妊婦における直接経口抗凝固薬の安全性は?(後向きコホート研究; Lancet Haematol. 2020)

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妊婦における直接経口抗凝固薬の安全性は?

直接経口抗凝固薬(DOAC)は、多くの抗凝固療法の適応症において、ビタミンK拮抗薬にほぼ取って代わっています。これは有効性に差がなく、出血などの安全性においてビタミンK拮抗薬より優れる臨床試験の結果が示されているためです。

生殖年齢の女性を含む数百万人の患者に処方され、妊娠初期にDOACに曝露されることは決して珍しくありませんが、胚毒性リスクに関するデータは乏しく、ほとんど報告されていません。このため添付文書においても投与禁忌あるいは有益性投与となっています。

そこで今回は、さまざまなデータベース、情報源からDOACの胚毒性リスクを評価した後向きコホート研究の結果をご紹介します。

本後向きコホート研究では、2015年5月から婦人科医、血液内科医、血管専門医から妊娠中のDOAC曝露の個別症例報告が収集しました。2017年4月と10月、2018年8月、2019年12月に、DOACの製造販売メーカー、欧州医薬品庁(EMA)、ドイツ医薬品当局のファーマコビジランスデータベースからデータが入手され、米国食品医薬品局(FDA)のホームページで妊娠曝露報告書を検索しました。国際血栓止血学会(ISTH)レジストリのデータは2018年8月と2020年7月21日に、ドイツ・ウルム市のTeratology Information Serviceのデータは2020年7月22日に入手しました。また、2020年7月22日にDOACの曝露例について系統的な文献検索を行いました。これらのデータは、2016年のリスク評価によるものとまとめ、重複する報告は除外した。胎児または新生児の異常は、European Concerted Action on Congenital Anomalies and Twins(EUROCAT)の分類に従って主要な出生時障害として分類し、DOAC曝露との関連性の “可能性が高い“、”可能性がある“、”可能性がない“、または “関連性がない” の4つのカテゴリーに判定されました。

試験結果から明らかになったことは?

妊娠中のDOAC曝露に関する1,193件の報告が確認されました。医師から49件、ISTHレジストリから48件、Teratology Information Serviceから29件、ドイツ医薬品局から62件、Bayerから536件(Bayer pharmacovigilance system、WHO VigiBase、FDA Adverse Event Reporting Systemから抽出)、Boehringer Ingelheimから87件、第一三共から16件、文献検索から98件、FDAホームページから2件、Risk Evaluation and Mitigation Strategy Reviewから10件、EMAレポートから256件でした。

2007年2月1日から2020年7月9日の間に発生した
妊娠中のDOAC曝露に関する情報614件
リバーロキサバン505件(82%)
ダビガトラン36件(6%)
アピキサバン50件(8%)
エドキサバン23件(4%)

情報の重複の可能性について除外した結果、2007年2月1日から2020年7月9日の間に発生した妊娠中のDOAC曝露のユニークな614件が特定され、その内訳はリバーロキサバン505件(82%)、ダビガトラン36件(6%)、アピキサバン50件(8%)およびエドキサバン23件(4%)でした。

妊娠転帰に関する情報336件中
胎児異常21件(6%、95%CI 4〜9
DOAC曝露と関連する可能性のある
重大な出生時障害
12件(4%、2〜6

DOACの曝露期間の中央値は、妊娠5.3週間(IQR 4.0〜7.0)でした。妊娠中のDOAC暴露に関する情報614件中336件(55%)で妊娠転帰に関する情報が得られました。188件(56%)が生児、74件(22%)が流産、74件(22%)が選択的な流産であった。336件中21件(6%、95%CI 4〜9)に胎児異常が認められ、12件(4%、2〜6)はDOAC曝露と関連する可能性のある重大な出生時障害と判定されました。

コメント

妊婦を対象とした臨床試験実施は倫理的観点から困難であり、情報を得るためには基礎研究やレジストリー研究に頼るほかありません。今回の試験ではさまざまな情報源から、妊娠中のDOAC曝露に関する情報614件が特定されました。

さて、本試験結果によれば、2007年2月1日から2020年7月9日の間に発生した妊娠中のDOAC曝露に関する情報614件のうち、505件(82%)がリバーロキサバンに関する情報でした。主に日本で製造承認販売されているエドキサバンについては最も情報が少なく4%(23件)でした。DOAC暴露と妊娠転帰に関する情報336件のうち、胎児異常が21件(6%)、DOAC曝露と関連する可能性のある重大な出生時障害が12件(4%)で報告されました。

