反復性急性中耳炎に対する治療は何が良いのか?
慢性中耳炎とは、急性中耳炎を反復し、中耳の鼓膜や骨に慢性的な炎症が生じるために耳漏が持続してしまう状態です。鼓膜穿孔を伴うことが多いため、中耳内圧が高まらず、痛みは生じにくいことが知られています。なかでも反復性(再発性)中耳炎は過去6ヵ月以内に3回以上、12ヵ月以内に4回以上の急性中耳炎に罹患する場合と定義されています(小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版)。
反復性中耳炎の治療としては、保存的治療と外科的治療がありますが、外科的治療としては鼓膜切開術、鼓膜換気チューブ留置術、鼓膜換気チューブ留置術にアデノイド切除術を併用する方法があります。
アデノイド切除術はランダム化比較試験(RCT)で反復性中耳炎の頻度を減少させることはなく、予防効果もないとされています。さらに鼓膜換気チューブに加えアデノイド切除術を施行しても治療の上乗せ効果はないと報告されており、反復性中耳炎に対する外科的治療として、アデノイド切除術は推奨されていません。
鼓膜切開術は本邦の症例対照研究で、反復性中耳炎の発症頻度低下に有意な効果は認められていません。
鼓膜換気チューブの1年あるいは1ヵ月の留置で罹患頻度の有意な低下が示されています。海外においても、1年間の留置により急性中耳炎の罹患回数の減少が報告されており、また特に疼痛や保護者のQOLに関して改善効果があるとされています。しかし患児、保護者のQOLには変化がないとする報告もあり見解は一致していません。コクランレビューでは、鼓膜換気チューブ留置後6ヵ月以内であれば、急性中耳炎の反復頻度を減少させる効果が見られたとするRCTが2件あったとしていますが、その結果については統計学的有意差があるとするものと、統計学的有意差がないとするものの両方があり、ランダム化に厳密性を欠くなどのバイアスリスクを伴うことから、反復性中耳炎に対する鼓膜換気チューブの有効性を結論づけるには今後の検討が必要とされています。
つまり、反復性中耳炎に対する鼓膜換気チューブの効果については、現在のところ短期間の有効性には限定的ながらエビデンスはあるものの、より長期にわたる有効性については確認されていない、ということです。
そこで今回は、反復性急性中耳炎の小児に対し、鼓膜切開チューブ(+医学的管理)と医学的管理のみに割り付け、2年間観察した研究結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
Iintention-to-treat解析の結果、2年間の小児1人当たりの急性中耳炎エピソード数の割合(±SE)は、鼓膜切開チューブ群で1.48±0.08、医学的管理群で1.56±0.08であり、群間差は認められませんでした(P=0.66)。
ITT解析 | 鼓膜切開チューブ群 | 医学的管理群 |
急性中耳炎エピソード数の割合 (%/人/2年) | 1.48±0.08 | 1.56±0.08 |
鼓膜切開チューブ群の小児10%が鼓膜切開チューブの留置を行わず、医学的管理群の小児16%が親の希望で鼓膜切開チューブの留置を行ったため、per-protocol解析を行ったところ、それぞれのエピソード率は1.47±0.08と1.72±0.11でした。
PP解析 | 鼓膜切開チューブ群 | 医学的管理群 |
急性中耳炎エピソード数の割合 (%/人/2年) | 1.47±0.08 | 1.72±0.11 |
主解析の副次的アウトカムについては、様々な結果が得られました。鼓膜切開チューブ留置が有利だったのは、急性中耳炎の初回エピソードまでの期間、エピソードに関連した様々な臨床所見、および治療失敗の規定基準を満たした小児の割合でした。また、医学的管理が望ましいとされたのは、耳鳴りの累積日数でした。
実質的な差が認められなかったのは、急性中耳炎のエピソードの頻度分布、重症とされたエピソードの割合、呼吸器分離菌の抗菌性などでした。試験に関連する有害事象に差は認められませんでした。具体的には、小児の欠席率、介護者の欠勤、軽度の薬物有害反応、アナフィラキシーおよびその他の重篤な薬物有害反応、主要評価項目終了後30日以内における呼吸器系疾患の再発率でした。
試験概要のビデオはこちら⏬
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反復性急性中耳炎の小児において、2年間の急性中耳炎エピソードの発生率は、鼓膜切開チューブと内科的管理で同程度であることが明らかとなりました。これまでの研究は介入後の追跡期間が最長でも1年間ですので、今回の研究はより長期的な有効性と安全性を検証したことになります。
副次評価項目ではありますが、鼓膜切開チューブの方が、医学的管理のみと比較して、有利であることが示されました。具体的には、急性中耳炎の初回エピソードまでの期間、エピソードに関連した様々な臨床所見、および治療失敗の規定基準を満たした小児の割合です。
有害事象について差がない点は意外でした。主要評価項目と安全性を鑑みると、手術あるいは医学的管理のみ、どちらを選択しても良いのかもしれません。
✅まとめ✅ 生後 6~35ヵ月の反復性急性中耳炎の小児において、2年間の急性中耳炎エピソードの発生率は、鼓膜切開チューブと内科的管理で同程度だったが、副次評価項目では鼓膜切開チューブの方が有利だった
根拠となった論文の抄録
背景:反復性(再発性)急性中耳炎の小児に対する鼓膜切開チューブの留置については、公式の推奨が異なる。
方法:6ヵ月以内に3回以上の急性中耳炎を発症、あるいは12ヵ月以内に4回以上発症し、その前の6ヵ月以内に1回以上発症した生後6~35ヵ月の小児を、鼓膜切開チューブ留置術を受ける群と、抗菌薬の単回投与を含む内科的管理を受ける群にランダムに割付けた。
主要評価項目は、2年間の子ども1人当たりの急性中耳炎の平均エピソード数(率)であった。
結果:intention-to-treat解析の結果、2年間の子ども1人当たりの急性中耳炎エピソード数の割合(±SE)は、鼓膜切開チューブ群で1.48±0.08、医学的管理群で1.56±0.08であった(P=0.66)。
鼓膜切開チューブ群の10%の小児が鼓膜切開チューブの留置を行わず、医学的管理群の16%の小児が親の希望で鼓膜切開チューブの留置を行ったため、per-protocol解析を行ったところ、それぞれのエピソード率は1.47±0.08と1.72±0.11であった。
主解析の副次的アウトカムについては、様々な結果が得られた。鼓膜切開チューブ留置が有利だったのは、急性中耳炎の初回エピソードまでの期間、エピソードに関連した様々な臨床所見、および治療失敗の規定基準を満たした子どもの割合であった。また、医学的管理が望ましいとされたのは、子どもたちの耳鳴りの累積日数でした。実質的な差が認められなかったのは、急性中耳炎のエピソードの頻度分布、重症とされたエピソードの割合、呼吸器分離菌の抗菌性などでした。試験に関連する有害事象は、試験の副次的アウトカムに含まれるものに限られていた。
結論:生後 6~35ヵ月の再発性急性中耳炎の小児において、2年間の急性中耳炎エピソードの発生率は、鼓膜切開チューブの留置により内科的管理よりも有意に低くはなかった(資金提供:National Institute on Deafness and Other Communication Disordersなど、ClinicalTrials.gov番号:NCT02567825)。
引用文献
Tympanostomy Tubes or Medical Management for Recurrent Acute Otitis Media
Alejandro Hoberman et al. PMID: 33979487 DOI: 10.1056/NEJMoa2027278
N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1789-1799. doi: 10.1056/NEJMoa2027278.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33979487/
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