静脈血栓塞栓症の予防および治療における重篤な出血リスクはDOAC間で異なるのか?
静脈血栓塞栓症(VTE)の予防および治療において、一般的にビタミンK拮抗薬(VKA)あるいは直接経口抗凝固薬(DOAC)が用いられます。近年ではDOACの使用数量が増えています。DOAC使用によるVTEの予防、治療により得られる益が大きいものの、これと引き換えに重篤な出血リスクが報告されていることから、DOAC使用時における安全性の検証が求められています。
日本において販売されているDOACは、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバンの4種類ですが、大出血リスクなどの安全性の比較は行われていません。
そこで今回は、VTEの予防および治療におけるDOACの重篤な出血に対する安全性を比較検討したネットワークメタ解析の結果をご紹介します。
本研究では、PubMed、EMBASE、Web of Science、the Cochrane Libraryのデータベースを2021年1月6日まで検索しました。安全性評価として、重篤な出血(大出血、消化管[GI]出血、頭蓋内出血、致死的出血)の発生率が調査されました。
試験結果から明らかになったことは?
31件のランダム化対照試験(76,641例)が含まれました。
VTE治療 | アピキサバン vs. ダビガトラン | アピキサバン vs. エドキサバン |
大出血リスク | オッズ比[OR]2.10 (95%CI 1.07〜4.12) | OR 2.64 (95%CI 1.36〜5.15) |
VTE治療において、アピキサバンの大出血リスクはダビガトラン(オッズ比[OR]2.10、95%CI 1.07〜4.12)およびエドキサバン(OR 2.64、95%CI 1.36〜5.15)より有意に低値でした。
各薬剤の安全性を最高から最低にランク付けしたところ、大出血及び消化管(GI)出血ではアピキサバンが、頭蓋内出血ではリバーロキサバン、重篤な(致命的な)出血ではエドキサバンが優れていました。
- 大出血:アピキサバン(SUCRA 98.0)、リバーロキサバン(SUCRA 69.6)、ダビガトラン(SUCRA 50.7)、エドキサバン(SUCRA 26.5)、ビタミンK阻害剤(VKA:SUCRA 5.1)。
- GI出血:アピキサバン(SUCRA 80.7)、リバーロキサバン(SUCRA 66.8)、エドキサバン(SUCRA 62.3)、VKA(SUCRA 34.4)、ダビガトラン(SUCRA 5.8)。
- 頭蓋内出血:リバーロキサバン(SUCRA 74.4)、エドキサバン(SUCRA 70.4)、ダビガトラン(SUCRA 58.2)、アピキサバン(SUCRA 44.4)、VKAs(SUCRA 5.6)。
- 致命的な出血:エドキサバン(SUCRA 82.7)、リバーロキサバン(SUCRA 59.2)、ダビガトラン(SUCRA 48.6)、アピキサバン(SUCRA 43.0)、VKA(SUCRA 16.3)。
VTE予防 | アピキサバン vs. リバーロキサバン |
大出血リスク | OR 2.14 (95%CI 1.02〜4.52) |
VTE予防については、アピキサバンの大出血リスクはリバーロキサバンより有意に低かった(OR 2.14、95%CI 1.02〜4.52)。
4種類の出血タイプにおいて、アピキサバンはDOACの中で出血リスクが最も低いことが示されました(大出血:SUCRA 81.6、GI出血:SUCRA 75.4、頭蓋内出血:SUCRA 64.1、致死的な出血:SUCRA 73.6)。
コメント
抗凝固薬としてはビタミンK拮抗薬であるワルファリンに代わりDOACが台頭してきています。しかし、DOAC間の安全性の比較は充分に行われていません。直接比較試験が行われていないことから臨床試験の結果を用いたネットワークメタ解析の実施が求められます。
