P-CABであるボノプラザンによる腎毒性リスクは?
ボノプラザンは、新しい作用機序を有するカリウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)で、酸関連疾患の治療薬として2015年に日本で初めて承認されました。ボノプラザンは、胃壁の細胞における酸分泌を抑制します。ボノプラザンのH+, K+-ATPase阻害作用は、従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)であるランソプラゾールの約350倍であり(PMID: 26369775)、その優れた効果により、ボノプラザンは従来のPPIに取って代わることが期待されています。
従来のPPIは、しばしば急性腎障害(AKI)に関連していることが報告されています(PMID: 23865955)。PPIの長期使用は腎毒性を引き起こす可能性があり(PMID: 28257716)、急性間質性腎炎(AIN)はPPI誘発AKIの主な特徴です(PMID: 24927897)。しかしながら、ボノプラザンの使用と腎毒性の発現との関連については、これまで報告されていません。
副作用報告(ADR)データベースは、市販後の医薬品安全性監視のための優れたリソースであり、規制当局がファーマコビジランスの研究に利用することもあります。自発的なADR報告データベースを用いた安全性シグナルの検出は、未知または潜在的なADRと医薬品との因果関係に関する仮説を立てるための手段としてよく知られています。
そこで今回は、日本の有害事象報告データベース(JADER)を用いて、主要評価項目であるPPIまたはボノプラザンによる尿細管間質性腎炎、副次評価項目であるPPIまたはボノプラザンによるAKIに関する安全性シグナルを検出し、ボノプラザンが腎毒性の発現を誘導できるかどうかを実データに基づいて検証したデータベース研究(シグナル解析)の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
PPIとボノプラザンに関連するADRの総数は、それぞれ14149と2465でした。
ボノプラザン | PPI | |
尿細管間質性腎炎に対するROR | 2.424 (95%CI 1.432〜4.103) | 4.441 (95%CI 3.756〜5.251) |
AKIに対するROR | 0.358 (95%CI 0.170〜0.750) | 1.028 (95%CI 0.855〜1.236) |
驚くべきことに、尿細管間質性腎炎に関連するボノプラザンに安全性シグナルが検出され(報告オッズ比 ROR 2.42、95%信頼区間[CI] 1.43〜4.10)、これはクラスとしてのPPIに得られたものと同様でした。PPIとボノプラザンによるAKIに対する安全性のシグナルは検出されませんでした。
ボノプラザン | PPI | |
尿細管間質性腎炎のTTO | 中央値25日 (範囲 0〜496) | 中央値41日 (範囲 -1〜1513) |
AKIのTTO | 中央値10.5日 (範囲 5〜186) | 中央値11日 (範囲 -4〜1628) |
発症までの期間(TTO)の分析では、PPIに関連する尿細管間質性腎炎のTTO中央値は41日(範囲:-1〜1513)、ボノプラザンに関連するTTO中央値は25日(範囲:0〜496)でした。同様に、PPIに関連するAKIのTTOは11(範囲:-4〜1628)日、ボノプラザンに関連するそれは10.5(範囲:5〜186)日でした。AKIおよび尿細管間質性腎炎のボノプラザンに関連する平均治療期間は、それぞれ21.0日(範囲:5~51日、n=3)および77.4日(範囲:0~496日、n=8)でした。
コメント
プロトンポンプ阻害薬による尿細管間質性腎炎やAKIの発症リスクが報告されています。一方、P-CABであるボノプラザンにおける各リスクの程度については充分に検討されていません。
さて、日本における自発的なADRデータベースを用いた本試験結果によれば、ボノポラザンによる尿細管間質性腎炎の安全性シグナルが検出されました。これらの知見は、ボノプラザンがPPIと同様に腎毒性を発現する可能性を示しています。ただし、本試験の限界として、自然発症の報告データベース内の副作用報告(ADR)であることから、報告されていない症例もあると考えられます。つまり、実際のリスクはもっと高い可能性があります。その一方で、薬剤使用に伴う副作用であるのか、何か他の要因による事象なのかについて検証できません。つまり、実際のリスクよりも多く報告されている可能性もあります。また、JADERのような自発報告データベースでは、母集団がないため、真のオッズ比やリスク比について算出できません。さらに、併用薬の影響による尿細管間質性腎炎やAKIの発症への影響も考えられます。
したがって、JADERを用いた報告オッズ比(ROR)を元にしたシグナル検出については、あくまでも相関関係が示された程度に捉えておいた方が良いと考えられます。今後、コホート研究やランダム化比較試験において、同様の安全性リスクが示されるのか注視したいところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本における自発的なADRデータベースを用いて、ボノポラザンによる尿細管間質性腎炎の安全性シグナルを検出した。これらの知見は、ボノプラザンがPPIと同様に腎毒性を発現する可能性を示している。
