多併存疾患とポリファーマシーにおける性差の影響とは?
医療の進歩などにより高齢化が進んでいます。高齢化に伴い多病化(多併存疾患、多疾病化)が進んでいますが、こうした最近の傾向がポリファーマシーの程度および複雑さに与える影響や性別による変動の可能性は依然として不明です。
そこで今回は、2003年と2016年の多疾患、ポリファーマシー(5種類以上の薬剤)、ハイパーポリファーマシー(10種類以上の薬剤)における性差、およびポリファーマシー指標における年齢、多疾病レベル、時間との相互関連について検討した反復横断研究の結果をご紹介します。
本試験では、カナダ・オンタリオ州で2つの指標日に健康保険に加入していた66歳以上のすべての人を対象に、リンクした健康行政データベースによる反復横断的研究デザインが採用されました。記述分析および多変量ロジスティック回帰モデルを実施し、モデルには年齢、多疾病レベル、期間の相互作用項を含め、2016年と2003年のポリファーマシーおよびハイパーポリファーマシー確率、リスク差およびリスク比を推定しました。
試験結果から明らかになったことは?
多疾病、ポリファーマシー、ハイパーポリファーマシーは13年間(2003年→2016年)で有意に増加しました。
男性 | 女性 | |
ポリファーマシーの経時的な絶対的増加 | 6.6% [55.7%-62.3%] | 0.9% [64.2%-65.1%] |
多疾病の絶対的増加 | 6.9% [72.5%-79.4%] | 6.2% [75.9%-82.1%] |
いずれの指標日においても、3つすべての有病率推定値は女性で高いことが示されましたが、ポリファーマシーの経時的な絶対的増加は男性でより大きいことが明らかとなりました(6.6%[55.7%-62.3%] vs. 女性0.9%[64.2%-65.1%])。
多疾病の絶対的増加は男女で同様でした(それぞれ6.9%[72.5%-79.4%] vs. 6.2%[75.9%-82.1%] )。
モデルの結果、90歳未満の女性ではポリファーマシーは時間の経過とともに減少しましたが(特に若年層と疾患数が少ない人)、男性ではすべての年齢と多重罹患レベルにおいて増加しました(一般的に高齢層と疾患数が4以下の人において増加の絶対値が大きい)。
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高齢化社会において、多併存疾患とポリファーマシーの傾向や特徴を把握することは重要です。
さて、本試験結果によれば、反復横断研究の結果、90歳未満の女性ではポリファーマシーは時間の経過とともに減少しましたが(特に若年層と疾患数が少ない集団)、男性ではすべての年齢と多疾病レベルにおいて増加しました(一般的に高齢層と疾患数4以下の集団において増加の絶対値が大きい)。
高齢者における慢性疾患負荷の増加がポリファーマシー療法の変化に与える影響には、性差と年齢差があることになりました。女性においては、若年層と疾患数が少ない集団において時間経過とともにポリファーマシーの絶対数が減少しています。女性ホルモンは、心血管疾患や死亡リスクを低減させることが報告されていることから、本結果は予測通りであると考えられます。一方、男性において、疾患数4以下の集団でポリファーマシーの絶対的増加が大きい結果が示されましたが、これには未知の交絡が残存していることが考えられます。どのような要因が関与しているのか更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 反復横断研究の結果、90歳未満の女性ではポリファーマシーは時間の経過とともに減少したが(特に若年層と疾患数が少ない集団)、男性ではすべての年齢と多疾病レベルにおいて増加した(一般的に高齢層と疾患数4以下の集団において増加の絶対値が大きい)
根拠となった試験の抄録
背景:高齢者では多病化(多併存疾患、多疾病化)が進んでいるが、こうした最近の傾向がポリファーマシーの程度や複雑さに与える影響や性別による変動の可能性は依然として不明である。2003年と2016年の多疾患、ポリファーマシー(5種類以上の薬剤)、ハイパーポリファーマシー(10種類以上の薬剤)の性差、およびポリファーマシー指標における年齢、多疾病レベル、時間との相互関連について検討した。
方法:カナダ・オンタリオ州で2つの指標日に健康保険に加入していた66歳以上のすべての人を対象に、リンクした健康行政データベースによる反復横断的研究デザインを採用した。記述分析および多変量ロジスティック回帰モデルを実施し、モデルには年齢、多疾病レベル、期間の相互作用項を含め、2016年と2003年のポリファーマシーおよびハイパーポリファーマシー確率、リスク差およびリスク比を推定した。
結果:多疾病、ポリファーマシー、ハイパーポリファーマシーは13年間で有意に増加した。いずれの指標日においても、3つすべての有病率推定値は女性で高かったが、ポリファーマシーの経時的な絶対的増加は男性でより大きかったが(6.6%[55.7%~62.3%] vs. 女性0.9%[64.2%~65.1%])、多疾病の絶対的増加は男女で同様だった(それぞれ6.9%[72.5%~79.4%] vs. 6.2%[75.9%~82.1%] )。モデルの結果、90歳未満の女性ではポリファーマシーは時間の経過とともに減少したが(特に若年層と疾患数が少ない人)、男性ではすべての年齢と多重罹患レベルにおいて増加した(一般的に高齢層と疾患数が4以下の人において増加の絶対値が大きい)。
結論:高齢者における慢性疾患負荷の増加がポリファーマシー療法の変化に与える影響には、性差と年齢差がある。これらの傾向の原因と健康への影響についてはさらなる調査が必要であるが、今回の結果は、高齢者集団における多疾病とポリファーマシーとの関連性の進展における異質性と複雑性を支持するものであった。
引用文献
Sex differences in multimorbidity and polypharmacy trends: A repeated cross-sectional study of older adults in Ontario, Canada
Colleen J Maxwell et al. PMID: 33901232 PMCID: PMC8075196 DOI: 10.1371/journal.pone.0250567
PLoS One. 2021 Apr 26;16(4):e0250567. doi: 10.1371/journal.pone.0250567. eCollection 2021.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33901232/
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