ゾレドロン酸(リクラスト)は経口アレンドロン酸より費用対効果に優れるのか?(日本; Osteoporos Int. 2017)

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日本における費用対効果分析においてゾレドロン酸(リクラスト)は経口アレンドロン酸(週1回)より優れているのか?

骨粗鬆症性骨折の中でも特に股関節骨折は、患者のQOLや健康状態を悪化させるという臨床的負担だけでなく、治療や介護のための医療費という社会経済的負担も大きいとされています。股関節骨折の生存率は、骨折後1年目 81%、5年目 49%、10年目 26%と、一般人口に比べて低いことが報告されています(PMID: 17463112)。また、股関節骨折後の1年間の健康関連QOLスコア(効用値)は、ベースラインと比較して11.5%低下しています(PMID: 18836672)。厚生労働省の国民医療費調査によると、65歳以上の骨密度・骨格および骨折関連支出は、2012年に8,915億円、2013年に9,436億円と推定されています(厚生労働省)。

抗骨粗鬆症薬の普及に伴い、欧米では股関節骨折の発生率は低下していますが、日本ではまだ増加傾向にあります。股関節骨折の全国調査では、2007年の新規骨折件数は148,100件(男性31,300件、女性116,800件)、2012年は175,700件(男性37,600件、女性138,100件)と5年間で約27,600件増加しています(PMID: 26733376PMID: 20234789)。骨粗鬆症性骨折の負担軽減には薬物療法が有効であると考えられており、現在では様々な選択肢があります。ゾレドロン酸はビスホスホネート系薬剤で、海外で行われた大規模な集団ベースのランダム化試験HORIZON-PFT(Pivotal Fracture Trial)において骨粗鬆症性骨折の予防効果が確認されています(PMID: 17476007)。骨粗鬆症の大きな問題のひとつに、患者の受療率の低さがあります。国内報告によると、股関節骨折を経験した患者の骨粗鬆症治療薬の処方率は18.7%、無治療の患者は53.3%と、治療を受ける患者数が不十分であることが示唆されています(PMID: 22076525)。

骨粗鬆症の薬物療法は、骨折のリスクを確実に低減し、骨粗鬆症性骨折の総治療費を削減することが期待されますが、薬物療法の総費用が増加する可能性もあります。近年、先進諸国において、骨粗鬆症に対する様々な薬物療法の費用対効果が検討されており、その結果は臨床現場での意思決定や医療政策に影響を与えつつあります。フィンランド、ノルウェー、オランダで行われたAkehurstらによるゾレドロン酸の医療経済評価では、ゾレドロン酸は基本治療(プラセボ、カルシウム、ビタミンD)や他の既存のビスホスホネートと比較して費用対効果が高いことが報告されています(PMID: 21222506)。

日本では、骨粗鬆症の女性に対するアレンドロン酸治療の費用対効果が検討されています。その結果、骨粗鬆症の治療は、年齢、骨密度(BMD)、臨床的危険因子の数に基づいて、高リスクの集団にのみ検討されるべきであることが示されました(PMID: 22991163)。しかし、これまで日本において、骨折歴のある閉経後女性に対するゾレドロン酸を含む薬物療法に関する医療経済評価は報告されていません。また、日本人は欧米人と比較して、股関節骨折の発生率が低く(PMID: 2021147PMID: 16133645)、椎体骨折の発生率が高い(PMID: 8824859PMID: 12929946)という疫学的特徴があります。また、日本の医療制度は、薬価、治療費、増分費用効果比(ICER)の社会的許容範囲など、欧米とは異なっています。このような理由から、欧米での研究結果をそのまま日本人に当てはめることには問題があります。

そこで今回は、過去に椎体骨折を経験した日本人女性骨粗鬆症患者に対するゾレドロン酸の費用対効果を、日本の医療制度の観点から推計した費用対効果分析の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

70歳の患者では、QALYの増分は-0.004 〜 -0.000、費用の増分は430〜493米ドルで、ゾレドロン酸がアレンドロン酸に対して優位(dominated)でした。

