2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害剤(vs.DPP-4阻害剤)の有効性と安全性はベースラインHbA1c値により変動しますか?(米国データベース研究; JAMA Intern Med. 2023)

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ベースラインのHbA1cにより有効性・安全性に違いは出てくるのか?

ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)療法は、少数の有害事象を伴うものの、心血管系への恩恵が一貫して認められています。しかし、ベースラインのヘモグロビンA1c(HbA1c)値の違いによって有効性と安全性プロファイルが異なるかどうかは不明です。

そこで今回は、成人の2型糖尿病(T2D)患者において、SGLT2iとジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP-4i)の治療の心血管系の有効性と安全性を(1)全体、(2)ベースラインのHbA1c値の違いで比較したデータベース研究の結果をご紹介します。

本試験では、GLT2iまたはDPP-4iによる治療を開始し、ベースライン時にT2D診断が記録され、治療開始前3ヵ月以内に少なくとも1回のHbA1c検査結果が記録されている民間保険加入者 144,614例を対象に新規使用者の有効性および安全性に関する比較研究試験が実施されました(Medicare Advantageプランを含む全米の民間保険データセットであるOptum Clinformatics Data Mart Databaseを利用)。本試験の介入はSGLT2iまたはDPP-4iでした。

本試験の主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、全死亡(修正主要有害心血管イベント[MACE])、心不全による入院(HHF)の複合でした。安全性のアウトカムは、循環血液量減少、骨折、転倒、生殖器感染症、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、急性腎障害(AKI)、下肢切断でした。

1,000人・年当たりの発生率(IR)、ハザード比(HR)、発生率差(RD)とその95%CIについて、128の共変量で制御して推定されました。

試験結果から明らかになったことは?

SGLT2i(n=60,523)またはDPP-4i(n=84,091)による治療を開始したT2Dの成人適格者144,614例(平均[SD]年齢 62[12.4]歳、男性 54%)が特定され、HbA1cベースライン値が7.5%未満の患者は44,099例、7.5%~9%は52,986例、9%を超えるのは47,529例でした。全体として、87,274例の適格な患者が1:1の傾向スコアでマッチされました:HbA1cが7.5%未満の24,052例、HbA1cが7.5%から9%の32,290例、HbA1cが9%を超える30,932例(総ヘモグロビンの割合に変換するには0.01をかける)。

SGLT2使用開始DPP-4i使用開始ハザード比 HR
(95%CI)
発生率差 RD
(95%CI)
修正MACEIR 17.13
(/1,000人・年)
IR 20.18
(/1,000人・年)
HR 0.85
0.75~0.95
RD -3.02
-5.23 ~ -0.80
HHFIR 3.68
(/1,000人・年)
IR 8.08
(/1,000人・年)
HR 0.46
0.35~0.57
RD -4.37
-5.62 ~ -3.12

SGLT2i(vs. DPP-4i)の投与開始は、修正MACE(1,000人・年当たりのIRはそれぞれ 17.13 vs. 20.18、HR 0.85、95%CI 0.75~0.95;RD -3.02、95%CI -5.23 ~ -0.80)、HHF(1,000人・年当たりのIRはそれぞれ 3.68 vs. 8.08、HR 0.46、95%CI 0.35~0.57、RD -4.37、95%CI -5.62 ~ -3.12)のリスク低減が認められました。平均8ヵ月間のフォローアップで、HbA1cレベル間の治療効果不均一性の証拠はありませんでした

SGLT2iによる治療では、DPP-4iと比較して、性器感染症およびDKAのリスクが増加し、AKIリスクは減少しました。所見はHbA1c値によって一貫していましたが、HbA1c値7.5%~9%ではSGLT2iに関連する性器感染症のリスクがより顕著でした(1,000人・年あたりのIR数はそれぞれ 68.5 vs. 22.8、HR 3.10、95%CI 2.68~3.58、RD 46.22、95%CI 40.54~51.90)。

コメント

SGLT2阻害薬は様々な疾患に使用されており、特に心血管疾患や心不全、CKDに対してリスク低減効果を有していることが報告されています。しかし、この効果がベースラインのHbA1c値によって変化するのかについては充分に検証されていません。

さて、本試験結果によれば、米国のデータベースでの成人T2D患者における有効性と安全性の比較研究において、SGLT2i(vs. DPP-4i)の治療開始者は、ベースラインのHbA1cにかかわらず、修正MACEとHHFのリスクが減少し、性器感染症とDKAのリスクが増加し、AKIのリスクが減少していることと関連していました。有効性についてはベースラインのHbA1cが影響することはなさそうです。一方、性器感染症については、HbA1c7.5%未満の集団と比較して、HbA1c値7.5%~9%の集団でリスク増加と関連していることが示されました。性器感染症リスクの把握は困難なシーンもあることから、SGLT2阻害薬を使用している患者においては、継続してモニタリングした方が良いと考えられます。

