非重症COVID-19入院患者に対する治療的ヘパリン抗凝固療法の効果は?
一部の患者では、コロナウイルス症2019(COVID-19)の臨床経過は、初期に軽度から中程度の症状があり、その後、呼吸不全が進行して心血管系や呼吸器系の臓器サポートが必要になったり、死に至ることが特徴です(PMID: 32171076、PMID: 33351077)。しかし、COVID-19入院患者の大半は中等症であり、初期に集中治療室(ICU)での臓器サポートを必要としません(PMID: 32320003、PMID: 32444358、PMID: 32960645)。また中等症の患者の臓器不全や死への進行を防ぐための治療法は限られています。
COVID-19入院患者は、大血管や細小血管の血栓症や炎症を起こしていることが多く、これらは臨床転帰の悪さと関連しています(PMID: 32702090、PMID: 32816822)。ヘパリンの抗血栓性、抗炎症性、そしておそらく抗ウイルス性の特性を考慮すると(PMID: 32970989、PMID: 32853989、PMID: 33368089)、従来の静脈血栓予防に用いられている用量よりも高い用量のヘパリンを投与して抗凝固療法を行うことが転帰の改善につながるのではないかという仮説が立てられています(PMID: 33085867)。さらに、d-ダイマー値の上昇は、血管の血栓症や臨床転帰の増悪と関連しています(PMID: 32702090、PMID: 33591017)。そのため、抗凝固剤投与の指針として、d-ダイマー値の評価を提唱する医師もいます。しかし、ランダム化試験のデータがないため、臨床ガイドラインの推奨事項や診療行為は大きく異なります(PMID: 32938471、PMID: 32838111)。
そこで今回は、国際的な適応型マルチプラットフォームのランダム化比較試験(REMAP-CAP/ACTIV-4a/ATTACC試験)を実施し、非重症のCOVID-19入院患者において、未分画または低分子ヘパリンによる治療用量の抗凝固療法の初期戦略が、院内生存率を改善し、ICUレベルの心血管・呼吸器サポートの期間を短縮するかどうかを検討した試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
本試験は、治療用量による抗凝固療法の優位性に関する事前に規定された基準が満たされた時点で中止されました。最終解析対象となった2,219例のうち、治療的用量の抗凝固療法が通常ケアの血栓予防と比較して臓器サポートのない日数を増加させる確率は98.6%でした。
☆調整済みオッズ比 1.27、95%信頼区間 1.03〜1.58
また、治療的用量の抗凝固療法を行った場合の、臓器障害のない退院までの生存率の調整後絶対値の群間差は、4.0%ポイント(95%信頼区間 0.5~7.2)でした。
通常の血栓予防に対する治療的投与による抗凝固療法の優位性を示す最終的な確率は、高d-ダイマーコホートで97.3%、低d-ダイマーコホートで92.9%、d-ダイマー不明コホートで97.3%でした。
大出血は治療的用量の抗凝固療法を受けた患者の1.9%、血栓予防を受けた患者の0.9%に発生しました。
コメント
COVID-19はサイトカインストームを引き起こすことにより、全身性の炎症・凝固反応が観察されます。したがって、治療に際しては抗炎症薬や抗凝固薬が使用されます。
さて、本試験結果によれば、COVID-19で入院した非重症患者において、治療用量の抗凝固療法としてのヘパリン使用は、通常ケアと比較して、退院までの生存確率を高め、21日目のICUレベルの臓器サポートの必要性を減少させました。
治療用量の抗凝固療法は、患者ベースラインのd-ダイマー値にかかわらず有益であることが示されましたが、大出血は抗凝固療法群で多く発生しました(1.9% vs. 0.9%)。本試験結果から中等症の入院患者1,000人ごとに、治療的用量の抗凝固療法を行う初期戦略は、通常ケアと比較して、大出血イベントを7回犠牲にしても、臓器サポートなしで退院するまでの患者40人を生存させることができると予想されます(大出血イベント NNH=7、臓器サポートなしで退院 NNT=40)。絶対的な治療効果は、高dダイマー群の方が低dダイマー群よりも高い事が示されましたが、d-ダイマー不明コホートとは差がありませんでした。血栓リスクの評価におけるd-ダイマーの有用性については更なる検証が必要であると考えられます。
非重症患者においてもヘパリンによる治療的抗凝固療法が有益である事が示されました。大出血リスクはあるものの出血についてモニターすれば重篤化は予防できると考えられます。重症化を抑制し、臓器サポートなしで退院できる確率を高められることから、本試験結果は非常に有益であると考えられます。
✅まとめ✅ COVID-19非重症患者において、ヘパリンを用いた治療的用量の抗凝固療法の初期戦略は、通常ケアと比較して、心血管系や呼吸器系の臓器サポートを減らしながら、退院までの生存確率を高めた
根拠となった試験の抄録
背景:コロナウイルス感染症2019(CVID-19)患者の死亡や合併症のリスクには、血栓症や炎症が関与している可能性がある。我々は、治療用量の抗凝固療法が、COVID-19で入院した非重症患者の転帰を改善する可能性があるという仮説を立てた。
方法:この非盲検適応型マルチプラットフォーム対照試験では、非重症COVID-19 入院患者(登録時に重症患者レベルの臓器サポートがないと定義)を、ヘパリンを用いた治療用量の抗凝固療法または通常ケアの薬理学的血栓予防のいずれかの実用的に定義されたレジメンを受けるようにランダムに割り付けた。
主要評価項目は臓器サポートのない日数であり、院内死亡(-1)と退院まで生存した患者の21日目までの心血管系または呼吸器系の無臓器日数を組み合わせた順序尺度で評価した。この結果は、ベイジアン統計モデルを用いて、すべての患者について、ベースラインのd-ダイマー値に応じて評価した。
結果:本試験は、治療用量による抗凝固療法の優位性に関する事前に規定された基準が満たされた時点で中止された。最終解析対象となった2,219例のうち、治療的用量の抗凝固療法が通常ケアの血栓予防と比較して臓器サポートのない日数を増加させる確率は98.6%であった。
☆調整済みオッズ比 1.27、95%信頼区間 1.03〜1.58
また、治療的用量の抗凝固療法を行った場合の、臓器障害のない退院までの生存率の調整後絶対値の群間差は、4.0%ポイント(95%信頼区間 0.5~7.2)であった。通常の血栓予防に対する治療的投与による抗凝固療法の優位性を示す最終的な確率は、高d-ダイマーコホートで97.3%、低d-ダイマーコホートで92.9%、d-ダイマー不明コホートで97.3%であった。
大出血は治療的用量の抗凝固療法を受けた患者の1.9%、血栓予防を受けた患者の0.9%に発生した。
結論:COVID-19非重症患者において、ヘパリンを用いた治療的用量の抗凝固療法の初期戦略は、通常のケアによる血栓予防と比較して、心血管系や呼吸器系のサポートの使用を減らしながら、退院までの生存確率を高めた(ATTACC、ACTIV-4a、およびREMAP-CAP;ClinicalTrials.gov番号 NCT04372589、NCT04505774、NCT02735707、NCT04359277)。
引用文献
Therapeutic Anticoagulation with Heparin in Noncritically Ill Patients with Covid-19
REMAP-CAP Investigators/ACTIV-4a Investigators/ATTACC Investigators
PMID: 34351721 DOI: 10.1056/NEJMoa2105911
N Engl J Med. 2021 Aug 4. doi: 10.1056/NEJMoa2105911. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34351721/
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