BMIと急性の心血管疾患リスクとの関連性はどのくらいなのか?
Body mass index(BMI)分布と心血管疾患(CVD)への影響は、アジアと欧米の集団で異なりますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、日本人のCVD患者における肥満と低体重の有病率およびBMIの安全域の時間的な傾向を明らかにすることを目的に実施された日本のデータベース研究の結果をご紹介します。
本試験では、全国のJapanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases-Diagnosis Procedure Combinationデータセットから5,020,464件の記録を経時的(2012~2019)に解析し、6つの急性CVDについてBMI動向と院内死亡率への影響が評価されました。具体的には、急性心不全(AHF)、急性心筋梗塞(AMI)、急性大動脈解離(AAD)、虚血性脳卒中(IS)、脳内出血(ICH)、クモ膜下出血(SAH)の6つの急性CVDについて、BMIの傾向と院内死亡率への影響が評価されました。また、WHOアジアBMI基準を用いて、患者を低体重(<18.5 kg/m2)、普通(18.5~22.9 kg/m2)、過体重危険(23.0~24.9 kg/m2)、肥満I(25.0~29.9 kg/m2)および肥満II(≥ 30.0 kg/m2)の五群に分類し、肥満の度合いを評価しました。
試験結果から明らかになったことは?
年齢は、すべての疾患において高BMIと有意かつ逆相関していました(P<0.001)。BMI区分の割合は経時的に有意に変化しました。BMIの年次推移は、急性大動脈解離(AAD)を除き、有意かつ緩やかな増加を示しました。
低体重(BMI<18.5 kg/m2) のオッズ比 OR vs. 普通(18.5~22.9 kg/m2) | |
急性心不全(AHF) | OR 1.41 (95%CI 1.35~1.48) P<0.001 |
急性心筋梗塞(AMI) | OR 1.27 (95%CI 1.20~1.35) P<0.001 |
急性大動脈解離(AAD) | OR 1.23 (95%CI 1.16~1.32) P<0.001 |
虚血性脳卒中(IS) | OR 1.45 (95%CI 1.41~1.50) P<0.001 |
脳内出血(ICH) | :OR 1.18 (95%CI 1.13~1.22) P<0.001 |
クモ膜下出血 | OR 1.17 (95%CI 1.10~1.26) P<0.001 |
調整済み混合モデルにおいて、低体重はすべてのCVD患者の院内死亡の高リスクと有意に関連していました(急性心不全:OR 1.41、95%CI 1.35~1.48、P<0.001; 急性心筋梗塞:OR 1.27、95%CI 1.20~1.35、P<0.001; AAD:OR 1.23、95%CI 1.16~1.32、P<0.001; 虚血性脳卒中:OR 1.45、95%CI 1.41~1.50、P<0.001; 脳内出血:OR 1.18、95%CI 1.13~1.22、P<0.001; クモ膜下出血:OR 1.17、95%CI 1.10~1.26、P<0.001)。さらに、肥満I群およびII群は、急性心不全と虚血性脳卒中を除いて、院内死亡率の上昇と有意に関連していた。
今回対象となった6つの急性CVDでは、すべてのBMIカテゴリーにおいて、年齢が院内死亡率と関連していた。
コメント
BMIと急性心疾患との関連性については充分に検討されていません。特に日本人は白人と比較してベースの心血管イベントの発症リスクが低いことから、BMIを用いた肥満度との関連性についての検証が求められます。
さて、本試験結果によれば、日本のデータベース研究において、BMIは6種類のCVD患者において年々増加していることが明らかとなりました。今回対象となった6つの急性心疾患において、低体重は高い院内死亡率と関連していましたが、肥満が院内死亡率に及ぼす影響はCVDの種類によって異なるようでした。
BMIについては高すぎても低すぎても心血管リスクや死亡リスクと相関することが、これまで報告されていますので、本試験結果は矛盾しません。特に低体重は院内死亡リスクの増加と関連していることから、個別の患者のリスク評価として有用なのではないでしょうか。
続報に期待。
☑まとめ☑ 日本のデータベース研究において、BMIは6種類のCVD患者において年々増加した。低体重は高い院内死亡率と関連していたが、肥満が院内死亡率に及ぼす影響はCVDの種類によって異なるようであった。
根拠となった試験の抄録
背景:Body mass index(BMI)分布と心血管疾患(CVD)への影響は、アジアと欧米の集団で異なる。本研究は、日本人のCVD患者における肥満と低体重の有病率およびBMIの安全域の時間的な傾向を明らかにすることを目的とした。
方法:全国のJapanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases-Diagnosis Procedure Combinationデータセットから5,020,464件の記録を経時的(2012~2019)に解析し、6つの急性CVDについてBMI動向と院内死亡率への影響を評価した。急性心不全(AHF)、急性心筋梗塞(AMI)、急性大動脈解離(AAD)、虚血性脳卒中(IS)、脳内出血(ICH)、クモ膜下出血(SAH)の6つの急性CVDについて、BMIの傾向と院内死亡率への影響を評価した。WHOアジアBMI基準を用いて、患者を低体重(<18.5 kg/m2)、普通(18.5-22.9 kg/m2)、過体重危険(23.0-24.9 kg/m2)、肥満I(25.0-29.9 kg/m2)および肥満II(≥ 30.0 kg/m2)の五群に分類し、肥満の度合いを評価した。
結果:年齢は、すべての疾患において高BMIと有意かつ逆相関していた(P<0.001)。BMI区分の割合は経時的に有意に変化した。BMIの年次推移は、急性大動脈解離(AAD)を除き、有意かつ緩やかな増加を示した。調整済み混合モデルにおいて、低体重はすべてのCVD患者の院内死亡の高リスクと有意に関連していた(急性心不全:OR 1.41、95%CI 1.35~1.48、P<0.001; 急性心筋梗塞:OR 1.27、95%CI 1.20~1.35、P<0.001; AAD:OR 1.23、95%CI 1.16~1.32、P<0.001; 虚血性脳卒中:OR 1.45、95%CI 1.41~1.50、P<0.001; 脳内出血:OR 1.18、95%CI 1.13~1.22、P<0.001; クモ膜下出血:OR 1.17、95%CI 1.10~1.26、P<0.001)。さらに、肥満I群およびII群は、急性心不全と虚血性脳卒中を除いて、院内死亡率の上昇と有意に関連していた。今回対象となった6つの急性CVDでは、すべてのBMIカテゴリーにおいて、年齢が院内死亡率と関連していた。
結論:BMIは6種類のCVD患者において年々増加した。低体重のBMIは高い死亡率と関連していたが、肥満が院内死亡率に及ぼす影響はCVDの種類によって異なる。
引用文献
Impact of body mass index on in-hospital mortality for six acute cardiovascular diseases in Japan
Naofumi Yoshida et al. PMID: 36344547 PMCID: PMC9640599 DOI: 10.1038/s41598-022-23354-y
Sci Rep. 2022 Nov 7;12(1):18934. doi: 10.1038/s41598-022-23354-y.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36344547/
コメント