ルムジェブ®️やフィアスプ®️は既存の超速効型インスリン製剤よりも優れているのか?
糖尿病患者の多くは、血糖コントロールを維持するためにインスリン療法に依存しています。血糖コントロールの重要な要素として、食後血糖値(PPG)への対応があります。インスリンリスプロ、アスパルト、グルリジンなどの速効型インスリンアナログは、通常のヒトインスリンと比較して、より速く吸収され、インスリン作用の発現が早くなるように開発されました。これらの改良にもかかわらず、現在の製剤はグルコース吸収に見合うほど速くはないため、PPGのコントロールに有効な製剤には限界があります。
ウルトララピッドリスプロ[URLi (LY900014)、ルムジェブ; Eli Lilly and Company, Indianapolis, インド]は、生理的インスリン分泌により近く、PPGのコントロールを改善するために開発された新しいインスリンリスプロの製剤です。ルムジェブは、局所作用型の2つの主要な賦形剤であるトレプロスチニルとクエン酸塩を含み、独立した作用機序により注射部位からのインスリンリスプロの吸収を促進させます。ルムジェブに含まれる微量のトレプロスチニルは局所血管拡張を引き起こし、一方、クエン酸は血管透過性を増加させます(EASD2017、Diabetes、EASD2017)これまでの研究で、URLiはインスリンリスプロの吸収を促進し、ヒューマログ®(イーライリリー・アンド・カンパニー)と比較して有意に高いPPG低下作用を示すことが示されています(PMID: 32488923、PMID: 32616612)。同様に、速効型インスリンアスパルト製剤(フィアスプ; Novo Nordisk, Bagsvaerd, Denmark)が開発され、ノボラピッド(Novo Nordisk)と比較してより速いインスリン作用発現が示されています(PMID: 25846340、PMID: 27873152、PMID: 27878566)。これらの超高速インスリンアナログは、糖尿病患者のPPGコントロール改善につながる可能性を秘めていると考えられます。しかし、これら薬剤の投与後における血糖推移などについて充分に検証されていません。
そこで今回は、ルムジェブ、フィアスプ、ヒューマログ、ノボラピッドについて、PKと糖力学(glucodynamic)を比較したクロスオーバー試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ルムジェブ | フィアスプ | ヒューマログ | ノボラピッド | |
早期半減期 | 13分 | 19分 | 26分 | 27分 |
食後2時間血糖値 (ベースラインからの変化) | 7mg/dL | -7mg/dL | -21mg/dL | -29mg/dL |
ルムジェブは、他のインスリン製剤と比較して、有意にインスリン吸収が速いことが示されました。薬物濃度の早期半減期はルムジェブ投与後13分で、フィアスプより6分、ヒューマログより13分、ノボラピッドより14分早い結果が示されました(いずれもP<0.0001)。
他のインスリン製剤と比較して、ルムジェブ投与後の初期インスリン曝露量は有意に大きく、後期インスリン曝露量は減少しました。食後2時間血糖値は、ルムジェブが最も高い数値を示し(7mg/dL vs. フィアスプ)、ヒューマログ(21mg/dL)およびノボラピッド(29mg/dL)と有意差が認められました。また、ルムジェブの食後3時間における血糖変動は、健常者と同等でした。
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超速効型インスリン製剤よりもさらに早い超速効型インスリン製剤、ルムジェブやフィアスプが販売されています。しかし、インスリン作用発現以外の有効性について情報が不足しています。
さて、本試験結果によれば、1型糖尿病患者において、ルムジェブは、他のインスリン製剤であるフィアスプやヒューマログ、そしてノボラピッドと比較して、インスリン吸収が最も速く、食後血糖降下作用が最も大きく、生理的なグルコースコントロールにより近いことが示されました。サンプルサイズは68例とやや少ないところではありますが、ルムジェブ、フィアスプ、ヒューマログ、ノボラピッドについて、PKと糖力学(glucodynamic)を比較したクロスオーバー試験の結果としては充分であると考えます。
一方、臨床的により重要となる心血管イベントや糖尿病合併症、死亡などのアウトカムに差があるのかについては明らかとなっていません。これら薬剤の比較データの集積が待たれます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ルムジェブは、他のインスリン製剤と比較して、インスリン吸収が最も速く、食後血糖降下作用が最も大きく、生理的なグルコースコントロールにより近いものであった。
根拠となった試験の抄録
目的:1型糖尿病患者を対象に、超速効型リスプロ(ルムジェブ:Eli Lilly and Company, Indianapolis, インド)、フィアスプ(Novo Nordisk, Bagsvaerd, デンマーク)、ヒューマログ(Eli Lilly and Company)およびノボラピッド(Novo Nordisk)のPKおよびGD特性を比較検討した。
材料と方法:本試験は、68例のT1D患者様を対象に実施したランダム化二重盲検法、4期クロスオーバー試験である。患者は、液体試験食の直前に、各試験薬を同じように個別化して皮下投与された。比較のため、12例の健常者にも同じ試験食が投与された。
結果:ルムジェブは、他のインスリン製剤と比較して、有意にインスリン吸収が速かった。薬物濃度の早期半減期はルムジェブ投与後13分で、フィアスプより6分、ヒューマログより13分、ノボラピッドより14分早かった(いずれもP<0.0001)。他のインスリン製剤と比較して、ルムジェブ投与後の初期インスリン曝露量は有意に大きく、後期インスリン曝露量は減少した。食後2時間の食後血糖値(PPG)は、ルムジェブが最も高い数値を示し(7mg/dL vs. フィアスプ)、ヒューマログ(21mg/dL)およびノボラピッド(29mg/dL)と有意差が認められた。また、ルムジェブの食後3時間における血糖変動は、健常者と同等であった。
結論:ルムジェブは、試験した他のインスリン製剤と比較して、インスリン吸収が最も速く、PPG低下作用が最も大きかった。ルムジェブは健常者に観察される初期の生理的グルコースコントロールにより近いものであった。
キーワード:血糖コントロール、インスリンアナログ、薬力学、薬物動態学、ランダム化試験、1型糖尿病
引用文献
Ultra rapid lispro lowers postprandial glucose and more closely matches normal physiological glucose response compared to other rapid insulin analogues: A phase 1 randomized, crossover study
Tim Heise et al. PMID: 32436641 PMCID: PMC7540588 DOI: 10.1111/dom.14094
Diabetes Obes Metab. 2020 Oct;22(10):1789-1798. doi: 10.1111/dom.14094. Epub 2020 Jun 18.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32436641/
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