アトピー性皮膚炎患者では静脈血栓塞栓症リスクが増加するのか?
アトピー性皮膚炎(AD)と複数の心血管疾患との関連は、慢性全身性炎症に関する病態機序と血管への影響の可能性から調査されてきました。しかしながら、成人期におけるADと静脈血栓塞栓症(VTE)発症との関連はほとんど知られていません。
そこで今回は、AD患者におけるVTE発症リスクとの関連について調査することを目的としたコホート研究の結果をご紹介します。
本試験はAD患者におけるVTE発症リスクの検討を目的として行われた人口ベースの全国コホート研究でした。国民健康保険調査データベースから20歳以上の成人(2003年から2017年の間に新たに診断されたADの成人およびマッチさせた対照者)が対象とされ、AD患者は重症度によってサブグループ分けされました。
VTEのハザード比(HR)の推定には、Cox回帰モデルが用いられ、年齢と性別による層別解析、および全身性ステロイド使用者を除外した感度解析が行われました。
本試験の主要アウトカムはADに関連するVTE発症のハザード比(HR)でした。
試験結果から明らかになったことは?
本解析では、AD(平均年齢[SD]44.9[18.3]歳、女性 78,213例)および非ADコホート(平均年齢[SD]44.1[18.1]歳、女性 79,636例)の各142,429例を含む合計284,858例の参加者が対象となりました。
ADコホート | 非ADコホート | 発症リスク vs. 非ADコホート | |
VTE | 1,066例 (0.7%) 発症率 1.05人 /1,000人・年 | 829例 (0.6%) 発症率 0.82人 /1,000人・年 | HR 1.28 (95%CI 1.17〜1.40) |
追跡期間中、ADコホートでは1,066例(0.7%)、非ADコホートでは829例(0.6%)がVTEを発症し、発症率はそれぞれ1,000人・年あたり1.05人および0.82人でした。
ADの成人は、ADでない成人と比較して、VTE発症リスクが有意に高いことが示されました(HR 1.28、95%CI 1.17〜1.40)。
個々のアウトカム解析では、ADは深部静脈血栓症(HR 1.26、95%CI 1.14〜1.40) および肺塞栓症(HR 1.30、95%CI 1.08〜1.57) の高リスクと関連することが示されました。
コメント
アトピー性皮膚炎には、さまざまな炎症経路が関与することから、他の疾患リスクを増加させる可能性があります。しかし、静脈血栓塞栓症との関連性については充分に検討されていません。
さて、人口ベースコホート研究の結果、成人期のアトピー性皮膚炎が静脈血栓塞栓症のリスク上昇と関連することが示唆されました。しかし、アトピー性皮膚炎を有する成人と有さない成人の間の静脈血栓塞栓症の絶対的リスク差は小さいようでした。
あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、血栓塞栓症リスクを有するアトピー性皮膚炎患者においては、静脈血栓塞栓症の発症リスクを念頭においた患者フォローアップが求められる可能性が示されたことになります。
続報に期待。
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