決定論的感度分析では、股関節骨折の相対リスクと薬剤費が、アレンドロン酸と比較してゾレドロン酸の費用対効果に強く影響することが示されました。

治療継続性を考慮したシナリオ分析では、Tスコア-2.0、-2.5、-3.0の患者のQALY獲得あたりのゾレドロン酸のICERはそれぞれ47,435USD、 27,018USD、 10,749USDと推算されました。

コメント

以前から医薬品の費用対効果分析が報告されていますが、日本における報告はまだまだ限られています。少子高齢化社会において、ビスホスホネート製剤の使用量は年々増加していますが、各薬剤の費用対効果の比較は充分ではありません。

さて、本試験結果によれば、ゾレドロン酸はアレンドロン酸に優るが、QALYの増分は-0.004 〜 -0.000と、かなり小さい範囲でした。著者は、ゾレドロン酸を毎年投与することによるコンプライアンスと持続性の優位性を考慮すると、ゾレドロン酸はアレンドロン酸(経口の週1回製剤)と比較して費用対効果の高い治療法である可能性があると結論づけていますが、疑問が残ります。本試験結果をもってゾレドロン酸がアレンドロン酸と比較して、費用対効果に優れるとは結論づけられません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ゾレドロン酸はアレンドロン酸に優るが、QALYの増分はかなり小さい範囲(-0.004 〜 -0.000)であることから、ゾレドロン酸がアレンドロン酸と比較して、費用対効果に優れるとは結論づけられなかった。

根拠となった試験の抄録

概要:ゾレドロン酸の費用対効果を評価するために、モデルベースの経済評価を行った。ゾレドロン酸はアレンドロン酸に優るが、QALYの増分は極めて小さい範囲であった。ゾレドロン酸の年1回の注射による持続性の優位性を考慮すると、ゾレドロン酸は週1回のアレンドロン酸(経口剤)と比較して、費用対効果の高い治療オプションである可能性がある。

はじめに:本研究の目的は、日本における骨粗鬆症治療におけるゾレドロン酸の年1回注射の費用対効果を推計することであった。

方法:過去に椎体骨折を経験した骨粗鬆症患者の転帰を予測するために、患者レベルの状態遷移モデルを作成した。ゾレドロン酸の有効性は、公表されているネットワークメタ解析から導き出した。ゾレドロン酸、アレンドロン酸、または基本治療のみを受けた患者の生涯費用とQALYsを推定した。また、ゾレドロン酸の増分費用効果比(ICER)を推定した。

結果:70歳の患者では、QALYの増分は-0.004 〜 -0.000、費用の増分は430〜493米ドルで、ゾレドロン酸がアレンドロン酸に対して優位(dominated)であった。決定論的感度分析では、股関節骨折の相対リスクと薬剤費が、アレンドロン酸と比較してゾレドロン酸の費用対効果に強く影響することが示された。治療継続性を考慮したシナリオ分析では、Tスコア-2.0、-2.5、-3.0の患者のQALY獲得あたりのゾレドロン酸のICERはそれぞれ47,435USD、 27,018USD、 10,749USDと推算された。

結論:ゾレドロン酸はアレンドロン酸に優るが、QALYの増分はかなり小さい範囲である。ゾレドロン酸を毎年投与することによるコンプライアンスと持続性の優位性を考慮すると、ゾレドロン酸はアレンドロン酸と比較して費用対効果の高い治療法である可能性がある。

キーワード:費用対効果分析、骨折予防、医療経済学、骨粗鬆症、ゾレドロン酸

引用文献

Cost-effectiveness analysis of once-yearly injection of zoledronic acid for the treatment of osteoporosis in Japan
K Moriwaki et al. PMID: 28265718 PMCID: PMC5486933 DOI: 10.1007/s00198-017-3973-8
Osteoporos Int. 2017 Jun;28(6):1939-1950. doi: 10.1007/s00198-017-3973-8. Epub 2017 Mar 6.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28265718/

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