なぜ動物実験の結果を鵜呑みにできないのか?
医薬品が承認されるまでの過程において、主に動物を用いた前臨床試験(非臨床試験)と呼ばれる段階があります。
医薬品になる前の段階では化学物質と呼ばれますが、この化学物質の評価項目は多岐に渡ります。生殖発生毒性試験では、実験動物が用いられ、催奇形性などの安全性評価が実施されます。そして、生殖発生毒性試験の結果をもって医薬品の添付文書に注意書き等が記載されます。
実臨床において、添付文書の記載は法的な効力を有しており、この記載に反し治療が行われ患者に不利益が生じた場合、根拠情報として添付文書が用いられることもあるほどです。しかし、動物実験の結果をもってのみ記載されている情報が、ヒトにおいても同様に当てはまるのかについては疑問が残ります。
そこで今回は、動物とヒトにおける催奇形性結果の一致率について文献調査したFDAの報告結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ヒトの催奇形性因子(38因子) | ヒトの非催奇形性因子(165因子) | |
動物種 | 陽性反応% (真の陽性率) | 陰性反応% (真の陰性率) |
マウス | 85% | 35% |
ラット | 80% | 50% |
ウサギ | 60% | 70% |
ハムスター | 45% | 35% |
サル | 30% | 80% |
2以上の動物種 | 80% | 51% |
すべての動物種 | 21% | 28% |
いずれかの動物種 | 97% | 79% |
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ヒトにおける化学物質の安全性評価に動物実験の結果は欠かせませんが、その結果の扱い方に関して学ぶ機会は少ないように感じています。ある学会に参加した際に得られた情報の一つに今回の文献がありましたのでご紹介しました。1980年の報告と、かなり古い情報ではありますが、現在と大きく異なる可能性は低いと考えられます。
さて、本試験結果によれば、ヒトにおいて催奇形性を引き起こすことが知られている38の催奇形性因子において、対象となったすべての動物種においても催奇形性が認められたのは21%でした。一方、2種類以上の動物種においては催奇形性の反応率が80%、いずれかの動物種においては97%でした。したがって、化学物質の生殖発生毒性試験においては、2種類以上の動物種を使用することで、よりヒトにおける安全性を予測できると考えられます。事実、「医薬品の生殖発生毒性評価に係るガイドライン」について、という厚生労働省の資料では、試験によってラットやウサギ等、2種類の動物を使用するよう記載されています。とはいえ、完全にヒトでの結果と同様というわけではないことから、レジストリー研究を含めた市販後調査や観察研究を行う必要があります。
既知の165の非催奇形性因子については、すべての動物種で再起形成が認められなかったのは28%であり、ラットで50%、ウサギで70%でした。つまり、実際はヒトでの催奇形性が認められない化学物質であっても、動物実験の段階で陽性、つまりヒトでも催奇形性を示す可能性があると判断されてしまうことになります(偽陽性)。
動物実験の結果が陰性、陽性どちらの場合であっても、やはりヒトでの検討結果とは異なるということになります。特に目新しい情報というわけではありませんが、定量的に捉えるための一助になりますと幸いです。
✅まとめ✅ 動物実験の結果はあくまでも参考資料であり、最終的な決定権はない。
引用文献
Caffeine,Deletion of GRAS status, proposed declaration that no prlOrSanCtion exists and use on an interim basis pending additional study
US Food and Drug Administration(FDA)
Federal Register 45 69817-69838, 1980
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