糖尿病と心房細動を合併する患者では脳卒中や死亡リスクが高い?
糖尿病(DM)は、血管内皮機能の低下により血糖値上昇だけでなく、血管拡張因子や血管収縮因子の分泌バランスが崩れ、血管のホメオスタシスが破綻します。これにより、様々な血管合併症が引き起こされ、中でも心房細動(AF)の合併リスクが上昇することが報告されています。
DMは心血管リスク増加だけでなく、死亡リスクの増加も報告されており、さらにAFを合併すると、これらのリスクがさらに増加する可能性が高いと考えられます。しかし、DMとAFを合併する患者におけるベースライン時のHbA1c値が、心血管・死亡リスクにどのように影響するかは充分に検討されていません。
そこで今回は、DMおよびAFを合併する患者におけるベースラインのHbA1c値による虚血性脳卒中および死亡の発生率を評価したコホート研究の結果をご紹介します。
本コホート研究では、Clalit Health Servicesの電子カルテが用いられました。本試験の研究対象は、2010年1月1日から2016年12月31日の間にAFの初診を受けた、25歳以上のClalit Health Services会員で、DMの診断を受けているすべての患者でした。AF診断時のHbA1c値により、脳卒中および全死亡のリスクが比較されました(<7.0%未満、7%以上9%未満、9%以上)。
試験結果から明らかになったことは?
DMとAFを有する合計44,451例の患者が同定されました。 年齢中央値は75歳(四分位数 65~83)で、52.5%が女性でした。
平均38ヵ月の追跡期間中、HbA1cの高値は、HbA1c<7%の患者と比較して、用量依存的に脳卒中のリスク上昇と関連していました。
脳卒中リスク | |
HbA1c 7~9% | aHR 1.30 (95%CI 1.10~2.05) |
HbA1c>9% | aHR 1.60 (95%CI 1.25~2.03) |
全死亡リスク | |
HbA1c>9% | aHR 1.17 (1.07〜1.28) |
CHA2DS2-Vasc危険因子および経口抗凝固薬の使用を調整しても、7~9%のレベルで調整ハザード比[aHR] 1.30[95%信頼区間 1.10~2.05]、HbA1c>9%で1.60(95%信頼区間[CI] 1.25~2.03)でした。全死亡のリスクはHbA1c>9%群で有意に高いことと関連していました(aHR 1.17 [1.07〜1.28] )。
コメント
糖尿病患者におけるHbA1cの値と心血管・死亡リスクとの関連性については、一貫した結果が得られていません。診断後、早期においては厳格な血糖コントロールにより微小血管合併・死亡リスク低下が得られること(レガシー効果)が報告されています。しかし、大血管合併症については血糖コントロールだけではリスク低下しないことが報告されています。
さて、心房細動と糖尿病を有するこのコホートにおいて、HbA1c値は、脳卒中の他の認知された危険因子を考慮しても、用量依存的に脳卒中のリスクと関連していました。特にベースラインのHbA1cが9%超の集団では、脳卒中及び死亡リスクが高いことと関連していました。ある程度予想された結果ではあるものの、これまで血糖降下薬により得られた心血管・死亡リスクに対する有益性は、血糖コントロールによる影響が少ない報告されています。これらのリスクを低下させるためには、他の交絡因子を特定する必要があると考えられます。
✅まとめ✅ 心房細動と糖尿病を有するこのコホートにおいて、HbA1c値は、脳卒中の他の認知された危険因子を考慮しても、用量依存的に脳卒中のリスクと関連していた。特にベースラインのHbA1c 9%超では、脳卒中及び死亡リスクが高いことと関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景・目的:糖尿病(DM)は心房細動(AF)合併症のリスク上昇と関連している。本研究では,DMおよび心房細動患者におけるベースラインのHbA1c値による虚血性脳卒中および死亡の発生率およびリスクを評価することを目的とした。
方法:Clalit Health Servicesの電子カルテを用いてコホート研究を実施した。研究対象は、2010年1月1日から2016年12月31日の間にAFの初診を受けた、25歳以上のClalit Health Services会員で、DMの診断を受けているすべての患者であった。AF診断時のHbA1c値により、脳卒中および全死亡のリスクを比較した(<7.0%未満、7%以上9%未満、9%以上)。
結果:DMと心房細動を有する合計44,451例の患者が同定された。 年齢中央値は75歳(四分位数65~83)で、52.5%が女性であった。 平均38ヵ月の追跡期間中、HbA1cの高値は、HbA1c<7%の患者と比較して、用量依存的に脳卒中のリスク上昇と関連していた(CHA2DS2-Vasc危険因子および経口抗凝固薬の使用を調整しても、7~9%のレベルで調整ハザード比[aHR] 1.30[95%信頼区間 1.10~2.05]、HbA1c>9%で1.60(95%信頼区間 1.25~2.03)である。全死亡のリスクはHbA1c>9%群で有意に高かった(aHR 1.17 [1.07〜1.28] ))。
結論:心房細動とDMを有するこのコホートにおいて、HbA1c値は、脳卒中の他の認知された危険因子を考慮しても、用量依存的に脳卒中のリスクと関連していた。
引用文献
Relation of Hemoglobin A1C Levels to Risk of Ischemic Stroke and Mortality in Patients With Diabetes Mellitus and Atrial Fibrillation
Louise Kezerle et al. PMID: 35361475 DOI: 10.1016/j.amjcard.2022.02.024
Am J Cardiol. 2022 Mar 28;S0002-9149(22)00173-4. doi: 10.1016/j.amjcard.2022.02.024. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35361475/
コメント