家族性腺腫性ポリポーシスに対してスリンダクの適応外使用は有効なのか?
家族性大腸腺腫症は、大腸腺腫症遺伝子の生殖細胞系列変異により発症することが知られています。数百個の大腸腺腫が発生し、最終的には大腸癌となることが特徴です。非ステロイド性抗炎症薬は腺腫の退縮をもたらしますが、腺腫の予防が可能かどうかは不明です。
そこで今回は、遺伝子型的に家族性腺腫性ポリポーシスに罹患しているものの、表現型的には罹患していない41例の若年被験者(年齢範囲 8〜25歳)を対象に、スリンダクの有効性・安全性を検討したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験であり、被験者にはスリンダクの75mgまたは150mgを1日2回経口投与するか、同じ外観のプラセボ錠を48ヵ月間投与しました。新しい腺腫の数と大きさ、治療の副作用を4年間4ヵ月ごとに評価し、正常な大腸粘膜の生検標本で5つの主要プロスタグランジンレベルを連続的に測定しました。
試験結果から明らかになったことは?
4年間の治療後、スリンダク投与群の平均コンプライアンス率は76%を超え、粘膜のプロスタグランジンレベルはプラセボ投与群より低値でした。
スリンダク群 | プラセボ群 | P値 | |
腺腫の発生 | 21例中9例 (43%) | 20例中11例 (55%) | P=0.54 |
試験期間中、スリンダク群では21例中9例(43%)、プラセボ群では20例中11例(55%)に腺腫が発生しました(P=0.54)。ポリープの平均数(P=0.69)や大きさ(P=0.17)には、両群間に有意差はありませんでした。
線形縦断法を含む評価によると、スリンダクは腺腫の発生を遅らせることはありませんでした。
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大腸がんのうち、遺伝性は約5%とされています。原因遺伝子が同定されている代表的な遺伝性大腸がんとして、家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis, FAP)やリンチ症候群があります。これらの遺伝性症候群は、放置していると大腸がんに進行することが知られています。
診療ガイドライン(遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版)によれば、FAPに対して「確実な治療法は大腸癌を発生する前に大腸切除を行うこと(予防的大腸切除)である。」とされていますが、NSAIDs スリンダクによる化学的一次予防が適応外使用されることがあります。
さて、本試験結果によれば、スリンダク標準用量は、FAPにおける腺腫の発生を予防しませんでした。患者数が限られているため、小規模な試験にならざるを得ませんが、スリンダクの有効性は期待できなさそうです。
同ガイドラインにおいても、FAPの大腸腺腫に対する化学予防に関して、有効性・安全性の面から有効な薬剤はないことから、実施しないことが強く推奨されています。侵襲的な治療を先送りにできる有用な薬剤の開発が求められます。
続報に期待。
☑まとめ☑ スリンダク標準用量は、家族性腺腫性ポリポーシス患者における腺腫の発生を予防しなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:家族性大腸腺腫症は、大腸腺腫症遺伝子の生殖細胞系列変異により発症し、数百個の大腸腺腫が発生し、最終的には大腸癌となることが特徴である。非ステロイド性抗炎症薬は腺腫の退縮をもたらすが、腺腫の予防が可能かどうかは不明である。
方法:遺伝子型的に家族性腺腫性ポリポーシスに罹患しているが表現型的には罹患していない41例の若年被験者(年齢範囲 8〜25歳)を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。被験者には、スリンダクの75mgまたは150mgを1日2回経口投与するか、同じ外観のプラセボ錠を48ヵ月間投与した。新しい腺腫の数と大きさ、治療の副作用を4年間4ヵ月ごとに評価し、正常な大腸粘膜の生検標本で5つの主要プロスタグランジンレベルを連続的に測定した。
結果:4年間の治療後、スリンダク投与群の平均コンプライアンス率は76%を超え、粘膜のプロスタグランジンレベルはプラセボ投与群より低値であった。試験期間中、スリンダク群では21例中9例(43%)、プラセボ群では20例中11例(55%)に腺腫が発生した(P=0.54)。ポリープの平均数(P=0.69)や大きさ(P=0.17)には、両群間に有意差はなかった。スリンダクは、線形縦断法を含む評価によると、腺腫の発生を遅らせることはなかった。
結論:スリンダク標準用量は、家族性腺腫性ポリポーシス患者における腺腫の発生を予防しなかった。
引用文献
Primary chemoprevention of familial adenomatous polyposis with sulindac
Francis M Giardiello et al. PMID: 11932472 PMCID: PMC2225537 DOI: 10.1056/NEJMoa012015
N Engl J Med. 2002 Apr 4;346(14):1054-9. doi: 10.1056/NEJMoa012015.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11932472/
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