さて、本試験結果によれば、ランダム化対照試験31件の結果から、静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、大出血とGI出血ではアピキサバンが、頭蓋内出血ではリバーロキサバンが、致死的出血ではエドキサバンが最も出血リスクが低いことが示されました。VTE予防においては、アピキサバンが最も出血リスクが低いことが示されました。全体的に見るとアピキサバンが優れていそうですが、個々の患者における出血リスクを評価した上で、どのDOACを使用するか判断した方が良いと考えられます。また、VTEの発生リスクにおけるDOACの効果比較も求められます。その上で、リスクベネフィットに優れるDOACがどれか検証した方が良いと考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ VTE治療において、大出血とGI出血ではアピキサバンが、頭蓋内出血ではリバーロキサバンが、致死的出血ではエドキサバンが最も出血リスクが低いことが示された。VTE予防では、アピキサバンが最も出血リスクが低かった。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、静脈血栓塞栓症(VTE)の予防および治療における直接経口抗凝固薬(DOAC)の重篤な出血に対する安全性を明らかにすることであった。
方法:PubMed、EMBASE、Web of Science、the Cochrane Libraryのデータベースを2021年1月6日まで検索した。重篤な出血(大出血、消化管[GI]出血、頭蓋内出血、致死的出血)の発生率を調査した。Frequentist network meta-analysisを用いることで、直接比較されなかった介入を95%信頼区間(CI)により間接的に比較でき、検索結果をより直感的なものにすることができた。累積順位曲線下面(SUCRA)に基づき、各群の相対的順位確率を作成した。
結果:31件のランダム化対照試験(76,641例)が含まれた。VTE治療において、アピキサバンの大出血リスクはダビガトラン(オッズ比[OR]2.10、95%CI 1.07〜4.12)およびエドキサバン(OR 2.64、95%CI 1.36〜5.15)より有意に低値であった。各薬剤の安全性を最高から最低にランク付けしたところ、
大出血:アピキサバン(SUCRA 98.0)、リバーロキサバン(SUCRA 69.6)、ダビガトラン(SUCRA 50.7)、エドキサバン(SUCRA 26.5)、ビタミンK阻害剤(VKA:SUCRA 5.1)。
GI出血:アピキサバン(SUCRA 80.7)、リバーロキサバン(SUCRA 66.8)、エドキサバン(SUCRA 62.3)、VKA(SUCRA 34.4)、ダビガトラン(SUCRA 5.8)。
頭蓋内出血:リバーロキサバン(SUCRA 74.4)、エドキサバン(SUCRA 70.4)、ダビガトラン(SUCRA 58.2)、アピキサバン(SUCRA 44.4)、VKAs(SUCRA 5.6)。
致命的な出血:エドキサバン(SUCRA 82.7)、リバーロキサバン(SUCRA 59.2)、ダビガトラン(SUCRA 48.6)、アピキサバン(SUCRA 43.0)、VKA(SUCRA 16.3)。
VTE予防については、アピキサバンの大出血リスクはリバーロキサバンより有意に低かった(OR 2.14、95%CI 1.02〜4.52)。
4種類の出血タイプにおいて、アピキサバンはDOACの中で最も出血リスクが低かった(大出血:SUCRA 81.6、GI出血:SUCRA 75.4、頭蓋内出血:SUCRA 64.1、致死的出血:SUCRA 73.6)。
結論:VTE治療において、大出血とGI出血ではアピキサバンが最も出血リスクが低く、頭蓋内出血ではリバーロキサバンが最も出血リスクが低く、致死的出血ではエドキサバンが最も出血リスクが低いことが示された。VTE予防では、アピキサバンが最も出血リスクが低かった。
キーワード:直接経口抗凝固薬(DOAC)、ネットワークメタアナリシス、重度出血、静脈血栓塞栓症(VTE)
引用文献
Severe Bleeding Risks of Direct Oral Anticoagulants in the Prevention and Treatment of Venous Thromboembolism: A Network Meta-Analysis of Randomised Controlled Trials
Jiana Chen et al. PMID: 34973879 DOI: 10.1016/j.ejvs.2021.10.054
Eur J Vasc Endovasc Surg. 2021 Dec 29;S1078-5884(21)00882-0. doi: 10.1016/j.ejvs.2021.10.054. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34973879/
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