体重と血清クレアチニン濃度がCockcroft-Gault式に及ぼす影響は?
体重と血清クレアチニン(Scr)濃度がCockcroft-Gault式によるクレアチニンクリアランス(C-G Clcr)の偏りと精度に及ぼす影響について、きちんと調べたことがなかったため文献検索を行いました。
今回ご紹介するのは2012年の論文です。本論文では、体重とScr濃度がC-G Clcrの偏りと精度に及ぼす影響について、24時間Clcr測定値と比較評価しています。
試験結果から明らかになったことは?
1996年7月1日から2010年6月30日の間に24時間採尿を行った腎機能が安定した患者3,678例が対象となりました。
偏りのないCLcrとなる条件 (C-G式で算出) | |
低体重の患者 | 実体重を用いて計算 |
正常体重の患者 | 理想体重を用いて計算 |
他の体重区分(過体重、肥満、病的肥満) | 偏りのないC-G Clcrは計算不可 0.4の係数を用いた調整体重(ABW0.4)が最も偏りが少なく正確 |
65歳以上かつScrが 0.8mg/dL未満および1mg/dL未満の患者 | 実際のScrは偏りがなく丸めたScrよりも正確 |
Scrが0.8mg/dL未満および1 mg/dL未満の すべての年齢層の患者 | 実際のScrは偏りがなく丸めたScrよりも正確 |
低体重の患者に対して実体重を用いて計算を行った結果、Clcrは-0.22ml/min(p=0.898)となり、偏りのない値となりました。
正常体重の患者の計算で理想体重を使用すると、不偏のClcrは-1.3ml/分(p=0.544)でした。
他の体重区分では、不偏のC-G Clcrを計算することができませんでした。これらの患者では、0.4の係数を用いた調整体重(ABW0.4)が最も偏りが少なく正確でした。
65歳以上のScrが0.8mg/dL未満および1mg/dL未満の患者では、実際のScrは偏りがなく(それぞれ-3ml/min[p=1]および-9ml/min[p=0.279])、丸めたScrよりも正確でした。
Scrが0.8mg/dL未満および1 mg/dL未満のすべての年齢層の患者において、実際のScrは丸めたScrよりも偏りがなく(それぞれ-4.5ml/min [p=0.038] および-5.5ml/min [p<0.001] )、より正確なことが証明されました。
コメント
Cockcroft-Gault式によるクレアチニンクリアランス(C-G Clcr)の偏りと精度について、あまり考えたことがなく、算出された値を鵜呑みにしてきました。しかし、計算式を改めて見てみると、体重とScrの影響が大きく影響することがわかります。
Cockcroft-Gault式によるクレアチニンクリアランスの算出式
男性:Clcr = {(140-年齢)×体重(kg)}/{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}
女性:Clcr = 0.85×{(140-年齢)×体重(kg)}/{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}
さて、本試験結果によれば、Cockcroft-Gault式 Clcrは、低体重者では実体重、正常体重者では理想体重を用いることにより、不偏のC-G Clcrを算出することが可能であることがわかりました。また、過体重、肥満、病的肥満の患者にはABW(0.4)を用いるのが最も偏りが少なくなることが明らかとなりました。さらに、Scrが低い患者に対してScrを丸めても、Clcrの計算の精度やバイアスは改善されないことが判明しました。
非常に基本的なことですが、Clcrの算出において、おさえておきたいポイントです。目の前の患者がどのような特徴なのか把握する必要があります。
✅まとめ✅ Cockcroft-Gault式 Clcrは、低体重者では実体重、正常体重者では理想体重を用いることにより、不偏のC-G Clcrを算出することが可能である。
根拠となった試験の抄録
研究の目的:体重と血清クレアチニン(Scr)濃度がCockcroft-Gault式によるクレアチニンクリアランス(C-G Clcr)の偏りと精度に及ぼす影響を24時間Clcr測定値と比較し評価すること。
試験デザイン:レトロスペクティブ解析
試験設定:レトロスペクティブ解析。三次医療施設
対象患者:1996年7月1日から2010年6月30日の間に24時間採尿を行った腎機能が安定した患者3,678例
測定方法:各患者について、C-G Clcrを算出し、24時間Clcrの測定値と比較した。体重は、低体重、標準体重、過体重、肥満、病的肥満の区分で計算した。また、Scrの測定値が閾値以下の患者については、Scrの閾値 0.8mg/dLと1mg/dLに基づいて丸めた値を用いてC-G Clcrを計算した。次に、これらの患者を、全年齢群と65歳以上のサブグループに層別化し、評価を行った。Scrで丸めた C-G Clcr値と、実際のScr値を用いたC-G Clcr値を比較した。平均差を算出し、精度を評価した。
主な結果:低体重の患者に対して実体重を用いた計算を行った結果、Clcrは-0.22ml/min(p=0.898)となり、偏りのない値となった。正常体重の患者の計算で理想体重を使用すると、不偏のClcrは-1.3ml/分(p=0.544)であった。他の体重区分では、不偏のC-G Clcrを計算することができなかった。これらの患者では、0.4の係数を用いた調整体重(ABW0.4)が最も偏りが少なく正確であった。65歳以上のScrが0.8mg/dL未満および1mg/dL未満の患者では、実際のScrは偏りがなく(それぞれ-3ml/min[p=1]および-9ml/min[p=0.279])、丸めたScrよりも正確であった。Scrが0.8mg/dL未満および1 mg/dL未満のすべての年齢層の患者において、実際のScrは丸めたScrよりも偏りがなく(それぞれ-4.5ml/min [p=0.038] および-5.5ml/min [p<0.001] )、より正確なことが証明された。
結論:C-G Clcrは、低体重者では実体重、正常体重者では理想体重を用いることにより、不偏のC-G Clcrを算出することが可能である。過体重、肥満、病的肥満の患者にはABW(0.4)を用いるのが最も偏りが少なく、正確なC-G Clcrの算出方法であると思われる。Scrが低い患者に対してScrを丸めても、Clcrの計算の精度やバイアスは改善されないことが判明した。
引用文献
Impact of various body weights and serum creatinine concentrations on the bias and accuracy of the Cockcroft-Gault equation
Mary A Winter et al. PMID: 22576791 DOI: 10.1002/j.1875-9114.2012.01098.x
Pharmacotherapy. 2012 Jul;32(7):604-12. doi: 10.1002/j.1875-9114.2012.01098.x. Epub 2012 May 10.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22576791/
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