オメガ3系の多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)はCKD発症リスクと相関しているのか?
オメガ3系の多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)バイオマーカー(植物由来のαリノレン酸、魚介類由来のエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸など)の循環レベルと慢性腎臓病(CKD)発症との関連性については充分に検討されていません。
そこで今回は、n-3 PUFAとCKD発症との関連性について、前向きに評価したプール解析の結果をご紹介します。本試験は、2020年5月までに確認された12か国19件の研究のコンソーシアムであり、n-3 PUFAバイオマーカーの測定データと推定糸球体濾過量に基づくCKDの発症が確認された前向き研究が対象となりました。
参加した各コホートは、事前に規定した一貫した曝露、アウトカム、共変量、モデルを用いてde novo解析を実施しました。結果は逆分散加重メタ解析によりコホート間でプールされました。
本試験の主要アウトカムであるCKD発症は、新規発症の推定糸球体濾過量<60mL/min/1.73m2と定義されました。感度分析では、CKD発症は新規発症の推定糸球体濾過量<60mL/min/1.73m2かつベースライン値の75%未満と定義されました。
試験結果から明らかになったことは?
25,570例が主要アウトカム解析に含まれ、4,944例(19.3%)が追跡期間中(加重中央値 11.3年)にCKDを発症しました。
相対リスク RR (5分位の最高範囲 vs. 最低範囲) | |
エイコサペンタエン酸 EPA(19試験、4,940例) | RR 0.91 (95%CI 0.83 ~ 0.99) I2=7.0 |
ドコサペンタエン酸 DPA(16試験、4,350例) | RR 0.90 (95%CI 0.82~0.99) I2=0.0 |
ドコサヘキサエン酸 DHA(19試験、4,944例) | RR 0.89 (95%CI 0.81~0.97) I2=8.4 |
EPA+DPA+DHA (19試験、4,939例) | RR 0.88 (95%CI 0.80~0.96) I2=0.0 |
α-リノレン酸 ALA(19試験、4,940例) | RR 0.97 (95%CI 0.88~1.06) I2=0.0 |
多変量調整モデルでは、魚介類の総n-3 PUFAレベルが高いほど、CKD発症リスクが低いことが示されました(五分位範囲ごとの相対リスク 0.92、95%信頼区間 0.86~0.98、P=0.009、I2=9.9%)。カテゴリー別解析では、魚介類のn-3 PUFA総量が5分位の最高範囲の参加者は、最低範囲の参加者と比べてCKD発症リスクが13%低いことが示されました(RR 0.87、0.80~0.96、P=0.005、I2=0.0%)。
植物由来のαリノレン酸レベルは、CKDの発症と関連していませんでした(RR 1.00、0.94~1.06、P=0.94、I2=5.8%)。感度分析でも同様の結果が得られました。
年齢(60歳以上 vs. 60歳未満)、推定糸球体濾過量(60~89 vs. 90 mL/min/1.73m2)、高血圧、糖尿病、ベースライン時の冠動脈心疾患によるサブグループでも関連は一貫しているようでした。
コメント
オメガ3系の多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)は様々な作用が報告されており、心血管系への有益な作用を有していることが多くの研究結果で示されています。しかし、慢性腎臓病(CKD)への影響については不明です。
さて、本試験結果によれば、魚介類由来のn-3 PUFAレベルが高いほど、CKD発症リスクが低いことと関連していることが示されました。一方、植物由来のn-3 PUFAではこの関連はみられませんでした。結果の異質性は低い、または無いこと、感度分析でも同様の結果が示されていることから得られた結果の堅牢性は高そうです。
対象となった試験数は最大19件であり、出版バイアスのリスクは低そうですが、ランダム化比較試験は2件、残りはコホート研究であり、未知の交絡因子が残存していると考えられます。とはいえ、結果が覆る可能性は低そうです。n-3 PUFAの中でも魚介類由来のものはCKD発症と逆相関しているようです。
☑まとめ☑ 魚介類由来のn-3 PUFAレベルが高いほど、CKD発症リスクが低いことと関連したが、植物由来のn-3 PUFAではこの関連はみられなかった。
根拠となった試験の抄録
目的:オメガ3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)バイオマーカー(植物由来のαリノレン酸、魚介類由来のエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸など)の循環レベルと慢性腎臓病(CKD)発症との関連性を前向きに評価すること。
試験デザイン:プール解析。
データソース:2020年5月までに確認された12か国19件の研究のコンソーシアム。
研究の選択:n-3 PUFAバイオマーカーの測定データと推定糸球体濾過量に基づくCKDの発症が確認された前向き研究。
データの抽出と統合:参加した各コホートは、事前に規定した一貫した曝露、アウトカム、共変量、モデルを用いてde novo解析を実施した。結果は逆分散加重メタ解析によりコホート間でプールされた。
主要アウトカム:主要アウトカムであるCKD発症は、新規発症の推定糸球体濾過量<60mL/min/1.73m2と定義された。感度分析では、CKD発症は新規発症の推定糸球体濾過量<60mL/min/1.73m2かつベースライン値の75%未満と定義した。
結果:25,570例が主要アウトカム解析に含まれ、4,944例(19.3%)が追跡期間中(加重中央値 11.3年)にCKDを発症した。多変量調整モデルでは、魚介類の総n-3 PUFAレベルが高いほど、CKD発症リスクが低かった(五分位範囲ごとの相対リスク 0.92、95%信頼区間 0.86~0.98、P=0.009、I2=9.9%)。カテゴリー別解析では、魚介類のn-3 PUFA総量が5分位の最高範囲の参加者は、最低範囲の参加者と比べてCKD発症リスクが13%低かった(RR 0.87、0.80~0.96、P=0.005、I2=0.0%)。植物由来のαリノレン酸レベルは、CKDの発症と関連しなかった(RR 1.00、0.94~1.06、P=0.94、I2=5.8%)。感度分析でも同様の結果が得られた。年齢(60歳以上 vs. 60歳未満)、推定糸球体濾過量(60~89 vs. 90 mL/min/1.73m2)、高血圧、糖尿病、ベースライン時の冠動脈心疾患によるサブグループでも関連は一貫しているようであった。
結論:魚介類由来のn-3 PUFAレベルが高いほど、CKD発症リスクが低いことと関連したが、植物由来のn-3 PUFAではこの関連はみられなかった。これらの結果は、魚介類由来のn-3系PUFAがCKDの予防に好ましい役割を果たすことを支持するものである。
引用文献
Association of omega 3 polyunsaturated fatty acids with incident chronic kidney disease: pooled analysis of 19 cohorts
Kwok Leung Ong et al. PMID: 36653033 PMCID: PMC9846698 DOI: 10.1136/bmj-2022-072909
BMJ. 2023 Jan 18;380:e072909. doi: 10.1136/bmj-2022-072909.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36653033/
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