これらの数値は、決して高い値ではなく、妊娠中のDOAC使用に関する安全性が低いとは結論づけられません。同様に安全性が高いとも言えません。妊婦の血栓塞栓症の予防戦略としては、有効性・安全性の観点から、基本的にヘパリン(あるいはウロキナーゼ)を使用します。ただし、ヘパリンが使用できない患者においては、あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、DOAC(情報の集積が多いリバーロキサバン)の使用を考慮しても良いかもしれません。適応する前に症例報告も参照する必要があると考えます。

妊婦に対するDOAC使用の安全性評価は充分ではないため、引き続き情報収集を行う必要があると考えます。続報に期待。

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✅まとめ✅ 2007年2月1日から2020年7月9日の間に発生した妊娠中のDOAC曝露に関する情報614件のうち、82%がリバーロキサバンに関する情報であった。DOAC暴露と妊娠転帰に関する情報336件のうち、胎児異常が21件(6%)、DOAC曝露と関連する可能性のある重大な出生時障害が12件(4%)で報告された。

根拠となった試験の抄録

背景:直接経口抗凝固薬(DOAC)は、多くの抗凝固療法の適応症において、ビタミンK拮抗薬にほぼ取って代わっている。生殖年齢の女性を含む数百万人の患者に処方され、妊娠初期にDOACに曝露されることは珍しくないが、胚毒性リスクに関するデータは乏しい。我々は、報告された症例の大規模なサンプルを用いてDOACの胚毒性のリスクを評価することを目的とした。

方法:この後ろ向きコホート研究では、2015年5月から婦人科医、血液内科医、血管専門医から妊娠中のDOAC曝露の個別症例報告を収集した。2017年4月と10月、2018年8月、2019年12月に、DOACの製造販売メーカー、欧州医薬品庁(EMA)、ドイツ医薬品当局のファーマコビジランスデータベースからデータを入手し、米国食品医薬品局(FDA)のホームページで妊娠曝露報告書を検索した。国際血栓止血学会(ISTH)レジストリのデータは2018年8月と2020年7月21日に、ドイツ・ウルム市のTeratology Information Serviceのデータは2020年7月22日に入手した。また、2020年7月22日にDOACの曝露例について系統的な文献検索を行った。これらのデータは、2016年のリスク評価によるものとまとめ、重複する報告は除外した。胎児または新生児の異常は、European Concerted Action on Congenital Anomalies and Twins(EUROCAT)の分類に従って主要な出生時障害として分類し、DOAC曝露との関連性の “可能性が高い”、”可能性がある”、”可能性がない”、または “関連性がない” の4つのカテゴリーに判定された。

調査結果:妊娠中のDOAC曝露に関する1,193件の報告が確認された。医師から49件、ISTHレジストリから48件、Teratology Information Serviceから29件、ドイツ医薬品局から62件、Bayerから536件(Bayer pharmacovigilance system、WHO VigiBase、FDA Adverse Event Reporting Systemから抽出)、Boehringer Ingelheimから87件、第一三共から16件、文献検索から98件、FDAホームページから2件、Risk Evaluation and Mitigation Strategy Reviewから10件、EMAレポートから256件でした。重複の可能性を除外した結果、2007年2月1日から2020年7月9日の間に発生した妊娠中のDOAC曝露のユニークな614件が特定され、その内訳はリバーロキサバン505件(82%)、ダビガトラン36件(6%)、アピキサバン50件(8%)およびエドキサバン23件(4%)であった。DOACの曝露期間の中央値は、妊娠5.3週間(IQR 4.0〜7.0)であった。妊娠中のDOAC暴露に関する情報614件中336件(55%)で妊娠転帰に関する情報が得られた。188件(56%)が生児、74件(22%)が流産、74件(22%)が選択的な流産であった。336件中21件(6%、95%CI 4〜9)に胎児異常が認められ、そのうち12件(4%、2〜6)はDOAC曝露と関連する可能性のある重大な出生時障害と判定された。

解釈:DOAC曝露後の妊娠転帰に関する報告は重要な詳細が欠けており、主にリバーロキサバン曝露について述べているが、利用可能なデータは、妊娠中のDOAC曝露が胚異常の高いリスクを伴うことを示唆していない。DOAC胚毒性を恐れての選択的妊娠終了に反対する2016年ISTHガイダンスと密接な妊娠監視を支持する勧告は依然として有効である。妊娠転帰データはファーマコビジランスデータベースに一貫して取り込まれておらず、より堅牢な報告システムの強い必要性を示している。

資金提供:なし

引用文献

Safety of direct oral anticoagulant exposure during pregnancy: a retrospective cohort study
Jan Beyer-Westendorf et al. PMID: 33242445 DOI: 10.1016/S2352-3026(20)30327-6
Lancet Haematol. 2020 Dec;7(12):e884-e891. doi: 10.1016/S2352-3026(20)30327-6.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33242445/

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