ICU患者のせん妄に対するハロペリドールの効果は?
AID-ICU試験は、せん妄を伴う集中治療室(ICU)に入院した急性期の成人患者を対象に、ハロペリドールとプラセボの効果を検討したランダム化、盲検化、プラセボ対照の試験でした。本試験の主要評価項目は無作為化後90日目の生存日数と退院日数でした。
今回ご紹介するのは、このAID-ICU試験の事前計画されたベイズ分析の結果です。本分析により、AID-ICU試験結果の確率的解釈を容易にすることができます。
90日目までに報告されたすべての主要および副次的アウトカムを分析するために、弱い事前分布(weakly informative)priorsを用いた調整済みベイズ線形およびロジスティック回帰モデルを使用し、他のpriorsを用いた感度分析も行った。すべてのアウトカムについて、事前に設定した閾値にしたがって、ハロペリドール治療による利益・害、臨床的に重要な利益・害、臨床的に重要な差異なしの確率を提示した。
試験結果から明らかになったことは?
90日目までの生存・退院日数(主要評価項目)の平均差は2.9日(95%信用区間(CrI)-1.1 ~ 6.9)であり、あらゆる利益に対する確率は92%、臨床的に重要な利益に対しては82%でした。
死亡率のリスク差は-6.8%(95%CrI -12.8 ~ -0.8)で、利益は99%、臨床的に重要な利益は94%でした。
重篤な副作用の調整後リスク差は0.3%(95%CrI -1.3 〜 1.9)であり、臨床的に重要な差がない確率は98%でした。結果は、異なるpriorsを用いた感度分析でも一貫しており、ハロペリドール投与による有益性の確率は83%以上、有害性の確率は17%以下でした。
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せん妄は、患者背景などの様々な要因で発症することが示されています。特にICU患者においては30~50%で発生し、合併症や死亡リスクに関連していることが報告されています。せん妄に対する治療薬のエビデンスは限られており、なかでもハロペリドールは相反する報告が多い薬剤です。
さて、本試験結果によれば、急性期入院の成人ICU患者において、ハロペリドール投与はプラセボ投与と比較して、主要評価項目(90日目までの生存・退院日数)およびほとんどの副次的評価項目において、高い有益性と低い有害性を示しました。ただし、もともとの研究結果では、プラセボとハロペリドールとの間に統計的な有意差は認められていません。また、せん妄治療においては、介護や介助する人の負担が大きいことから、これに関連する項目(焦燥など)や損失コストについても検証が求められます。
相反する報告が多いことから、せん妄治療に対するハロペリドールの有効性について結論づけることは困難です。
続報に期待。
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