プロトンポンプ阻害薬(PPI)と心血管疾患・死亡リスクとの関連性は?
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸関連疾患の治療薬として広く使用されていますが、腸内細菌叢に影響を与える可能性があります。2型糖尿病は血管内皮細胞の機能低下に起因する血糖コントロール異常を特徴としますが、腸内細菌叢へ影響することも報告されています。したがって、2型糖尿病患者におけるPPI使用により患者予後に強く影響する可能性がありますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、2型糖尿病(T2D)患者におけるPPI使用と心血管疾患(CVD)および全死亡のリスクとの関連性を評価することを目的に実施された英国のデータベース研究の結果をご紹介します。
本試験では、UK Biobank研究のデータが用いられ、19,229例のT2D成人におけるPPI使用と冠動脈疾患(CAD)、心筋梗塞(MI)、心不全(HF)、脳卒中、全死亡のリスクとの関連性が分析されました。
試験結果から明らかになったことは?
中央値10.9~11.2年の追跡期間中に、2,971例のCAD、1,827例のMI、1,192例のHF、738例の脳卒中、および2,297例の総死亡が記録されました。
ハザード比 HR (95%CI) | |
冠動脈疾患(CAD) | HR 1.27 (95%CI 1.15〜1.40) |
心筋梗塞(MI) | HR 1.34 (95%CI 1.18〜1.52) |
心不全(HF) | HR 1.35 (95%CI 1.16〜1.57) |
脳卒中 | HR 1.11 (95%CI 0.90〜1.36) |
全死亡 | HR 1.30 (95%CI 1.16〜1.45) |
PPIの使用は、CAD(ハザード比[HR] 1.27、95%CI 1.15〜1.40)、MI(HR 1.34、95%CI 1.18〜1.52)、HF(HR 1.35、95%CI 1.16〜1.57)およびすべての原因死亡率の高さ(HR 1.30、95%CI 1.16〜1.45)と著しく関連していました。
PPI使用と脳卒中(HR 1.11、95%CI 0.90〜1.36)の間には、統計的に有意な関連は観察されませんでした。
これらの結果は、PPIの適応、抗糖尿病薬の使用、抗血小板薬の使用などの因子で層別化したサブグループ解析でも一貫していました。PPI使用者と非使用者の1:1傾向スコアマッチコホートでの解析も同様の結果となりました。
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PPI使用により得られる恩恵は多いものの、長期にわたり投与される可能性が高いことからリスク評価に関する報告が多く行われています。PPIは胃酸分泌抑制作用を介して腸内細菌叢に影響することが報告されており、患者予後に強く影響する可能性があります。
さて、英国のデータベース研究の結果、PPI使用は2型糖尿病患者におけるCVDイベントおよび死亡の高リスクと関連することが示唆されました。各ハザードの程度は比較的小さいものの、患者背景や薬物相互作用により、これらの発生リスクが高まる可能性があります。
漫然投与せず、どのような患者に、どのくらいの用量で、どのくらいの期間、PPIの投与が必要なのか検証が求められます。
続報に期待。
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