進行したHFrEFにおいて、サキュビトリル/バルサルタンはバルサルタンより優れていない(DB-RCT; LIFE試験; ACC21学会発表データ)

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試験の概要

2021年5月17日に開催されたACC.21で発表されたLIFE試験の結果によると、駆出率の低下した進行性の心不全患者において、サクビトリル/バルサルタンの併用療法はバルサルタンと比較してNT-proBNPの低下に優れておらず、その他の臨床転帰も改善しなかったようです。

この試験は、COVID-19パンデミックの際に、有害な結果が生じるリスクが高い患者を対象としていたことから、2020年3月に早期中止されました。当初のプロトコールおよび統計計画では、患者400例を対象とした分析が指定されていましたが、修正された統計計画では患者335例が指定されたため、収集された臨床エンドポイントのいずれもCOVID-19によって影響を受けることはなかったとのこと。なお、主要評価項目であるNT-proBNPのベースラインから24週までの比例変化量の曲線下面積については、統計的検出力が88%から79%に減少したとのこと。

試験結果から明らかになったことは?

本試験では、心不全患者335例を、サクビトリル/バルサルタン投与群(167例)とバルサルタン投与群(168例)にランダム割り付けし、24週間の追跡調査を行いました。ベースライン時の左室駆出率(EF)は20%以下、収縮期血圧は約113mmHg、推定糸球体濾過量はサクビトリル/バルサルタン投与群で63.6mL/min/1.73m2、バルサルタン群で65.7mL/min/1.73m2、NT-proBNPはそれぞれ1,931pg/ml、1,818pg/mlでした。患者の多くは白人(60%)で、年齢は60歳、女性は約3分の1でした。

その結果、いずれの治療法も主要評価項目であるNT-proBNPの中央値をベースラインレベルより低下させることはできませんでした。同様に、副次評価項目である生存・退院・HFイベント発生のない日数についても、サクビトリル/バルサルタンとバルサルタンの間に差はありませんでした(それぞれ103.2日 vs. 111.2日、p=0.45)。

忍容性については、サクビトリル/バルサルタンの1日平均投与量は195.3mg、バルサルタンは154.4mgでした(いずれも目標投与量の48%にとどまった)。低血圧はサクビトリル/バルサルタン投与群で17%、バルサルタン投与群で12%(p=0.16)、高カリウム血症は17%、9%(p=0.035)に発現しました。腎機能の悪化は両群とも4%に認められました。

また、主要な三次評価項目である心血管死・HF入院(ハザード比 1.32、p=0.20)、HF入院(ハザード比 1.24、p=0.33)、心血管死・全死亡については、バルサルタンと比較してサキュビトリル/バルサルタンによる改善は認められませんでした。

コメント

米国におけるサクビトリル/バルサルタン(エンレスト®️)の適応は、左室駆出率(EF)の低下した心不全(HFrEF)だけでなく、EFが保たれた心不全(HFpEF)にも拡大しました。一方、日本では、米国のように細かな適応患者が設定されておらず「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。)」という括りで適応が承認されています。心不全は増悪による入院を繰り返しやすく、これに伴い病態が進行しやすいことから、進行した心不全に対する治療戦略の構築が求められています。そこで実施されたのが今回のLIFE試験です。

いずれの治療法も、主要評価項目であるNT-proBNPの中央値をベースラインレベルより低下させることはできませんでした。ただし、24週間の追跡期間ですので、致し方ない気もします。短期間であれば、ARBだけでも良いのかもしれないですね。まだまだエンレスト®️は高額ですので。

ちなみに今回の試験に組み入れられた患者は、以下の通りです;

  • 以下を全てを含むと定義された進行性HFrEF
    • 過去12ヵ月間にLVEF35%以上の記録があること
    • NYHAクラスIVの症状(過去3ヵ月間に安静時または軽度の労作時に慢性的な呼吸困難または疲労があると定義される)、または慢性的な強心剤治療を必要とする患者
    • 最低3ヵ月間のHFに対するガイドラインによる治療(guideline-directed medical therapy、GDMT)および/または治療に耐えられない患者
    • 収縮期血圧が90mmHg以上
    • 血清NT-proBNP≧800pg/mLまたはBNP≧250pg/mL(直近-3ヵ月以内)。
  • 以下のような進行したHFの客観的所見が1つ以上あること。
    • 現在、強心剤治療を受けている、または過去6ヵ月間に強心剤を使用したことがある
    • 過去6ヵ月間以上、心不全による入院が1回以上(入院患者の場合は指標となる入院を含まない)
    • LVEF≦25%(過去12ヵ月以内)
    • ピークVO2<55%予測またはピークVO2≦16(男性)または≦14(女性)(Respiratory Exchange Ratio(RER)≧1.05)(過去12ヵ月以内)
    • 6分間歩行テストの距離が300m未満(過去3ヵ月以内)
  • 年齢18歳以上、85歳以下

本研究の筆頭著者であるDouglas L. Mann医学博士(FACC)は、「我々は、すべての心不全患者は同じであり、したがって、すべての治療法に対して同じ反応を示すと仮定しています」、「しかし、心不全が進行した患者は、心臓や腎臓などの末梢臓器に変化が生じているため、心不全が軽度の患者と同じように従来の治療法に反応することはできない。これがLIFE試験から得られた教訓の一つです」と述べています。

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✅まとめ✅ 駆出率の低下した進行性の心不全患者において、サクビトリル/バルサルタンの併用療法はバルサルタンと比較してNT-proBNPの低下に優れておらず、その他の臨床転帰も改善しなかった

引用文献

LIFE: Sacubitril/Valsartan Not Superior to Valsartan in Advanced HFrEF – American College of Cardiology
— 続きを読む www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2021/05/12/19/40/mon-8am-life-acc-2021
ClinicalTrials.gov.: https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02816736

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