駆出率が保たれている心不全患者に対するエンパグリフロジンの効果に男女差はあるのか?
心不全(HF)で駆出率(EF)が保たれている女性と男性では、その臨床的特徴や治療への反応性が異なる可能性があります。2020年に実施されたメタ解析では、2型糖尿病の主要な有害心血管イベントへの予防効果おいて、GLP-1受容体作動薬ではなく、SGLT2阻害薬で性差が認められました。閉経前の女性では、男性と比較して、心血管イベントの発生リスクが低いことが報告されており、これが各薬剤の効果に影響している可能性があります。しかし、薬剤の効果と性差については充分に検討されていません。
そこで今回は、EMPEROR-Preserved試験(Empagliflozin Outcome Trial in Patients With Chronic Heart Failure With Preserved Ejection Fraction)に登録された駆出率が保たれているHF患者において、エンパグリフロジンの効果に対する性別の影響を評価した試験結果をご紹介します。
EMPEROR-Preserved試験の全コホートの女性と男性、および左室EFで定義したサブグループ(EF 41~49%、50~59%、60%以上)において、主要評価項目である心血管死またはHFによる入院に対するエンパグリフロジンの効果、副評価項目(総HF入院、心血管死および全死因、カンザスシティ心筋症質問票スコアなど)が比較検討されました。また、収縮期血圧、尿酸、ヘモグロビン、体重、ナトリウム利尿ペプチド値などの生理学的指標に対するエンパグリフロジンの効果も評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された5,988例のうち、2,676例(44.7%)が女性でした。プラセボ群において、女性は全死亡リスクを含む有害事象のリスクが低い傾向が認められました(ハザード比 0.69[95%CI 0.56〜0.84])。
心血管死またはHFによる入院リスク | |
男性 | ハザード比 0.81 [95%CI 0.69〜0.96] |
女性 | ハザード比 0.75 [95%CI 0.61〜0.92] |
交互作用のP=0.54 |
プラセボと比較して、エンパグリフロジンは、男女ともに心血管死またはHFによる入院のリスクを同程度に減少させました(男性のハザード比 0.81[95%CI 0.69〜0.96]、女性のハザード比 0.75[95%CI 0.61〜0.92]、交互作用のP=0.54)。
性別は、EF群間でエンパグリフロジンとアウトカムの関係を修飾しませんでした。副次的アウトカムおよび生理学的指標についても同様の結果が得られました。
52週時点のKCCQ-CSS | |
男性 | 1.38 |
女性 | 1.63 |
交互作用のP=0.77 |
プラセボと比較して、エンパグリフロジンは、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire Clinical Summary Score(KCCQ-CSS)を男女とも同程度に改善しました(52週時点で男性 1.38 vs. 女性 1.63;交互作用のP=0.77);Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire overall summary scoreおよびtotal summary scoreについても同様の結果が示されました。
コメント
糖尿病治療において、心血管イベントの発生リスクを低減する(先延ばしにする)薬剤が求められています。中でもSGLT2阻害薬は、いくつかの大規模ランダム化比較試験において、心血管イベントや心不全による入院リスクを低減することが示されています。しかし、この薬剤効果における性差の役割については充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、EMPEROR-Preserved試験に参加しあt駆出率が保たれている心不全患者において、エンパグリフロジンの効果(心血管死または心不全による入院リスクの低減)に性差は認められませんでした。また患者報告アウトカムについても同様の結果が示されました。
ただし、1試験の事後解析の結果ですので、他の国や地域、患者背景により異なる結果が示される可能性があります。
続報に期待。
✅まとめ✅ 駆出率が保たれている心不全患者に対するエンパグリフロジンの効果(心血管死または心不全による入院リスクの低減)に性差は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:心不全(HF)で駆出率(EF)が保たれている女性と男性では、その臨床的特徴や治療への反応性が異なる可能性がある。本研究の目的は、EMPEROR-Preserved試験(Empagliflozin Outcome Trial in Patients With Chronic Heart Failure With Preserved Ejection Fraction)に登録された駆出率が保たれているHF患者において、エンパグリフロジンの効果に対する性別の影響を評価することである。
方法:全コホートの女性と男性、および左室駆出率で定義したサブグループ(EF 41~49%、50~59%、60%以上)において、主要評価項目である心血管死またはHFによる入院に対するエンパグリフロジンの効果、副評価項目(総HF入院、心血管死および全死因、カンザスシティ心筋症質問票スコアなど)を比較検討した。また、収縮期血圧、尿酸、ヘモグロビン、体重、ナトリウム利尿ペプチド値などの生理学的指標に対するエンパグリフロジンの効果も評価した。
結果:ランダム化された5,988例のうち、2,676例(44.7%)が女性であった。プラセボ群では、女性は全死亡のリスクを含む有害事象のリスクが低い傾向があった(ハザード比 0.69[95%CI 0.56〜0.84])。プラセボと比較して、エンパグリフロジンは、男女ともに心血管死またはHFによる入院のリスクを同程度に減少させた(男性のハザード比 0.81[95%CI 0.69〜0.96]、女性のハザード比 0.75[95%CI 0.61〜0.92]、交互作用のP=0.54)。性別は、EF群間でエンパグリフロジンとアウトカムの関係を修飾しなかった。副次的アウトカムおよび生理学的指標についても同様の結果が得られた。プラセボと比較して、エンパグリフロジンは、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire Clinical Summary Scoreを男女とも同程度に改善した(52週時点で男性 1.38 vs. 女性 1.63;交互作用のP=0.77);Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire overall summary scoreおよびtotal summary scoreについても同様の結果が示された。
結論:エンパグリフロジンは、駆出率が維持されているHFの女性および男性において、アウトカムと健康状態に同様の効果をもたらした。
Clinicaltrials.gov登録番号: NCT03057951
キーワード:Empagliflozin、健康状態、心不全、入院、男性、女性
引用文献
Effects of Empagliflozin in Women and Men With Heart Failure and Preserved Ejection Fraction
Javed Butler et al. PMID: 36098051 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059755
Circulation. 2022 Sep 13;101161CIRCULATIONAHA122059755. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059755. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36098051/
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