに眼底写真から直接最高矯正視力を推定できることが示唆されました。
熟練した検査技師が屈折検査などを用いて判定した場合のBCVAとの誤差は、10文字以内が61%を占めていますが、実臨床での使用のためには更なる精度の向上が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ AIは糖尿病黄斑浮腫(DME)患者において、屈折や自覚的視力測定なしに眼底写真から直接最高矯正視力を推定できることが示唆された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:最良矯正視力(BCVA)は糖尿病黄斑浮腫(DME)の管理に用いられる指標であり、時にDMEの発症や抗血管内皮増殖因子による治療の開始、反復、保留、再開の検討を示唆する。眼底画像からBCVAを推定するために人工知能(AI)を使用すれば、屈折検査に必要な人員や、BCVAの評価に現在必要な時間、あるいは遠隔で撮影した場合には診察回数を減らすことができ、臨床医のDME管理に役立つ可能性がある。
目的:眼底写真からBCVAを推定するためのAI技術の応用の可能性を、付帯情報の有無にかかわらず評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:拡張後に撮影した非同定カラー眼底画像を用いて、画像からBCVAへの回帰を行うAIシステムを事後的に訓練し、その結果の推定誤差を評価した。参加者は、VISTAランダム化臨床試験に登録された患者で、148週まで、試験眼はアフリベルセプトまたはレーザーで治療された。試験参加者のデータには、黄斑画像、臨床情報、訓練された検査者によるBCVAスコアが含まれ、プロトコールの屈折およびETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)チャートでのVA測定に従った。
主要アウトカム:主要転帰は平均絶対誤差(MAE)で評価した。副次的転帰は10文字以内の予測率で、コホート全体およびベースラインから148週目までのBCVAで分類したサブセットについて計算した。
結果:459例の参加者の試験眼と僚眼(fellow eye)の7,185枚の黄斑カラー眼底画像を解析した。全体の平均年齢は62.2(SD 9.8)歳で、250例(54.5%)が男性であった。ベースラインのBCVAスコアは73~24レター(近似スネレン等価20/40~20/320)であった。ResNet50アーキテクチャを使用し、テストセット(n=641画像)のMAEは9.66(95%CI 9.05〜10.28)であった。値の33%(95%CI 30%〜37%)は0~5文字以内、28%(95%CI 25%〜32%)は6~10文字以内であった。BCVAが100文字以下80文字以上(20/10~20/25、n=161)、80文字以下55文字以上(20/32~20/80、n=309)の場合、MAEはそれぞれ8.84文字(95%CI 7.88~9.81)、7.91文字(95%CI 7.28~8.53)であった。
結論と関連性:この調査から、AIはDME患者において、屈折や自覚的視力測定なしに眼底写真から直接BCVAを推定できることが示唆された。
引用文献
Accuracy of Artificial Intelligence in Estimating Best-Corrected Visual Acuity From Fundus Photographs in Eyes With Diabetic Macular Edema
William Paul et al. PMID: 37289463 PMCID: PMC10251243 (available on 2024-06-08) DOI: 10.1001/jamaophthalmol.2023.2271
JAMA Ophthalmol. 2023 Jun 8;e232271. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2023.2271. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37289463/
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