進行CKD高齢患者の意思決定における意思決定支援ツールの有効性は?
慢性腎臓病(CKD)が進行した高齢患者では、腎不全の管理について難しい決断を迫られ、しばしば決断の葛藤や後悔、希望と異なる治療などを経験することが報告されています。意思決定を行う前に患者教育の他、患者の意思の明確化が求められますが、まだまだ充分とは言えない状況です。
そこで今回は、腎代替療法に関する意思決定支援が、通常ケアと比較して意思決定の質を向上させるかどうかを評価した多施設共同ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験の対象施設は、米国4施設に関する外来腎臓内科クリニック8施設であり、試験参加者は、2018年から2020年に募集した非透析CKDステージ4~5の70歳以上の英語堪能な患者でした。
介入は、CKDを有する高齢者向けの対話型Webベースの意思決定支援ツールであるDART(Decision-Aid for Renal Therapy)であり、対照群は通常ケアを受けました。また、両群とも治療に関する書面教育を受けました。
本試験の主要評価項目は、ベースラインから3、6、12、18ヵ月後までのdecisional conflict scale(DCS)スコアの変化であり、副次的評価項目は予後および治療に関する知識の変化、不確実性の変化でした。
Decisional Conflict Scale(DCS)スコア
Decisional Conflict Scale(DCS)は、Ottawa Hospital Research Institute(OHRI)が開発した患者の意思決定の葛藤の度合いを測定する評価尺度。
DCSスコアは、16項目の質問に対して、それぞれ5段階で数値化する。総スコアはこれら16項目全てを合計し、16で除したのち、25をかけて算出する。
各16項目について以下の5段階で評価。
0:とてもそう思う
1:そう思う
2:どちらでもない
3:そう思わない
4:全くそう思わない
総スコアの範囲:0(葛藤がない)~100(極めて高い葛藤状態)
試験結果から明らかになったことは?
400例の参加者のうち、363例が対象となり、180例が通常ケアに、183例がDARTにランダムに割り付けられました。
意思決定の質 | 平均DCS | |
DART(Decision-Aid for Renal Therapy) vs. 対照 | 改善 | 平均差 -8.5 (95%CI -12.0 ~ -5.0) P<0.001 |
意思決定の質はDARTにより改善し、平均DCSは対照と比較して低下しました(平均差 -8.5[95%CI -12.0 ~ -5.0];P<0.001)。6ヵ月でも同様の結果が得られ、その後は減少しました。
3ヵ月後、DARTは通常ケアに対して知識を向上させました(平均差 7.2 [CI 3.7 ~ 10.7]; P<0.001); 6ヵ月後の同様の知見は、18ヵ月後にわずかに減少しました(平均差 5.9 [CI 1.4 ~ 10.3]; P=0.010)。
治療に対する嗜好:「わからない」の割合 | 介入群(DART) | 対照群 |
ベースライン | 58% | 51% |
3ヵ月 | 28% | 38% |
6ヵ月 | 20% | 35% |
12ヵ月 | 23% | 32% |
18ヵ月 | 14% | 18% |
治療に対する嗜好は、ベースライン時の「わからない」58%から、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月において、DARTではそれぞれ28%、20%、23%、14%と変化し、通常ケアでは51%から38%、35%、32%、18%でした。
コメント
進行CKD患者において、様々な治療オプションの提示が可能となりましたが、同時に患者の意思決定の明確化が困難となっています。特に腎代替療法に関する意思決定における支援が求められますが、有力な介入方法は確立されていません。
さて、本試験結果によれば、CKDを有する高齢者向けの対話型Webベースの意思決定支援ツールであるDARTを用いることにより、通常ケアのみと比較して、意思決定の質が改善し、治療に対する嗜好が明確となることが示されました。
治療における意思決定を明確化するためには、通常ケアに対する知識向上だけでなく治療オプションについても理解する必要があります。そのためにDARTを活用することは有益なのかもしれません。
続報に期待。
☑まとめ☑ CKDを有する高齢者向けの対話型Webベースの意思決定支援ツールであるDARTにより、通常ケアと比較して、意思決定の質が改善し、治療に対する嗜好が明確となった。
根拠となった試験の抄録
背景:慢性腎臓病(CKD)が進行した高齢患者では、腎不全の管理について難しい決断を迫られ、しばしば決断の葛藤や後悔、希望と異なる治療などを経験する。
目的:腎代替療法に関する意思決定支援は、通常の治療と比較して意思決定の質を向上させるかどうかを評価すること。
試験デザイン:多施設共同ランダム化比較試験(ClinicalTrials.gov:NCT03522740)
試験設定:米国4施設に関する外来腎臓内科クリニック8施設
試験参加者:2018年から2020年に募集した非透析CKDステージ4~5の70歳以上の英語堪能な患者
介入:DART(Decision-Aid for Renal Therapy)は、CKDを有する高齢者向けの対話型Webベースの意思決定支援ツールである。両群とも治療に関する書面教育を受けた。
測定項目:ベースラインから3、6、12、18ヵ月後までのdecisional conflict scale(DCS)スコアの変化。副次的アウトカムとして、予後および治療に関する知識の変化、不確実性の変化。
結果:400例の参加者のうち、363例がランダムに割り付けられた。180例が通常ケアに、183例がDARTに割り付けられた。意思決定の質はDARTにより改善し、平均DCSは対照と比較して低下した(平均差 -8.5[95%CI -12.0 ~ -5.0];P<0.001)。6ヵ月でも同様の結果が得られ、その後は減少した。3ヵ月後、DARTは通常ケアに対して知識を向上させた(平均差 7.2 [CI 3.7 ~ 10.7]; P<0.001); 6ヵ月後の同様の知見は、18ヵ月後にわずかに減少した(平均差 5.9 [CI 1.4 ~ 10.3]; P=0.010)。治療に対する嗜好は、ベースライン時の「わからない」58%から、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月では、DARTではそれぞれ28%、20%、23%、14%と変化し、通常のケアでは51%から38%、35%、32%、18%であった。
試験の限界:ラテンアメリカ系患者の割合が少なかった。
結論:DARTは、DART介入後6か月間、高齢の進行CKD患者における意思決定の質を改善し、治療に対する嗜好を明確にした。
主な資金源:Patient-Centered Outcomes Research Institute(PCORI)
引用文献
Effectiveness of an Intervention to Improve Decision Making for Older Patients With Advanced Chronic Kidney Disease : A Randomized Controlled Trial
Keren Ladin et al. PMID: 36534976 DOI: 10.7326/M22-1543
Ann Intern Med. 2022 Dec 20. doi: 10.7326/M22-1543. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36534976/
コメント