JAK阻害薬であるトファシチニブ(ゼルヤンツ®️)がCOVID-19に有効?
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を原因とするウイルス性疾患です。ワクチンが急速に開発されているにもかかわらず、世界の人口の大部分がCOVID-19のリスクを抱えています。そのため、COVID-19入院患者に対して、効果的で安全、かつ投与しやすい治療法が必要とされています。
SARS-CoV-2感染症の重篤な症状は、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子αなどのサイトカインによる過剰な免疫反応と関連しており、サイトカインストームと呼ばれています(PMID: 33264547)。トファシチニブは、経口投与可能なヤヌスキナーゼ(JAK)1およびJAK3の選択的阻害剤であり、JAK2には機能的な選択性があります。また、トファシチニブは、インターフェロンやインターロイキン6の作用を調節し、急性呼吸窮迫症候群の発症に関与する1型および17型ヘルパーT細胞によるサイトカインの放出を減少させます(PMID: 22147632、PMID: 32192578、PMID: 27931982)。したがって、トファシチニブが炎症カスケードの複数の重要な経路に作用することで、COVID-19入院患者における進行性の炎症に起因する肺損傷を改善できる可能性があります。
そこで今回は、COVID-19入院患者に対するトファシチニブ(ゼルヤンツ®️)の効果について、ブラジルで実施されたSTOP-COVID試験をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ブラジルの15施設で289例の患者がランダム化を受けました。全体で89.3%の患者が入院中にグルココルチコイドを投与されていました。
28日目までの死亡または呼吸不全の累積発生率(主要評価項目)は、トファシチニブ群で18.1%、プラセボ群で29.0%でした。
☆リスク比 0.63、95%信頼区間[CI] 0.41~0.97;P = 0.04
28日目までに何らかの原因で死亡したのは、トファシチニブ群で2.8%、プラセボ群で5.5%でした。
☆ハザード比 0.49、95%CI 0.15~1.63
8段階の順序尺度のスコアが悪化する比例オッズは、プラセボと比較して、トファシチニブで14日目に0.60(95%CI 0.36~1.00)、28日目に0.54(95%CI 0.27~1.06)でした。
トファシチニブ群 | プラセボ群 | |
主要評価項目: 28日目までの死亡または呼吸不全の累積発生率 | 18.1% | 29.0% |
リスク比 0.63 (95%CI 0.41~0.97) P = 0.04 | ||
28日目までの総死亡 | 2.8% | 5.5% |
ハザード比 0.49 (95%CI 0.15~1.63) | ||
重篤な有害事象 | 20例(14.1%) | 17例(12.0%) |
重篤な有害事象は、トファシチニブ群では20例(14.1%)、プラセボ群では17例(12.0%)に発生しました。
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厚生労働省は2021年4月23日に、JAK阻害薬であるバリシチニブ(オルミエント®️)に「SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)」の効能・効果を追加することを承認しました。ただし、入院下において、抗ウイルス薬レムデシビル(ベクルリー®️)と併用して使用する必要があります。作用機序から、バリシチニブ以外のJAK阻害薬についても同様の効果が得られる可能性が高いです。そこで、同種同効薬であるトファシチニブ(ゼルヤンツ®️)のCOVID-19に対する効果を検証したランダム化比較試験を読んでみました。
試験結果から、NIAID Ordinal Scale 4、5、6の患者において、28日目までの死亡または呼吸不全の累積発生率は、プラセボと比較して、トファシチニブ群で有意に減少していました。ただし、28日目までの総死亡はハザード比 0.49(95%CI 0.15~1.63)と、減少傾向でした。また薬剤の使用期間が最大でも14日間であることから、血栓症等の重篤な有害事象は認められませんでした。
COVID-19に対する通常ケアへのトファシチブ追加は、患者アウトカムに対して有益なようです。
✅まとめ✅ COVID-19 肺炎で入院した患者において、トファシチニブはプラセボと比較して、28日目までの死亡または呼吸不全のリスクを低下させた
根拠となった試験の抄録
背景:コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の肺炎で入院した患者に対するヤヌスキナーゼ阻害薬であるトファシチニブの有効性と安全性は不明である。
方法:COVID-19 肺炎で入院した成人を、1:1 の割合でランダムに割り付け、トファシチニブ 10mg(1日2回投与)あるいはプラセボを最長14日間または退院まで投与した。
主要評価項目は、28日目までの死亡または呼吸不全の発生で、8段階の順序尺度(スコアは1~8で、スコアが高いほど状態が悪いことを示す)を用いて評価した。また、全死亡率と安全性についても評価した。
結果:ブラジルの15施設において、患者289例がランダム化を受けた。全体では89.3%の患者が入院中にグルココルチコイドを投与された。
28日目までの死亡または呼吸不全の累積発生率は、トファシチニブ群で18.1%、プラセボ群で29.0%だった(リスク比 0.63、95%信頼区間[CI] 0.41~0.97;P=0.04)。28日目までに何らかの原因で死亡したのは、トファシチニブ群では2.8%、プラセボ群では5.5%であった(ハザード比 0.49、95%CI 0.15~1.63)。プラセボと比較して、トファシチニブで8段階の順序尺度のスコアが悪化する比例オッズは、14日目に0.60(95%CI 0.36~1.00)、28日目に0.54(95%CI 0.27~1.06)であった。重篤な有害事象は、トファシチニブ群では20例(14.1%)、プラセボ群では17例(12.0%)に発生した。
結論:COVID-19 肺炎で入院した患者において、トファシチニブはプラセボと比較して、28日目までの死亡または呼吸不全のリスクを低下させた(資金提供:Pfizer社、STOP-COVID、ClinicalTrials.gov番号:NCT04469114)。
引用文献
Tofacitinib in Patients Hospitalized with Covid-19 Pneumonia
Patrícia O Guimarães et al. PMID: 34133856 DOI: 10.1056/NEJMoa2101643
N Engl J Med. 2021 Jun 16. doi: 10.1056/NEJMoa2101643. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34133856/
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