心不全および低ナトリウム血症を有する患者における低用量トルバプタン長期投与による腎保護効果は?(PSマッチ後向きコホート研究; ESC Heart Fail. 2021)

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トルバプタン長期投与による腎保護効果は低用量が良い?

これまでのランダム化比較試験において、心不全患者に対してトルバプタンを30mg/日の固定用量で1年間使用しても腎臓への効果は得られませんでした。

そこで今回は、トルバプタンの長期投与、可変用量、低用量の使用による腎保護効果を検討した日本のレトロスペクティブ・コホート研究の結果をご紹介します。

本試験において、トルバプタン使用者は、180日以上連続してトルバプタンが投与された患者、または180日未満であっても死亡、何らかの心イベント、腎代替療法まで継続投与された患者が解析対象となりました。

試験結果から明らかになったことは?

合計584例の心不全(HF)患者のうち、78例のトルバプタン使用者が確認されました。年齢、ベースラインのB型ナトリウム利尿ペプチド、推定糸球体濾過量(eGFR)の中央値は、それぞれ71歳、243pg/mL、54 mL/min/1.73m2でした。

追跡期間中(中央値 461日)、トルバプタンの使用(平均用量中央値 7.5 mg/日)は、ループ利尿薬の頻繁な減量(発生率比 [IRR] 1.5、95%信頼区間 [CI] 1.1〜2.2)、特に血清ナトリウム135mEq/L以下(IRR 2.9、95%CI 1.5〜5.7)に関連していました(交互作用P=0.04)。混合効果モデルでは、傾向スコア(PS)をマッチさせたトルバプタン使用者は、PSをマッチさせた未使用者よりも経時的にeGFRが高いことが示されました(P<0.01)。全コホート解析(584例)でも同様の結果が得られました。年率換算したeGFRの傾きという点では、トルバプタンの腎臓への有益性はナトリウム値の低い患者でより顕著でした(交互作用P=0.03)。この効果修飾は、追跡期間中にループ利尿薬の減量を行った患者を解析から除外した場合には消滅しました。したがって、eGFRの推移における群間差は、主にループ利尿薬の用量節約の差に起因することが示唆されました。ベースラインの左室駆出率(LVEF)は治療法とeGFR推移の関係を修飾しませんでした(交互作用P=0.94)。さらに、トルバプタンの使用はCKDの有無にかかわらず、より高いeGFR推移と有意に関連していました(交互作用P=0.30)。

追跡期間中央値(IQR)461(194〜945)日において、心臓移植の症例は報告されませんでした。全参加者のうち、60例が死亡(17.0/100人・年)、43例が補助人工心臓(VAD)を植え込まれ(23.6/100人・年)、106例がHFによる再入院を余儀なくされました。HFによる再入院は159例(51.5/100人・年)でした。全コホートのトルバプタン使用者(52例)の66.7%が死亡、腎代替療法の開始、VAD植え込みのためにトルバプタンを中止しましたが、PSマッチドコホートの心イベント(死亡、VAD植え込み、HF再入院)の発生率は治療グループ間で同程度でした。トルバプタン使用者の処方用量は、PSマッチドコホート全体で中央値(IQR)7.5(6.8〜11.9)mg/日、全コホートでは7.5(6.3〜10.5)mg/日でした。

コメント

トルバプタンはプラセボと比較して、心血管イベントや腎保護効果に非劣性であることが報告されています。EVEREST試験では、心不全患者を対象にトルバプタンの固定用量(30mg, 1日1回)が用いられていますが、実臨床においては、心不全の状態(朝の体重など)によって投与用量を調整することがあるため、この点について検証する必要があります。

さて、本試験結果によれば、トルバプタンの長期・可変用量・低用量使用は、特に低ナトリウム血症性心不全において腎機能の改善と関連していることが示されました。これは、長期的にループ利尿薬の用量節約効果に起因しているものと思われました。トルバプタンの投与用量は中央値で7.5mg/日ですので、過去の臨床試験の用量と比較して低用量です。

ただし本試験は後向きコホート研究ですので、あくまでも仮説生成的な結果です。追試が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ トルバプタンの長期・可変用量・低用量使用は、特に低ナトリウム血症性心不全において腎機能の改善と関連しており、おそらく長期的にはループ利尿薬の用量節約効果に起因しているものと思われた。

根拠となった試験の抄録

目的:これまでのランダム化比較試験において、心不全患者においてトルバプタンを30mg/日の固定用量で1年間使用しても腎臓への効果は得られなかった。本レトロスペクティブ・コホート研究では、トルバプタンの長期投与、可変用量、低用量の使用による腎保護効果を検討した。

方法:トルバプタン使用者は、180日以上連続してトルバプタンが投与された患者、または180日未満であっても死亡、何らかの心イベント、腎代替療法まで継続投与された患者とした。

結果:合計584例のHF患者のうち、78例のトルバプタン使用者が確認された。年齢、ベースラインのB型ナトリウム利尿ペプチド、推定糸球体濾過量(eGFR)の中央値は、それぞれ71歳、243pg/mL、54 mL/min/1.73m2であった。追跡期間中(中央値 461日)、トルバプタンの使用(平均用量中央値 7.5 mg/日)は、ループ利尿薬の頻繁な減量(発生率比 [IRR] 1.5、95%信頼区間 [CI] 1.1〜2.2)、特に血清ナトリウム135mEq/L以下(IRR 2.9、95%CI 1.5〜5.7 )に関連していた(交互作用P=0.04)。混合効果モデルでは、傾向スコア(PS)をマッチさせたトルバプタン使用者は、PSをマッチさせた未使用者よりも経時的にeGFRが高かった(P<0.01)。全コホート解析(584例)でも同様の結果が得られた。年率換算したeGFRの傾きという点では、トルバプタンの腎臓への有益性はナトリウム値の低い患者でより顕著であった(交互作用P=0.03)。この効果修飾は、追跡期間中にループ利尿薬の減量を行った患者を解析から除外した場合には消滅した。

結論:トルバプタンの長期・可変用量・低用量使用は、特に低ナトリウム血症性HFにおいて腎機能の改善と関連しており、おそらく長期的にはループ利尿薬の用量節約効果に起因しているものと思われた。

キーワード:心不全(HF)、低ナトリウム血症、腎臓の効用、腎臓機能、トルバプタン

引用文献

Renoprotection by long-term low-dose tolvaptan in patients with heart failure and hyponatremia
Tatsufumi Oka et al. PMID: 34554640 PMCID: PMC8712924 DOI: 10.1002/ehf2.13507
ESC Heart Fail. 2021 Dec;8(6):4904-4914. doi: 10.1002/ehf2.13507. Epub 2021 Sep 23.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34554640/

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