潜在的不適切処方(PIMs)を減らすための教育的介入は費用対効果に優れていますか?(クラスターRCT; Age Ageing. 2022)

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教育的介入によりPIMsが減少すると、12ヵ月後の費用対効果の向上につながるのか?

高齢者の薬物療法は、関連するリスクが潜在的な利益を上回る場合、潜在的に不適切であると定義されます(PMID: 1888249)。潜在的に不適切な処方(PIM)の使用は、薬物有害事象、認知・身体機能の低下、生活の質(QoL)の低下、入院、死亡率(PMID: 27466245PMID: 28131719PMID: 27367864)と関連し、したがって医療利用や費用の増加 (PMID: 29978444)、投薬費用の増加(PMID29325531PMID: 27398383)と関連しています。ヨーロッパにおけるPIMの使用率は、地域在住の高齢者では20%以上、老人ホームに住む高齢者では49%であり(PMID: 26407687PMID: 27473899)、米国ではその割合はさらに高いことが報告されています(PMID: 25752646PMID: 15333108)。

PIMの使用を減らすための実施的介入の有効性は、広く研究されています。実施介入は通常、薬物レビューサービス、集学的介入、コンピュータ化されたシステム、教育的介入、その他の介入に分類されます(PMID: 30726488)。教育的介入は、医療専門家に対するセッション、資料の配布、患者および介護者に対する訓練などを含み、高齢者におけるPIMの使用および入院を減らす可能性があります(PMID: 30726488)。教育セッションが少なく、医師の出席率が低い教育的介入は、処方の改善を示しませんでした(PMID: 21262782PMID: 19929029)。直接的なフィードバックを伴う対話型のアプローチの方が、書面での普及よりも効果的である可能性が報告されています(PMID: 22642779)。しかし、介入は健康上の成果やコストよりもPIM使用の変化という観点から多く研究されてきました(PMID: 30726488PMID: 19018923)。有効性に関する研究は数多くありますが、高齢者のPIMを減らすための実施的介入に関する経済評価はまれです。

経済学的分析としては、費用便益分析、費用最小化分析、費用対効果分析、費用対効用分析の4種類があります。費用対効果分析と費用対効用分析は、介入の費用とその健康上の利益を比較することにより、最適な患者ケアと効率的な実施介入の選択を支援できます(PMID: 21029273)。最近の文献では、実施科学における経済的証拠の必要性が認識されていますが、質の高い費用効果分析の利用にはまだ余地があります(PMID: 31307489)。

Sanyalらによるモデルベースの経済評価では、地域在住の高齢者の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)中止に関する教育介入の費用効果を推定しています(PMID: 32105355)。この介入では、12ヵ月のフォローアップにおいて、通常のケアよりもコストが低く、質調整生存年(QALYs)の面でより効果的でした。ナーシングホームで暮らす認知症患者の抗精神病薬の使用を減らすために、Ballardら(PMID: 29408901)は抗精神病薬の見直しと、人間中心のケアおよび社会的相互作用に関するスタッフ研修からなる介入に注目しました。彼らはこの教育的介入が12ヵ月後のフォローアップで経済的に優位であることを見出しました:通常通りの治療(treatment as usual, TAU)と比較して、QoLの点でより効果的であり、費用対効果も高いことが示されました。

PIMの使用を減らすための他の実施介入に関する経済評価研究がいくつか報告されています。それらは集学的介入と薬物レビューに関するものでした(PMID: 26861468PMID: 29019297PMID: 21453379PMID: 27913940)。これらの研究では、費用対効果に関する決定は、特定のアウトカム単位に対する意思決定者の評価に依存しており(PMID: 29019297)、短期(≦12ヵ月)の費用対効果しか評価されていません。

そこで今回は、福祉施設の入居者におけるPIM使用削減のための12ヵ月後の教育介入による費用対効果とQALYsへの影響をTAUと比較検討した費用対効果分析(費用効用分析)の結果をご紹介します。本試験の主要アウトカムは、参加者の医療サービス利用コストと介入にかかるコストを12ヵ月間推定し、参加者1人当たりのQALYsについて増分費用効果比(ICER)を推定することでした(PMID: 24814043)。

試験結果から明らかになったことは?

