高齢者における高マグネシウム血症リスクと腎機能(eGFR)
慢性腎臓病(CKD)患者の多くは高齢者であり、腸の運動機能低下などにより、便秘を有する患者が多いことが知られています。
日本では便秘の初期治療から、習慣性のない緩下剤として酸化マグネシウム(MgO)製剤が広く使用され長期投与されていることが多いです。MgO製剤は、日本だけでなく、欧米においても腎機能低下患者では慎重投与であり、使用する際には高Mg血症への注意が必要です。
2008年11月には医薬品医療機器等安全性情報により、MgO製剤の長期投与における「 高マグネシウム(Mg)血症」についての注意喚起が図られています。さらに、2020年8月にも同様の注意喚起がなされています。
しかし、腎機能低下患者に対するMgO製剤の腎機能とMgO製剤の用量に関するエビデンスはほとんどありません。そこで、腎機能と高Mg血症の発現リスクおよびMgO製剤の用量と血清Mg値への影響を検討した日本の単施設、後向き研究の結果をご紹介します。
本試験では、2010年4月1日~2012年2月29日の期間にMgO製剤を使用し、血清Mg値および血清クレアチニン(Cr)値の検査を実施した患者を抽出しました。その中でCKD診療ガイド2009において、病期ステージ3以上に分類されるeGFR<60mL/min/1.73m2であり、血清Mg値および血清Cr値の検査時にMgO製剤を服用していた87例が対象となりました。
試験結果から明らかになったことは?
eGFRと血清Mg値に有意な相関関係が得られました。
eGFR(mL/min/1.73m2) | 血清Mg値(mg/dL) | 血清Mg 2.5mg/dL超の異常値件数(%) | 6mg/dL以上の件数(%) | 測定件数 |
45≦eGFR<60 | 2.2±0.2 | 14件(7.4) | 0件 | 190件 |
30≦eGFR<45 | 2.3±0.4 | 44件(17.7) | 0件 | 245件 |
15≦eGFR<30 | 2.3±0.4 | 31件(22.3) | 0件 | 137件 |
<15 | 3.1±1.2 いずれもP<0.01 | 72件(63.7) | 4件(3.5) P<0.01 vs. | 113件 |
45≦eGFR<60の患者では、投与量と血清Mg値に有意な相関関係は認められませんでした。
eGFR<45の患者では投与量と血清Mg値に有意な相関が認められ、eGFR<15では、平均血清Mg値が正常範囲外まで上昇しました。また、CKD病期ステージ5(eGFR<15)の患者では、血清Mg値6mg/dL以上がMgO製剤1,000mg/日以上で認められ、eGFR<15の患者では1,000mg/日以上の投与量では高Mg血症への厳重な注意が必要と考えられました。
コメント
酸化マグネシウム使用中の高齢患者において、高マグネシウム血症のリスク増加が懸念されます。しかし、どのような腎機能(eGFR)がどの程度低下した場合にリスクが増加するのかについては充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、eGFR≧45の患者では、eGFR<45の患者よりもMgO製剤は比較的安全に使用できることが示唆されました。さらに、eGFR<45の患者も、血清Mg値の測定を行い、腎機能に応じた投与量を設定することで、MgOを安全に使用することが可能であることが示唆されました。
日本の単施設かつ小規模な検討結果であることから、より大規模な試験結果も踏まえたほうが良いと考えられますが、eGFRの程度と高マグネシウム血症のリスクを把握する上で貴重な研究報告であると考えます。
続報に期待。
✅まとめ✅ eGFR≧45の患者では、eGFR<45の患者よりもMgO製剤は比較的安全に使用できることが示唆された。さらに、eGFR<45の患者も、血清Mg値の測定を行い、腎機能に応じた投与量を設定することで、MgOを安全に使用することが可能であることが示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:慢性腎臓病(CKD)患者の多くは高齢者であり、腸の運動機能低下などにより、便秘を有する患者が多い。わが国では便秘の治療に、習慣性のない緩下剤として酸化マグネシウム(MgO)製剤が広く使用され長期投与されていることも多い。MgO製剤は、わが国だけでなく、欧米においても腎機能低下患者では慎重投与であり、使用する際には高Mg血症への注意が必要である。平成20年11月には医薬品医療機器等安全性情報により、MgO製剤の長期投与における「 高マグネシウム(Mg)血症」についての注意喚起が図られている。腎機能低下患者に対するMgO製剤の腎機能とMgO製剤の用量に関するエビデンスはほとんど見当たらない。そこで、腎機能と高Mg血症の発現リスクおよびMgO製剤の用量と血清Mg値への影響を検討した。
方法:2010年4月1日~2012年2月29日の期間にMgO製剤を使用し、血清Mg値および血清クレアチニン(Cr)値の検査を実施した患者を抽出した。その中でCKD診療ガイド2009において、病期ステージ3以上に分類されるeGFR<60mL/min/1.73m2であり、血清Mg値および血清Cr値の検査時にMgO製剤を服用していた87例を対象とした。
結果:eGFRと血清Mg値に有意な相関関係が得られた。45≦eGFR<60の患者では、投与量と血清Mg値に有意な相関関係は認められなかった。eGFR<45の患者では投与量と血清Mg値に有意な相関が認められ、eGFR<15では、平均血清Mg値が正常範囲外まで上昇した。また、CKD病期ステージ5(eGFR<15)の患者では、血清Mg値が6mg/dL以上がMgO製剤1,000mg/日以上で認められ、eGFR<15の患者では1,000mg/日以上の投与量では高Mg血症への厳重な注意が必要と考えられた。
考察:今回の研究結果より、eGFR≧45の患者では、eGFR<45の患者よりもMgO製剤は比較的安全に使用できることが示唆された。さらに、eGFR<45の患者も、血清Mg値の測定を行い、腎機能に応じた投与量を設定することで、MgOを安全に使用することが可能であることが示唆された。
引用文献
酸化マグネシウム製剤の腎機能低下患者における血清マグネシウム値への影響
中村ら
日腎薬誌 Jpn J Nephrol Pharmacother 2013; 2(1): 3-9.
ー 続きを読む https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjnp/2/1/2_3/_pdf/-char/ja
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