siRNA製剤であるインクリシランによる心血管リスク低減効果はどのくらいか?
Inclisiran(インクリシラン:2022年時点では日本未承認)は、年2回投与されるsiRNA製剤であり、第III相試験において、プラセボと比較してLDLコレステロール(LDL-C)を有意に低下させました。しかし、インクリシランによるLDL-Cの低下が心血管イベントのリスク低下につながるかどうかは、まだ確立されていません。
そこで今回は、インクリシランの第III相試験3件(ORION-9、-10、-11)の患者レベルのプール解析の結果をご紹介します。
本試験では、家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)、アテローム性動脈硬化症(ASCVD)、またはASCVDリスク相当で最大耐量のスタチン治療を受けた患者を1:1にランダム化し、インクリシラン284mgまたはプラセボを1、90日目とその後6ヵ月ごとに18ヵ月間投与しました。
事前に指定された探索的エンドポイントである主要心血管イベント(MACE)には、非判定的なCV死亡、心停止、非致死的心筋梗塞(MI)、致死的および非致死的脳卒中を含み、MedDRA(医薬規制用語集)を用いて安全性評価の一部として評価されました。また、事前に規定されていませんでしたが、致死性および非致死性の心筋梗塞、脳卒中も評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
ベースライン時の平均LDL-Cは2.88mmol/Lでした。90日目のLDL-Cのプラセボ補正後の減少率は50.6%で、1.37mmol/Lの絶対減少に相当しました(いずれもP<0.0001)。
18ヵ月間の試験期間中に、3,655例の患者のうち、303例(8.3%)がMACEを経験し、これには74例(2.0%)の致死性および非致死性の心筋梗塞、28例(0.8%)の致死性および非致死性の脳卒中が含まれていました。
インクリシランはプラセボと比較して複合MACE(OR 0.74、95%CI 0.58~0.94)を有意に抑制しましたが、致死性および非致死性MI(OR 0.80、95%CI 0.50~1.27)、致死性および非致死性脳卒中(OR 0.86、95%CI 0.41~1.81)については抑制しませんでした。
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インクリシランは、短鎖干渉性リボ核酸(siRNA)であり、肝でのPCSK9の産生を阻害することが報告されています。インクリシランは、食事療法および最大忍容量のスタチンとの併用で、原発性高コレステロール血症または混合脂質異常症患者のコレステロール低下剤として欧州医薬品庁から、ヘテロ接合体性家族性高コレステロール血症(HeFH)またはASCVD患者の治療として米国食品医薬品局から承認を受けています。しかし、インクリシランによるLDL-Cの低下がCVイベントのリスクを低減するかどうかはまだ確立されておらず、現在進行中のCVアウトカム試験であるORION-4(NCT03705234)およびVICTORION-2 Prevent(NCT05030428)で評価が行われています。
この治療法の可能性を早期に明らかにするために実施された第III相脂質低下試験(追跡期間18ヵ月、被験者数3,655例)の被験者データをプールし、インクリシラン投与とプラセボ投与のCVイベントリスクに関する関係を評価したプール解析結果が公表されたため読んでみました。
さて、本試験結果によれば、siRNA製剤インクリシランの第III相試験3件の併合解析の結果、プラセボと比較して、複合MACEリスクを有意に低減することが示されました。一方、心筋梗塞および脳卒中のリスクについてはプラセボとの間に有意差は認められませんでした。しかし、いずれもリスク減少傾向であり、先の心血管アウトカム検証試験に期待がかかります。すでに米国や英国で承認されていることから、安全性評価についてもエビデンスが集積されてきています。
おそらく薬価はPCSK9阻害薬と同様あるいは、より高額になることが予測されることから、どのような患者でインクリシランが必要になるのかについて検証が求められます。
続報に期待。
☑まとめ☑ siRNA製剤インクリシランの第III相試験3件の併合解析の結果、プラセボと比較して、複合MACEリスクを有意に低減したが、心筋梗塞および脳卒中のリスクについては有意差がなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:インクリシランは、年2回投与されるsiRNAであり、第III相試験においてLDLコレステロール(LDL-C)を有意に低下させた。インクリシランによるLDL-Cの低下が心血管イベントリスクの低下につながるかどうかは、まだ確立されていない。
方法:ORION-9、-10、-11の患者レベルのプール解析では、ヘテロ接合体型の家族性高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症(ASCVD)、またはASCVDリスク相当で最大耐量のスタチン治療を受けた患者を1:1にランダム化し、インクリシラン284mgまたはプラセボを1、90日目とその後6ヵ月ごとに18ヵ月間、投与した。事前に指定された探索的エンドポイントである主要心血管イベント(MACE)には、非判定的なCV死亡、心停止、非致死的心筋梗塞(MI)、致死的および非致死的脳卒中を含み、MedDRA(医薬規制用語集)を用いて安全性評価の一部として評価された。また、事前に規定されていなかったが、致死性および非致死性の心筋梗塞、脳卒中も評価された。
結果:ベースライン時の平均LDL-Cは2.88mmol/L。90日目のLDL-Cのプラセボ補正後の減少率は50.6%で、1.37mmol/Lの絶対減少に相当した(いずれもP<0.0001)。18ヵ月間の試験期間中に、3,655例の患者のうち、303例(8.3%)がMACEを経験し、これには74例(2.0%)の致死性および非致死性の心筋梗塞、28例(0.8%)の致死性および非致死性の脳卒中が含まれていた。インクリシランは複合MACE(OR 0.74、95%CI 0.58~0.94)を有意に抑制したが、致死性および非致死性MI(OR 0.80、95%CI 0.50~1.27)、致死性および非致死性脳卒中(OR 0.86、95%CI 0.41~1.81)は抑制しなかった。
結論:この解析は、インクリシランによるLDL-Cの低下によるCVベネフィットの可能性に関する初期の洞察を提供し、MACE減少のベネフィットの可能性を示唆するものである。これらの知見は、より長期間の大規模なCVアウトカム試験で確認されることが待たれる。
キーワード:動脈硬化性心血管病、インクリシラン、LDL-C、主要有害心血管イベント
引用文献
Inclisiran and cardiovascular events: a patient-level analysis of phase III trials
Kausik K Ray et al. PMID: 36331326 PMCID: PMC9825807 DOI: 10.1093/eurheartj/ehac594
Eur Heart J. 2023 Jan 7;44(2):129-138. doi: 10.1093/eurheartj/ehac594.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36331326/
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