SARS-CoV-2再陽性患者への治療戦略には何が良いのか?
2019年末、SARS-CoV-2と名付けられた新型コロナウイルスが、COVID-19と名付けられた呼吸器疾患の国際的な大流行を引き起こしました。2020年12月24日までに、COVID-19は世界中で7,000万人以上に感染し、約170万人が死亡しました(PMID: 32339228)。
退院した患者の一部からSARS-CoV-2のRNAが再検出されたことが報告されています。残念ながら、SARS-CoV-2の再発陽性のメカニズムは現時点では明らかになっていません。
ファビピラビルは、RNA依存性のRNAポリメラーゼを標的とした新しい広域抗ウイルス剤です。2020年2月13日、COVID-19の臨床試験に使用するファビピラビル錠が中国FDAから承認されました。ファビピラビルは、A型およびB型インフルエンザ、ウイルス性出血熱など、幅広い抗ウイルス作用を有しています。
非盲検非ランダム化臨床試験(PMID: 32346491)では、ファビピラビルがロピナビル/リトナビルと比較して、SARS-CoV-2のクリアランス期間を短縮できることが示されています(中央値 4日[IQR 2.5-9] vs. 11日、P<0.001)。また、ファビピラビル群の胸部画像の改善率は対照群よりも有意に優れていました(91.43% vs. 62.22%、P=0.004)。一方で、非盲検ランダム化比較試験(PMID: 33212256)では、対照群と有効性に差はなく、有害事象が有意に増加していました。
いずれの試験も新型コロナウイルス初回感染者を対象としており、再感染患者における有効性・安全性については明らかになっていません。
そこで今回は、SARS-CoV-2 RNA再陽性患者を対象に、標準治療へのファビピラビル追加を追加した場合の有効性・安全性を検証した臨床試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
2020年3月27日から5月9日の間に、患者55例がランダム化を受け、36例がファビピラビル群に、19例が対照群に割り振られました。
ファビピラビル群は対照群に比べ、試験治療開始から鼻咽頭ぬぐい液および喀痰が陰性になるまでの期間が有意に短いことが示されました。
☆SARS-CoV-2 RNAのRT-PCR結果が2回(24時間以上の間隔で)連続して陰性となるまでの時間
(中央値)ファビピラビル群 17日 vs. 対照群 26日
ハザード比 2.1(95%CI 1.1~4.0)、p=0.038
ファビピラビル群のウイルス排出率は対照群よりも高いことが示されました。
ファビピラビル群 80.6%[29/36] vs. 対照群 52.6%[10/19]、p=0.030
C反応性タンパク質はファビピラビル群で治療後に有意に減少しました(p=0.016)。
有害事象は概して軽度であり、自己限定的であった。
コメント
COVID-19に対するファビピラビル使用について、中国では2020年2月13日に承認されています。一方、日本では、富士フィルムが臨床試験を実施し、承認申請を行っていますが、薬事・食品衛生審議会で見送られ、承認されていません。
さて、今回の臨床試験結果によれば、ファビピラビル群は対照群に比べ、試験治療開始から鼻咽頭ぬぐい液および喀痰が陰性になるまでの期間が有意に短いことが示されました。絶対差は中央値で9日と、かなりの差があります。ただし本試験は非盲検かつ小規模であるため、薬剤効果についてやや過大評価されており、結果の一般化は困難であると考えます。
続報を待ちたいところです。
✅まとめ✅ 退院後のSARS-CoV-2 RNA再発陽性者のウイルス排出期間を短縮する上で、ファビピラビルは安全であり、対象よりも優れていた。
根拠となった論文の抄録
背景:回復後にCOVID-19が陽性となった患者の臨床的特徴や治療法は依然として不明である。これらの患者に取り組むためには、効果的な抗ウイルス療法が重要である。我々は、これらの患者の治療に対するファビピラビルの有効性と安全性を評価した。
方法:本試験は、SARS-CoV-2 RNA再陽性患者を対象とした多施設共同、非盲検、ランダム化対照試験である。患者は、標準治療に加えてファビピラビルを投与する群と、標準治療のみを行う群に2:1の割合でランダム割り付けされた。
主要評価項目は、鼻咽頭ぬぐい液および喀痰サンプル中のSARS-CoV-2 RNAのRT-PCR結果が2回(24時間以上の間隔で)連続して陰性となるまでの時間とした。
結果:2020年3月27日から5月9日の間に、患者55例がランダム化を受け、36例がファビピラビル群に、19例が対照群に割り振られた。
ファビピラビル群は対照群に比べ、試験治療開始から鼻咽頭ぬぐい液および喀痰が陰性になるまでの期間が有意に短かった(中央値 17日 vs. 26日);ハザード比 2.1(95%CI[1.1~4.0]、p=0.038)。
ファビピラビル群のウイルス排出率は対照群よりも高かった(それぞれ80.6%[29/36] vs. 52.6%[10/19]、p=0.030)。
C反応性タンパク質はファビピラビル群で治療後に有意に減少した(p=0.016)。
有害事象は概して軽度であり、自己限定的であった。
結論:退院後のSARS-CoV-2 RNA再発陽性者のウイルス排出期間を短縮する上で、ファビピラビルは安全であり、対象よりも優れていた。しかし、我々の結論を確認するためには、より大規模かつランダム化二重盲検プラセボ対照試験が必要である。
引用文献
Favipiravir in the treatment of patients with SARS-CoV-2 RNA recurrent positive after discharge: A multicenter, open-label, randomized trial
Hong Zhao et al. PMID: 33930706 PMCID: PMC8059985 DOI: 10.1016/j.intimp.2021.107702
Int Immunopharmacol. 2021 Apr 21;97:107702. doi: 10.1016/j.intimp.2021.107702. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33930706/
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