成人COVID-19入院患者に対するバリシチニブの有効性・安全性はどのくらいですか?(DB-RCT; COV-BARRIER試験; Lancet Respir Med. 2021)

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成人COVID-19入院患者に対するバリシチニブの効果は?

SARS-CoV-2に感染した入院患者は、しばしば激しい炎症性亢進状態に陥り、急性呼吸窮迫症候群、敗血症性ショック、死亡などの多臓器不全を引き起こすことがあります(PMID: 31986264PMID: 32125452PMID: 32362390PMID: 32171076)。レムデシビル、デキサメタゾン、トシリズマブなどの治療法が進歩しているにもかかわらず、入院患者の死亡率を低下させることは依然として重要なアンメットニーズとなっています(PMID: 32445440PMID: 33306283PMID: 32678530PMID: 33933206)。

バリシチニブは、選択的なヤヌスキナーゼ(JAK)1/JAK2阻害剤であり(PMID: 20363976PMID: 24965573PMID: 31375130)、自己免疫疾患の患者における抗炎症作用が知られています(PMID: 29649002PMID: 26834213PMID: 33037080)。2020年2月、バリシチニブは、その既知の抗サイトカイン特性と、抗ウイルスメカニズムのために宿主タンパク質を標的とする可能性があることから、COVID-19の治療に介入する可能性があると、人工知能プラットフォームによって同定されました(PMID: 32032529PMID: 32113509)。その後、バリシチニブが、SARS-CoV-2ウイルスの増殖に関与するヒトのNumb関連キナーゼ(AAK1、BIKE、GAK)を生化学的に阻害することが確認されました(PMID: 32473600)。また、バリシチニブは、COVID-19の病態生理に関与する複数のサイトカインやバイオマーカーを減少させることも示されました(PMID: 32809969PMID: 33639176PMID: 32920092)。これらの知見が発表された後、COVID-19の入院患者(高齢者を含む)を対象とした小規模なコホートを含むいくつかの観察研究が行われ、バリシチニブ治療に伴う臨床的改善を示す最初の証拠が得られました(PMID: 32597466PMID: 32333918PMID: 32592703PMID: 33187978)。

今回は、アジア、欧州、北米、南米の12ヵ国の101施設から参加者が登録された第3相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験であるCOV-BARRIER試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

2020年6月11日から2021年1月15日の間に、参加者1,525例がバリシチニブ群(n=764)またはプラセボ群(n=761)にランダムに割り付けられました。

データが得られた1,518例のうち1,204例(79.3%)がベースライン時に全身性コルチコステロイドを投与されており、そのうち1,099例(91.3%)がデキサメタゾンを、287例(18.9%)がレムデシビルを投与されていました。

全体では、バリシチニブ投与を受けた被験者の27.8%とプラセボ投与を受けた被験者の30.5%が進行して主要評価項目高流量酸素、非侵襲的人工呼吸、侵襲的機械的人工呼吸、または死亡に進行した割合)を達成し(オッズ比 0.85 [95%CI 0.67~1.08]、p=0.18)、絶対的なリスクの差は-2.7%(95%CI -7.3 ~ 1.9)でした。
28日間の全死亡率は、バリシチニブ投与群で8%(n=62)、プラセボ投与群で13%(n=100)であり(ハザード比[HR] 0.57 [95%CI 0.41〜0.78]、名目上のp=0.0018)、死亡率が38.2%相対的に減少し、バリシチニブ投与群では20例につき1例の死亡が追加で防止された
60日間の全死亡率は、バリシチニブ投与群で10%(n=79)、プラセボ投与群で15%(n=116)でした(HR 0.62 [95%CI 0.47〜0.83]、p=0.0050)。

重篤な有害事象(バリシチニブ群750例中110例[15%]、プラセボ群752例中135例[18%])、重篤な感染症(64例[9%] vs. 74例[10%])、静脈血栓塞栓症(20例[3%] vs. 19例[3%])の頻度は両群間で同程度でした。

コメント

COVID-19に対するバリシチニブの有効性は、これまでにも報告されています。今回のCOV-BARRIER試験は、これまでと比較してサンプルサイズの大きな試験です。その結果、標準治療へのバリシチニブ追加は、標準治療へのプラセボ追加と比較して、主要評価項目高流量酸素、非侵襲的人工呼吸、侵襲的機械的人工呼吸、または死亡に進行した割合)の達成に有意な差は認められませんでした。一方、死亡率については、投与後28日間、60日間において、プラセボ群と比較して、いずれも有意なリスク低下が認められました。特に投与後28日間の死亡率についてはNNT 20と臨床的にみても有効性の高い値でした。