根拠となった試験の抄録
はじめに:ボノプラザンは、新しい作用機序を有するカリウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)で、酸関連疾患の治療薬として2015年に日本で初めて承認された。ボノプラザンは、胃壁の細胞における酸分泌を抑制する。ボノプラザンのH+, K+-ATPase阻害作用は、従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)であるランソプラゾールの約350倍であり(PMID: 26369775)、その優れた効果により、ボノプラザンは従来のPPIに取って代わることが期待されている。従来のPPIは、しばしば急性腎障害(AKI)に関連している(PMID: 23865955)。PPIの長期使用は腎毒性を引き起こす可能性があり(PMID: 28257716)、急性間質性腎炎(AIN)はPPI誘発AKIの主な特徴である(PMID: 24927897)。しかしながら、ボノプラザンの使用と腎毒性の発現との関連については、これまで報告されていない。副作用報告(ADR)データベースは、市販後の医薬品安全性監視のための優れたリソースであり、規制当局がファーマコビジランスの研究に利用することも少なくない。自発的なADR報告データベースを用いた安全性シグナルの検出は、未知または潜在的なADRと医薬品との因果関係に関する仮説を立てるための手段としてよく知られている。我々は、日本の有害事象報告データベース(JADER)を用いて、主要評価項目であるPPIまたはボノプラザンによる尿細管間質性腎炎、副次評価項目であるPPIまたはボノプラザンによるAKIに関する安全性シグナルを検出し、ボノプラザンが腎毒性の発現を誘導できるかどうかを実データに基づいて明らかにすることを目指した。
方法:JADERは、ICH(International Council for Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)E2B-M2(R3)のガイドラインに基づいた報告書様式を使用している。不均衡分析(disproportionality analysis)を行った。対応する報告オッズ比(ROR)および95%信頼区間(CI)は既知の計算式を用いて算出した。
結果:PPIとボノプラザンに関連するADRの総数は、それぞれ14149と2465であった。驚くべきことに、尿細管間質性腎炎に関連するボノプラザンに安全性シグナルが検出され(ROR: 2.42; 95%信頼区間[CI]: 1.43-4.10)、これはクラスとしてのPPIに得られたものと同様であった。PPIとボノプラザンによるAKIに対する安全性のシグナルは検出されなかった。
発症までの期間(TTO)の分析では、PPIに関連する尿細管間質性腎炎のTTO中央値は41日(範囲:-1〜1513)、ボノプラザンに関連するTTO中央値は25日(範囲:0〜496)であった。同様に、PPIに関連するAKIのTTOは11(範囲:-4〜1628)日、ボノプラザンに関連するそれは10.5(範囲:5〜186)日であった。AKIおよび尿細管間質性腎炎のボノプラザンに関連する平均治療期間は、それぞれ21.0日(範囲:5~51日、n=3)および77.4日(範囲:0~496日、n=8)であった。
結論:本研究では、日本における自発的なADRデータベースを用いて、ボノポラザンによる尿細管間質性腎炎の安全性シグナルを検出した。これらの知見は、ボノプラザンがPPIと同様に腎毒性を発現する可能性を示している。したがって、さらなるエビデンスが得られるまで、ボノプラザンを投与されたすべての患者の腎機能をモニタリングする必要がある。また、同作用機序を有する他のP-CABsにも外挿される可能性があり、この分野におけるさらなる研究の必要性を強調している。
キーワード:ボノプラザン、副作用報告データベース、尿細管間質性腎炎、急性腎臓障害
引用文献
Vonoprazan-associated nephrotoxicity: extensive real-world evidence from spontaneous adverse drug reaction reports
Masayuki Ishida et al. Published: June 24, 2022 DOI:https://doi.org/10.1016/j.kint.2022.06.007
Kidney International 2022
ー 続きを読む https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(22)00469-0/fulltext
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