根拠となった試験の抄録
背景：インフルエンザワクチン接種率は、インフルエンザ感染と関連する合併症の予防に有効であるにもかかわらず、依然として最適とは言えない。我々は、政府の電子レターシステムを通じて配信される行動的ナッジ*が、デンマークの高齢者のインフルエンザワクチン接種率を向上させるかどうかを調査した。
*ナッジ（nudge）：2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授によって提唱された 「人々が強制的にではなく、よりよい選択を自発的に取れるようにする方法」を生み出すための理論。ナッジ（nudge）とは「（注意を引くために）そっと突く、そっと動かす」という意味の英単語。
方法：デンマークの2022～2023年のインフルエンザシーズンに、全国規模の実用的なレジストリベースのクラスターランダム化実施試験を行った。65歳以上、または2023年1月15日までに65歳になるすべてのデンマーク国民を対象とした。老人ホームに住む個人と、デンマークの義務的な政府電子書簡システムの免除を受けている個人は除外した。世帯は、通常のケア、または異なる行動ナッジの概念に基づいて設計された9種類の電子レターにランダムに割り当てられた（9：1：1：1：1：1：1：1：1：1：1：1）。データは、デンマークの全国的な行政保健登録から入手した。
主要評価項目は、2023年1月1日以前にインフルエンザワクチン接種を受けたかどうかであった。主要解析では、1世帯につき1人のランダム抽出された個人からなる解析セットを評価し、感度解析では、ランダムに割り当てられたすべての個人を含み、世帯内の相関を説明した。本試験はClinicalTrials.govのNCT05542004に登録されている。
所見：デンマークの65歳以上の高齢者1,232,938例を特定し、老人ホームに住む56,436例（4.6％）、電子レターシステムの免除を受けた211,632例（17.2％）を除外した。691,820世帯にまたがる964,870例（78.3％）の参加者をランダムに割り付けた。通常ケアと比較して、ワクチン接種による心血管への潜在的なメリットを強調した電子レターを受け取った群（81.00% vs. 80.12%；差 0.89％、99.55%CI 0.29～1.48; p<0.0001）およびランダム化と14日目に繰り返し手紙を受け取った群（80.85% vs. 80.12%； 差 0.73％、0.13～1.34; p=0.0006) においてインフルエンザワクチンの接種率が高かった。これらの戦略により、心血管疾患が確立している人とそうでない人を含む主要なサブグループ全体でワクチン接種率が改善された。特に、前シーズンにインフルエンザワクチンを接種していない参加者では、心血管ゲインフレームレターが有効であった（交互作用のp=0.0002）。また、ランダムに割り振られた全個人について、世帯内のクラスタリングを考慮した感度分析を行ったところ、同様の結果が得られた。
解釈：インフルエンザワクチン接種による心血管疾患への効果を強調した電子レターや、リマインダーとしての再送信は、デンマーク全土でワクチン接種率を有意に向上させた。効果の大きさは控えめであったが、このような電子レターは、手間がかからず、安価で、拡張性が高いため、今後の公衆衛生キャンペーンに参考になる可能性がある。
資金提供：Sanofi.
引用文献
Electronic nudges to increase influenza vaccination uptake in Denmark: a nationwide, pragmatic, registry-based, randomised implementation trial
Niklas Dyrby Johansen et al. PMID: 36889332 DOI: 10.1016/S0140-6736(23)00349-5
Lancet. 2023 Mar 3;S0140-6736(23)00349-5. doi: 10.1016/S0140-6736(23)00349-5. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36889332/
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