主要評価項目に群間差が認められていないことから、あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、死亡リスクの低下がみられたことは評価に値します。高流量酸素、非侵襲的人工呼吸、侵襲的機械的人工呼吸に進行した割合については、いずれも有意な差が認められないことから、これらのアウトカムが主要評価項目に影響した可能性が考えられます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 標準治療(デキサメタゾンを含む)に加えてバリシチニブを投与することで、入院中の成人COVID-19患者の死亡率が低下するかもしれない。

根拠となった試験の抄録

背景:バリシチニブは、経口の選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1/2阻害剤で、抗炎症作用があることが知られている。本試験では、入院中の成人COVID-19患者の治療において、標準治療との併用によるバリシチニブの有効性と安全性を評価した。

方法:この第3相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験では、アジア、欧州、北米、南米の12ヵ国の101施設から参加者が登録された。標準治療を受けているCOVID-19入院患者を、1日1回バリシチニブ(4 mg)またはプラセボを最大14日間投与する群にランダムに割り付けた(1:1)。
標準治療には、デキサメタゾンなどの全身性コルチコステロイドと、レムデシビルなどの抗ウイルス剤が含まれていた。
複合的な主要評価項目は、28日目までに高流量酸素、非侵襲的人工呼吸、侵襲的機械的人工呼吸、または死亡に進行した割合で、intention-to-treat集団で評価した。28日目までの全死亡は重要な副次的評価項目、60日目までの全死亡は探索的評価項目とし、いずれもintention-to-treat集団で評価した。安全性解析は、ランダムに割り付けられ、少なくとも1回の治験薬投与を受け、ベースライン後の最初の訪問日までにフォローアップを失っていないすべての参加者を安全集団と定義して行われた。本試験はClinicalTrials.gov(NCT04421027)に登録されている。

調査結果:2020年6月11日から2021年1月15日の間に、参加者1,525例がバリシチニブ群(n=764)またはプラセボ群(n=761)にランダムに割り付けられた。データが得られた1,518例のうち1,204例(79.3%)がベースライン時に全身性コルチコステロイドを投与されており、そのうち1,099例(91.3%)がデキサメタゾンを投与された。また、287例(18.9%)がレムデシビルを投与されていた。
全体では、バリシチニブ投与を受けた被験者の27.8%とプラセボ投与を受けた被験者の30.5%が進行して主要評価項目を達成し(オッズ比 0.85 [95%CI 0.67~1.08]、p=0.18)、絶対的なリスクの差は-2.7%(95%CI -7.3 ~ 1.9)であった。28日目の全死亡率は、バリシチニブ投与群で8%(n=62)、プラセボ投与群で13%(n=100)であり(ハザード比[HR] 0.57 [95%CI 0.41〜0.78]、名目p=0.0018)、死亡率が38.2%相対的に減少し、バリシチニブ投与群では20例につき1例の死亡が追加で防止された
60日間の全死亡率は、バリシチニブ投与群で10%(n=79)、プラセボ投与群で15%(n=116)であった(HR 0.62 [95%CI 0.47〜0.83]、p=0.0050)。
重篤な有害事象(バリシチニブ群750例中110例[15%]、プラセボ群752例中135例[18%])、重篤な感染症(64例[9%] vs. 74例[10%])、静脈血栓塞栓症(20例[3%] vs. 19例[3%])の頻度は両群間で同程度であった。

解釈:全体として病勢進行の頻度に有意な減少は見られなかったが、標準治療(デキサメタゾンを含む)に加えてバリシチニブを投与することで、標準治療のみの場合と同様の安全性プロファイルが得られ、入院中の成人COVID-19患者の死亡率の低下と関連していた。

資金提供:Eli Lilly and Company

引用文献

Efficacy and safety of baricitinib for the treatment of hospitalised adults with COVID-19 (COV-BARRIER): a randomised, double-blind, parallel-group, placebo-controlled phase 3 trial
Vincent C Marconi et al. PMID: 34480861 PMCID: PMC8409066 DOI: 10.1016/S2213-2600(21)00331-3
Lancet Respir Med. 2021 Aug 31;S2213-2600(21)00331-3. doi: 10.1016/S2213-2600(21)00331-3. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34480861/

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