介入群
(117例)
対照群
(109例)
12ヵ月後の推定平均費用
(/人・年)
40,954ユーロ
(95%CI 38,223~43,686)
42,584ユーロ
(95%CI 39,865~45,302)
平均増分コスト
vs. 対照群(/人・年)
-1,629ユーロ
(95%CI -5,489~2,240)
12ヵ月後の平均QALYs
(/人)
0.48
(95%CI 0.45~0.51)
0.50
(95%CI 0.47~0.53)
平均QALYs(増分効果)
vs. 対照群
-0.02
(95%CI 0.06~0.02)

12ヵ月後のフォローアップにおける1人・年当たりの推定平均費用(ベースラインの15Dスコアと年齢で調整)は、介入群で40,954ユーロ(95%CI 38,223~43,686)、対照群で42,584ユーロ(95%CI 39,865~45,302)でした。教育的介入は、対照群と比較して1人・年当たり増分コストが平均-1,629(95%CI -5,489~2,240) ユーロ、コストが低いことが示されましたが、統計的に有意ではない関連性が示されました。

12ヵ月後の参加者1人当たりの平均QALYs(ベースラインの15Dスコアと年齢で調整)は、介入群で0.48(95%CI 0.45~0.51)、対照群で0.50(95%CI 0.47~0.53) と推定されました。教育的介入は対照群に比べ、1人当たりのQALYs(増分効果)を平均-0.02(95%CI 0.06~0.02)低くすることが示されましたが、統計的に有意ではない関連性が示されました。

ベースケースのICERは80,000ユーロ/QALY以上でした(83,424ユーロ、CI -233,191 〜 803,989)。

コメント

薬学的、教育学的な介入研の報告は多いですが、費用対効果分析の報告は限られています。今回の研究は、福祉施設の入居者におけるPIM使用削減のための12ヵ月後の教育介入による費用対効果とQALYsへの影響を通常の治療と比較検討しています。

さて、本試験結果によれば、教育的介入は通常の治療と比較して、費用とQALYsの面でより低いことが推定されました。PIMs使用量の減少やQOLの向上は、QALYsの改善には結びつかないようでした。また、教育学的な介入により治療コストは削減されていますが、ICERについては、基準値の80,000ユーロ/QALYを超えていました。したがって、教育学的な介入が費用対効果に優れているとは言えない結果となってしまいました。ただし、QALYsの差はわずか-0.02であり、この差にどれほどの価値があるのかについては不明です。平均増分コストは-1,629ユーロですので、ある程度の削減効果はありますが、増分効果が-0.02QALYsと、マイナスであることから、基準値を上回ってしまうのは致し方ないと考えられます。

いずれにせよ、エビデンスの集積が待たれるところであると考えられます。続報に期待。

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✅まとめ✅ 教育的介入は通常の治療と比較して、費用とQALYsの面でより低いと推定されたが、その結果はいくつかの不確実性を含んでいた。PIMs使用量の減少やQOLの向上は、QALYsの改善には結びつかないようであった。

根拠となった試験の抄録

背景:教育的介入は、高齢者における潜在的に不適切な薬物使用(PIMs)を減らすことができる。その効果は主にPIMsの使用量の変化として測定されてきた。この経済評価では、教育的介入の影響をコストと質調整生存年(QALYs)の観点から分析する。

方法:教育的介入は、看護職員および顧問医師を対象とした活性化および対話型のトレーニングセッションで構成され、通常の治療(treatment as usual, TAU)と比較された。クラスターランダム化試験(cRCT)の参加者(n=227)は、福祉施設(n=20病棟)に永住している住民であった。経済評価では、参加者の医療サービス利用コストと介入にかかるコストを12ヵ月間推定し、参加者1人当たりのQALYsについて増分費用効果比(ICER)を推定した。費用対効果分析は、医療の観点から行われた。推定値を取り巻く不確実性を分析するために、ブートストラップされた費用効果平面と一元的感度分析が実施された。

結果:教育的介入は、12ヵ月後のフォローアップにおいて通常の治療よりもコストが低く、QALYsの面でも効果が低いと推定された[増分コスト -1,629、信頼区間(CI) -5,489 ~ 2,240 ユーロ;増分効果 -0.02、CI -0.06 ~ 0.02]。ベースケースのICERは80,000ユーロ/QALY以上であった。

結論:教育的介入はTAUと比較して、費用とQALYsの面でより低いと推定されたが、その結果はいくつかの不確実性を含んでいた。PIMs使用量の減少やQOLの向上は、QALYsの改善には結びつかないようであった。今回の結果は、PIMs使用量の減少が健康アウトカムに与える影響について、より深く理解する必要性を強調するものである。

キーワード:経済評価、教育的介入、実施介入、高齢者、潜在的不適切処方(potentially inappropriate medication, PIMs)

引用文献

Cost-effectiveness of an educational intervention to reduce potentially inappropriate medication
Mervi Rantsi et al. PMID: 35604803 PMCID: PMC9126199 DOI: 10.1093/ageing/afac112
Age Ageing. 2022 May 1;51(5):afac112. doi: 10.1093/ageing/afac112.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35604803/

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