おくるみを使用すると股関節の発達に悪影響を及ぼすのか?
モンゴルの伝統的な乳幼児の産着(おくるみ、swaddling、スワドリング)は、手足を伸ばし、股関節を内転させるため、股関節の成熟と形成に異常をきたし、股関節の発達異常(DDH)の一因となる可能性があります。しかし、おくるみとDDHリスクについては充分に検討されていません。
そこで今回は、おくるみの使用と股関節の発達程度との関連性について検証したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
ウランバートルの三次病院において、出生時にDDHに悪化するリスクのある股関節が1つまたは2つある新生児(Graf Type 2a、生理的に未熟な股関節)80例を2群にランダムに割り付けた。おくるみ群(n=40)にはモンゴルの一般的な伝統的方法で1ヵ月間おくるみを行い、非おくるみ群(n=40)には、おくるみを全く使用しないように指導した。登録者全員を毎月股関節超音波検査でフォローアップし、必要に応じて外転-屈曲スプリントを用いて治療した。両群は、主要アウトカムとして、フォローアップコントロールにおけるGrafの「非1型」股関節の割合について比較された。副次的アウトカムはDDHの割合と退院までの時間(Graf Type 1; 健常股関節)であった。さらに、主要アウトカムとおくるみの使用期間(日数)と、おくるみの使用頻度(1日あたりの使用時間)との相関を算出した。
試験結果から明らかになったことは?
2019年9月から2020年3月まで募集を継続し、2020年6月にフォローアップデータが得られました。登録者80例すべてで最終アウトカムデータが収集されました。
おくるみ群 | 非おくるみ群 | |
股関節が非1型だった割合 (成熟した股関節以外の状態) | 7.5%(3/40例) p=0.001 | 40%(16/40例) |
股関節の発達異常(DDH) | 0例 | 8例 |
退院までの平均期間 | 5.1±0.3週間 | 8.4±0.89週間 |
いずれかのフォローアップ検査で股関節が非1型症例の割合は、非おくるみ群で7.5%(3/40例)、おくるみ群で40%(16/40例)でした(p=0.001)。
非おくるみ群ではDDH症例は認められませんでしたが、おくるみ群では8例でした。退院までの平均期間は、おくるみ群で5.1±0.3週間、非おくるみ群で8.4±0.89週間(p=0.001)でした。
主要アウトカムとおくるみの使用頻度(1日あたりの時間数)(r=0.81)および使用期間(日数)(r=0.43)の間には相関が認められました。
コメント
おくるみは乳児に安心感を与え、睡眠時間を確保します。その一方で、股関節の発達不全を引き起こし、長期間の治療や障害を負う可能性がありますが充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、モンゴルの伝統的な産着(おくるみ)は、脚を伸ばし、腰を伸展・内転させた状態で行うため、股関節異形成不全のリスクが高くなることが示されました。
一時的な使用で、股関節発達リスクが大幅に増加するとは考えにくいですが、使用時間はなるべく短時間にした方がよいと考えられます。
続報に期待。
乳児の股関節評価法であるGraf法とは?
乳児股関節の超音波検査ではGraf氏によって提案されている手法(Graf法)が、乳児の股関節異常の診断基準として広く用いられています。Graf法では、基準点(腸骨外壁、骨性臼蓋嘴、関節唇、腸骨下端)から3本の線(①基線:軟骨膜と腸骨外壁とが接する点を通り腸骨外壁と平行な線、⓶骨性臼蓋嘴:骨性臼蓋嘴と腸骨下端を結ぶ線、③軟骨性臼蓋線:骨性臼蓋嘴と関節唇の中心を結ぶ線)を引き、それらが成す角度(α角、β角)によって股関節の状態を7つに分類しています。
股関節タイプ | 状態 | α角 | β角 |
Type I | 成熟した股関節 Mature hip | ≧60° | <77° |
Type IIa | 生理的に未熟(年齢≦3ヶ月) Physiologically immature(age≦3 months) | 50°-59° | >55° |
Type IIb | 骨化遅延(年齢>3ヶ月) Delay of ossification(age>3 months) | 50°-59° | >55° |
Type IIc | 重症股関節症 Critical hip | 43°-49° | >77° |
Type D | 脱臼した股関節 Decentering hip | 43°-49° | >77° |
Type III | 股関節脱臼 Dislocated hip | <43° | |
Type IV | 股関節脱臼 Dislocated hip | <43° |
☑まとめ☑ モンゴルの伝統的な産着(おくるみ)は、脚を伸ばし、腰を伸展・内転させた状態で行うため、股関節異形成不全のリスクが高くなる。
根拠となった試験の抄録
背景:モンゴルの伝統的な乳幼児の産着(おくるみ、swaddling、スワドリング)は、手足を伸ばし、股関節を内転させるため、股関節の成熟と形成に異常をきたし、股関節の発達異常(DDH)の一因となる可能性がある。この仮説は、このランダム化比較試験で検証された。
方法:ウランバートルの三次病院において、出生時にDDHに悪化するリスクのある股関節が1つまたは2つある新生児(Graf Type 2a、生理的に未熟な股関節)80例を2群にランダムに割り付けた。おくるみ群(n=40)にはモンゴルの一般的な伝統的方法で1ヵ月間おくるみを行い、非おくるみ群(n=40)には、おくるみを全く使用しないように指導した。登録者全員を毎月股関節超音波検査でフォローアップし、必要に応じて外転-屈曲スプリントを用いて治療した。両群は、主要アウトカムとして、フォローアップコントロールにおけるGrafの「非1型」股関節の割合について比較された。副次的アウトカムはDDHの割合と退院までの時間(Graf Type 1; 健常股関節)であった。さらに、主要アウトカムとおくるみの使用期間(日数)と、おくるみの使用頻度(1日あたりの使用時間)との相関を算出した。
結果:2019年9月から2020年3月まで募集を継続し、2020年6月にフォローアップデータを完成させた。登録者 80例すべてで最終アウトカムデータを収集した。いずれかのフォローアップ検査で股関節が非1型症例の割合は、非おくるみ群で7.5%(3/40例)、おくるみ群で40%(16/40例)だった(p=0.001)。非おくるみ群ではDDH症例は認められなかったが、おくるみ群では8例だった。退院までの平均期間は、おくるみ群で5.1±0.3週間、非おくるみ群で8.4±0.89週間(p=0.001)であった。主要アウトカムとおくるみの使用頻度(1日あたりの時間数)(r=0.81)および使用期間(日数)(r=0.43)の間には相関が認められた。
結論:モンゴルの伝統的な産着(おくるみ)は、脚を伸ばし、腰を伸展・内転させた状態で行うため、股関節異形成不全のリスクが高くなる。
試験登録:レトロスペクティブに登録、ISRCTN11228572
キーワード:股関節の発達異形成、股関節の超音波検査、スワドリング(おくるみ、産着)
引用文献
Traditional Mongolian swaddling and developmental dysplasia of the hip: a randomized controlled trial
Munkhtulga Ulziibat et al. PMID: 34641800 PMCID: PMC8513275 DOI: 10.1186/s12887-021-02910-x
BMC Pediatr. 2021 Oct 13;21(1):450. doi: 10.1186/s12887-021-02910-x.
— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34641800/
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