上気道炎患児の咳嗽に対するアスベリン®️の効果は？
咳嗽は、発熱に次いでプライマリ・ケアの小児科 外来を受診することの多い臨床症状であることが知られています。また季節に関係なく外来患者の30%前後が咳嗽を伴って受診しており、6 歳未満児が 70%を占めていることも報告されています（日小児呼吸器会誌 2014; 25: 31-36）。
チペピジンヒベンズ酸援（アスベリン®️）は非麻薬性の中枢性鎮咳薬として日本で製造販売されています。しかし添付文書やインタビューフォームによれば、その薬効の根拠として、鎮咳作用はイヌ、気管支腺分泌の亢進作用はウサギ、気道粘膜線毛上皮運動の亢進作用はハトを用いた動物実験の結果であり、ヒトを対象とした試験は限られています。
そこで今回は、日本の急性咳嗽患児を対象とした非盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは？
患児252例が解析対象となりし、126例がカルボシステインのみ投与群、126例がチペピジンヒベンズ酸塩併用群でした。
経過調査時には、いずれの群も全ての臨床症状は改善していましたが、チペピジンヒベンズ酸塩併用群は咳嗽が良くなったという回答が少なく、咳嗽の強さの改善も悪いことが明らかとなりました（いずれもp<0.01）。
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チペピジンヒベンズ酸塩（アスベリン®️）は国内でのみ使用されている薬剤であり、海外からのデータ蓄積を期待することはできません。従って、日本で行われた本試験は非常に重要かつ貴重な研究です。
さて、試験結果によれば、いずれの群においても全ての臨床症状の改善がみられましたが、カルボシステイン単独と比較して、カルボシステイン+チペピジン併用群で咳嗽などの症状を遷延させてしまうことが明らかとなりました。ただし、本試験はプラセボ群を設定していないため、自然経過の可能性があります。
本試験は非盲検であること、サンプルサイズの計算がされてないことなど、いくつかの試験の限界はあるものの、試験結果を覆すだけの薬剤使用による鎮咳効果はなさそうです。
チペピジンを対象とした他の臨床試験が見当たらないため、本試験結果を参考にするしかありません。少なくとも現時点においては、小児の咳嗽に対するチペピジンの効果はなさそうです。カルボシステインのみでも良いのかもしれません。
ちなみに咳嗽はその持続期間によって原因が異なるため、小児の咳嗽診療ガイドラインでは3週未満を急性咳嗽、3週以上8週未満を遷延性咳嗽、8週以上を慢性咳嗽と区別しています（小児の咳嗽診療ガイドライン2014）。
✅まとめ✅ 小児の急性咳嗽患者に対し、カルボシステインに加えチペピジンヒベンズ酸塩を投与すると、症状を遷延させる可能性がある。
根拠となった論文の抄録
【目的】急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者に対するチペピジンヒベンズ酸塩の効果を検証する。
【方法】2018年5月から2018年8月までの4か月間、小児科診療所14施設を受診した1歳から就学前までの、急性咳嗽を主訴とする上気道炎症状の患者を調査対象とした。対象となる症例が受診すると、母親からの聞き取りで、咳嗽の強さと食欲不振、夜間睡眠、遊びの状態を記録した。その後、乱数表を使用し、カルボシステイン 30mg/kg/dayのみを投与した群と、それに加えてチペピジンヒベンズ酸塩 2 mg/kg/day を投与した群に分けた。2日後に母親に電話連絡し、その時点での咳嗽の強さと食欲不振、夜間睡眠、遊びの状態と、2日間の経過で咳嗽症状が〔良くなった・変わらない・悪くなった〕のいずれであったか、聞き取り調査を行った。
【結果】患児266例の調査を行い、連絡が付かなかった例、服薬できなかった例を除く252例を解析の対象とした。126例がカルボシステインのみ投与群、126例がチペピジンヒベンズ酸塩併用群であった。経過調査時には、いずれの群も全ての臨床症状は改善していたが、チペピジンヒベンズ酸塩併用群は咳嗽が良くなったという回答が少なく（p<0.01）、咳嗽の強さの改善も悪かった（p<0.01）。
【結論】小児の急性咳嗽患者に対し、カルボシステインに加えチペピジンヒベンズ酸塩を投与すると、症状を遷延させる可能性がある。
引用文献
急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒベンズ酸塩の効果
西村ら
外来小児科 Vol. 22 No. 2（2019）
ー 続きを読む https://nishimura-syounika.com/Asverin.pdf
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