ランダム化比較試験とは?③〜交絡因子とランダム化〜

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ランダム化比較試験に求められる試験デザインとは?

これまで、新薬の開発過程と各試験デザインの特徴と入り込みやすいバイアスについて紹介してきました。

ランダム化比較試験とは?②

今回は、これまでの記事で紹介した「臨床試験のための統計的原則(ICH-E9)」について触れていきます。この文書によれば、試験デザインに求められるのは「ランダム化」、「盲検化(ブラインド、マスク)」、「並行群間比較試験」、「多施設共同試験」です。この4つ以外にもありますが、バイアスを排除し、介入と転帰(アウトカム)との因果関係を述べるうえで特に重要であると考えられる項目を列挙しています。

ランダム化(無作為化)

臨床試験のための統計的原則(ICH-E9)原文より一部抜粋:

ランダム化は、臨床試験において、被験者への試験治療の割付に意図的に偶然の要素を取り入れており、後に試験データを解析する際に、試験治療の効果に関する証拠の定量的な評価のための正しい統計的根拠を与える。また、ランダム化は予後因子が既知であるか未知であるかにかかわらず、予後因子の分布が類似した試験治療グループを作るために役立つものである。ランダム化は、盲検化と組み合わせることで、試験治療の割付が予見可能な場合に、被験者の選択的割付によって生じる可能性のある偏りを回避することに役立つものである。

臨床試験のための統計的原則(ICH-E9)

前述の解説では、よほど臨床試験デザインや統計解析に詳しくない限り、理解が困難になると考えます。そのため、少し解説を加えます。

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Emerg Med J. 2003 Mar;20(2):164-8. doi: 10.1136/emj.20.2.164. より引用

そもそもランダム化は、臨床試験実施に際し、集められた試験参加者を2つ以上の群に分ける(割り付ける)方法です。2つ以上の群に分けた後、検証したい新薬と比較対照(プラセボや既存の標準治療薬など)を、それぞれの群に投与し、観察していくことになります。

“ランダム” とはいえ、言葉通りに単純に割り付けるだけではバイアスが入り込んでしまい、結果の解釈を困難にします。では、どのようにバイアスが入り込むことを最小限に抑えれば良いのでしょうか?それが動的割り付けです。

具体的には、ランダム割り付けをする際に、試験参加者の年齢、性別、体格、嗜好品(喫煙やアルコール摂取など)、疾患の既往歴(心筋梗塞や脳卒中など)、使用中の医薬品などの背景情報(患者背景)をある程度揃えるように試験プロトコルとしてランダム化の方法を決めておくことで必要です。その他にも、例えば、認知機能を評価する場合に試験参加者の最終学歴を揃えることもあります。このように試験参加者の背景情報を揃えることで、群間の偏りを可能な限り小さくすることができます。

Confounder - an overview | ScienceDirect Topics
Clinical Pharmacy, Drug Information, Pharmacovigilance, Pharmacoeconomics and Clinical Research 2019, Pages 203-214. より引用

では、なぜ適切にランダム化することで、試験薬投与後の観察期間におけるバイアスが入り込むことを避けられるのでしょうか?それは未知の交絡因子を考慮しなくて良いためです。”未知”であることから考慮できないのは当然のことではありますが、一方で、試験結果に影響を与える既知の因子(既知の交絡因子)が残存していることで、因果関係を述べることができなくなります。

具体例として、アルコール摂取と肺がんリスクについてご紹介します。以前の記事で紹介したコーヒー摂取と肺がんリスクの場合と似ていますが、アルコール接種で肺がんリスクが増加した試験結果があったとしましょう。この場合、アルコール摂取は肺がんリスクを増加させると言えるのでしょうか?今回の場合も “喫煙” が肺がんのリスク増加の真の原因であり、またアルコール摂取と肺がんリスク増加との交絡因子ということです。つまり、アルコールを摂取する集団においては、アルコールを摂取しない集団と比較して、喫煙率も高くなるため、あたかもアルコール摂取により肺がんリスクが増加しているように “みえてしまっている” ということです。

適切にランダム化されていない試験においては、いずれの場合であっても、ある疾患に対し検証された新薬の効果は、あるかもしれないし、ないかもしれないし、詰まるところよく分からない、となってしまいます。なぜなら交絡因子を調整しなければ、介入によって結果が得られたのか、介入に伴う何か他の因子(交絡因子)によって結果が得られたのか分からないためです。

そこで重要となるのが前述の動的割り付けです。アルコール摂取と肺がんリスクとの関連性を検証する場合、試験参加者の背景情報として、喫煙歴や摂取量(本数/日、摂取年数など)に関する情報を得ておき、群間で差が生じないようにすれば良いことになります。もちろん、喫煙の他にも肺がんリスク増加に影響を与える因子(年齢など)は報告されていますので、可能な限り既知の交絡因子については調整しておく必要があります。

このように “適切に” ランダム化することで、バイアスが入り込むのを抑え、試験結果の信頼性を高めることができます。

次回は、盲検化(ブラインド、マスク)について解説していきます。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験であっても、試験デザインによりバイアスが入り込む可能性があることから、試験開始時に可能な限り背景情報(既知の交絡因子)を調整することが求められる。

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