化学療法を受ける転移性胃がん、肝膵胆道がん、肺がん患者の食欲不振に対するオランザピンの効果は?
食欲不振は進行性悪性腫瘍患者の30~80%にみられ、化学療法により悪化することがあります。
オランザピンは、非定型抗精神病薬の一つです。脳内のドパミン2(D2)受容体遮断作用により、ドーパミン神経系の機能亢進により起こる陽性症状をおさえ、さらにセロトニン2(5-HT2)受容体遮断作用により、ドパミン神経系の働きを活発化し、陰性症状を改善します。この作用から「統合失調症」、「双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善」、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」の適応を有しています(2023年4月時点)。
オランザピンの作用の一つに体重増加があります。患者によって異なりますが、統合失調症の国内臨床試験時の平均体重変化量は、オランザピン経口服用後6週、16週、20週時点でそれぞれ1.00 kg、2.15 kg、3.21 kgと比較的急速に増加した後に穏やかになり32週、52週ではそれぞれ4.06 kg、4.3 kgとなりました(2001年)。オランザピンは制吐作用も有していることから、化学療法を受ける悪性腫瘍患者における食欲不振を改善する可能性があります。しかし、実臨床における検証は充分に行われていません。
そこで今回は、化学療法を受けている患者の食欲不振に対するオランザピンの有効性を評価した二重盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、未治療の局所進行または転移性胃がん、肝膵胆道がん、肺がんの成人患者(18歳以上)を対象に、化学療法とともにオランザピン(2.5mgを1日1回、12週間投与)またはプラセボを投与する群にランダムに割り付けました(二重盲検下)。両群とも、標準的な栄養評価と食事のアドバイスを受けました。
本試験の主要評価項目は、体重増加が5%を超えた患者の割合と食欲の改善(視覚的アナログスケール[VAS]とFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy system of Quality-of-Life questionnaireires Anorexia Cachexia subscale[FAACT ACS]により評価)でした。副次的評価項目は、栄養状態の変化、生活の質(QOL)、化学療法毒性でした。
試験結果から明らかになったことは?
年齢中央値 55歳(18~78歳)の患者 124例(オランザピン 63例、プラセボ 61例)を登録し、そのうち112例(オランザピン 58例、プラセボ 54例)が解析可能でした。大多数(99例、80%)が転移性がん(胃[68例、55%]>肺[43例、35%]>肝膵胆道[13例、10%])でした。
オランザピン群では、体重増加が5%以上(58例中35例[60%]vs. 54例中5例[9%]、P<0.001)、VASによる食欲の改善(58例中25例[43%]vs. 54例中7例[13%]、P<0.001)、FAACT ACS(スコア37以上:58例中13例[22%]vs. 54例中2例[4%]、P=0.004)による患者の割合がより多いことが示されました。
オランザピン投与患者は、QOL、栄養状態が良好であり、化学毒性も少ないことが示されました。オランザピンに起因する副作用は最小限でした。
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抗精神病薬は脳内のセロトニンを増加させ、副交感神経優位を介して、身体活動量の減少を引き起こすことで、体重増加を引き起こすとされています。オランザピンの副作用としても体重増加が報告されていますが、この作用に加えてオランザピンは制吐作用を有していることから、化学療法を受ける患者の食欲不振を海鮮ずる可能性があります。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、低用量のオランザピンを毎日投与することは、化学療法を受けている新規診断患者の食欲と体重増加を有意に改善することが示されました。今回用いられたのは、2.5mgと低用量であるため、副作用の発生が少なかったようです。
オランザピンが有している適応の一つに「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」がありますが、今後の検討結果によっては体重増加の適応も取得するかもしれませんね。
続報に期待。
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