本試験は傾向スコアを用いて、128交絡因子の調整を行っていますが、データベース研究であることから調整できていない交絡因子が残存していると考えられます。とはいえ、大規模ランダム化比較試験で示されている結果と同様であることから、結果の信頼性は高いと考えられます。

SGLT2阻害薬は臨床で重大な懸念となるような有害事象はほぼなく、心血管イベントのリスク低減効果を有していることから、今後も使用拡大していくことが予測されます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 成人T2D患者における有効性と安全性の比較研究において、SGLT2i(vs. DPP-4i)の治療開始者は、ベースラインのHbA1cにかかわらず、修正MACEとHHFのリスクが減少し、性器感染症とDKAのリスクが増加し、AKIのリスクが減少していることと関連していた。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)療法は、心血管系への恩恵と少数の有害事象を伴うが、ベースラインのヘモグロビンA1c(HbA1c)値の違いによって有効性と安全性プロファイルが異なるかどうかは不明である。

目的:成人の2型糖尿病(T2D)患者において、SGLT2iとジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP-4i)の治療の心血管系の有効性と安全性を(1)全体、(2)ベースラインのHbA1c値の違いで比較する。

試験デザイン、設定、参加者:SGLT2iまたはDPP-4iによる治療を開始し、ベースライン時にT2D診断が記録され、治療開始前3ヵ月以内に少なくとも1回のHbA1c検査結果が記録されている民間保険加入者 144,614例を対象に新規使用者の有効性および安全性に関する比較研究試験を実施した(Medicare Advantageプランを含む全米の民間保険データセットであるOptum Clinformatics Data Mart Databaseを利用)。

介入:SGLT2iまたはDPP-4iによる治療の開始を介入とした。

主要アウトカムと測定方法:主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、全死亡(修正主要有害心血管イベント[MACE])、心不全による入院(HHF)の複合とした。
安全性のアウトカムは、循環血液量減少、骨折、転倒、生殖器感染症、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、急性腎障害(AKI)、下肢切断とした。
1,000人・年当たりの発生率(IR)、ハザード比(HR)、発生率差(RD)とその95%CIを128の共変量で制御して推定した。

結果:SGLT2i(n=60,523)またはDPP-4i(n=84,091)による治療を開始したT2Dの成人適格者144,614例(平均[SD]年齢 62[12.4]歳、男性 54%)が特定され、HbA1cベースライン値が7.5%未満の患者は44,099例、7.5%~9%は52,986例、9%を超えるのは47,529例であった。全体として、87,274例の適格な患者が1:1の傾向スコアでマッチされた:HbA1cが7.5%未満の24,052例、HbA1cが7.5%から9%の32,290例、HbA1cが9%を超える30,932例(総ヘモグロビンの割合に変換するには0.01をかける)。SGLT2i(vs. DPP-4i)の投与開始は、修正MACE(1,000人・年当たりのIRはそれぞれ 17.13 vs. 20.18、HR 0.85、95%CI 0.75~0.95;RD -3.02、95%CI -5.23 ~ -0.80)、HHF(1,000人・年当たりのIRはそれぞれ 3.68 vs. 8.08、HR 0.46、95%CI 0.35~0.57、RD -4.37、95%CI -5.62 ~ -3.12)のリスク低減が認められた。平均8ヵ月間のリスク低減が認められました。フォローアップで、HbA1cレベル間の治療効果不均一性の証拠はなかった。SGLT2iによる治療では、DPP-4iと比較して、性器感染症およびDKAのリスクが増加し、AKIリスクは減少した。所見はHbA1c値によって一貫していたが、HbA1c値7.5%~9%ではSGLT2iに関連する性器感染症のリスクがより顕著であった(1,000人・年あたりのIR数はそれぞれ 68.5 vs. 22.8、HR 3.10、95%CI 2.68~3.58、RD 46.22、95%CI 40.54~51.90)。

結論と関連性:この成人T2D患者における有効性と安全性の比較研究において、SGLT2i(vs. DPP-4i)の治療開始者は、ベースラインのHbA1cにかかわらず、修正MACEとHHFのリスクが減少し、性器感染症とDKAのリスクが増加し、AKIのリスクが減少していた。

引用文献

Comparing Effectiveness and Safety of SGLT2 Inhibitors vs DPP-4 Inhibitors in Patients With Type 2 Diabetes and Varying Baseline HbA1c Levels
Elvira D’Andrea et al. PMID: 36745425 DOI: 10.1001/jamainternmed.2022.6664
JAMA Intern Med. 2023 Feb 6. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.6664. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36745425/

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