【リライト】心不全におけるアンジオテンシン-ネプリライシン阻害薬とエナラプリル、どちらが優れていますか?(PARADIGM-HF)

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アンジオテンシン-ネプリライシン阻害薬(ARNI)とは?

サクビトリル-バルサルタン(エンレスト®️)は、体内でサクビトリル及びバルサルタンに解離し、それぞれネプリライシン(NEP)及びアンジオテンシンIIタイプ1(AT1)受容体を阻害します。サクビトリルは、エステラーゼによりNEP阻害の活性体であるsacubitrilatに速やかに変換されます。

NEP阻害は、血管拡張作用、利尿作用、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)抑制作用、交感神経抑制作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用、及びアルドステロン分泌抑制作用を有するナトリウム利尿ペプチドの作用亢進に寄与します。

バルサルタンのAT1受容体拮抗作用は、血管収縮、腎ナトリウム・体液貯留、心筋肥大、及び心血管リモデリング異常に対する抑制作用をもたらします。

心不全(HFrEF)患者に対するサクビトリル-バルサルタンの効果は?

以前の研究において、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるエナラプリル(レニベース®️)は、心不全患者の生存率を改善することが報告されています。心不全(HFrEF)患者に対するサクビトリル-バルサルタンの効果は不明です。そこで、HFrEF患者に対するサクビトリル-バルサルタンの効果を検証したPARADIGM-HF試験の結果をご紹介します。

本試験結果によれば、主要アウトカム(心血管死亡または心不全による入院の複合)の発生は、サクビトリル-バルサルタン群で914例(21.8%)、エナラプリル群において1,117例(26.5%)でした。ハザード比は0.80(95%CI 0.73〜0.87, P<0.001)であり、エナラプリルに対しサクビトリル-バルサルタンは有意に優れていました。また、主要アウトカムの構成要素それぞれにおいても、エナラプリルに対しサクビトリル-バルサルタンは有意に優れていました。

HFrEF患者に対しては、エナラプリルよりサクビトリル-バルサルタンの方が優れていますが、患者背景や併用薬の影響も大きいと考えられます。試験に組み入れられた患者は、利尿剤 約80%、ジギタリス 約30%、β遮断薬 約93%、ミネラルコルチコイド拮抗薬(MRA) 約55%、植込み型除細動器 約15%、心臓再同期療法 約69%を使用しています。また既往歴として、高血圧の他に糖尿病、心房細動、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院を有しています。

診療ガイドラインに従い、ACE阻害薬あるいはARB、利尿剤、β遮断薬(、MRA)を使用し、それでもなお心血管リスクや心不全による入院リスクが高い患者に対して、ACE阻害薬あるいはARBをARNIであるサクビトリル-バルサルタンに変更しても良いのかもしれません。

一方で、HFpEFに対しては、サクビトリル-バルサルタンの有用性が示されていません。サクビトリル-バルサルタンによる恩恵が受けられるのは、あくまでも心駆出率が低下したHFrEF患者であることは念頭に置いた方が良いと考えます。

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✅まとめ✅ HFrEFに対するサクビトリル-バルサルタンは、死亡および心不全による入院のリスクを減らす点で、エナラプリルよりも優れていた

根拠となった論文の抄録

背景:駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者におけるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤LCZ696(サクビトリル・バルサルタン, エンレスト®️)とエナラプリル(レニベース®️)を比較した。 以前の研究では、エナラプリルはHFrEF患者の生存率を改善した。

方法:本二重盲検試験では、クラスII〜IVの心不全で駆出率 40%以下の患者 8,442例に、サクビトリル-バルサルタン(1日2回 200mg用量)またはエナラプリル(推奨療法に加えて、1日2回 10mg用量)を投与した。
主要アウトカムは、心血管死亡または心不全による入院の複合としたが、本試験は、心血管の原因による死亡率の違いを検出するように設計された。

結果:サクビトリル-バルサルタンは、エナラプリルに比べて利益の境界線を圧倒的に超過したため、中央値27ヶ月の追跡期間の後、事前に指定された規則に従って早期に中止された。
試験終了時に、サクビトリル-バルサルタン群の914例(21.8%)およびエナラプリル群の1,117例(26.5%)で主要アウトカムが発生した。
★サクビトリル-バルサルタン群のハザード比 =0.80; 95%CI 0.73〜0.87, P <0.001
 サクビトリル-バルサルタン群では合計711例(17.0%)、エナラプリル群で835例(19.8%)が死亡した。
★全死亡のハザード比 =0.84; 95%CI 0.76〜0.93, P <0.001
 これらの患者のうち、それぞれ558例(13.3%)および693例(16.5%)が心血管死であった。
★ハザード比 =0.80; 95%CI 0.71〜0.89, P <0.001
 エナラプリルと比較してサクビトリル-バルサルタンは、心不全による入院リスクを21%低下させ(P <0.001)、心不全の症状と身体的制限を減らした(P = 0.001)。
サクビトリル-バルサルタン群は、エナラプリル群よりも低血圧および非重篤な血管浮腫の患者の割合が高かったが、腎障害、高カリウム血症、咳の割合は低かった。

結論:サクビトリル-バルサルタンは、死亡および心不全による入院のリスクを減らす点で、エナラプリルよりも優れていた。

引用文献

Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure
PARADIGM-HF Investigators and Committees
N Engl J Med. 2014 Sep 11;371(11):993-1004. doi: 10.1056/NEJMoa1409077. Epub 2014 Aug 30.
PMID: 25176015 DOI: 10.1056/NEJMoa1409077

ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25176015/

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コメント

  1. […] PARADIGM-HF試験では、エナラプリルに対するサキュビトリル/バルサルタン(LCZ696)の優位性が示されました。その結果、左室駆出率(LVEF)が35%未満のHF患者において、心血管死および心不全による入院リスクが20%減少することが明らかになりました。これらのエビデンスに基づき、サクビトリル/バルサルタンは、世界100ヵ国以上で慢性HF(NYHAクラスII〜IV)の治療薬として承認され、慢性HF患者の罹患率および死亡率を低減するために、ACEi/ARBの代替薬として臨床試験ガイドラインで推奨されています。 さらに、TRANSITION試験およびPIONEER-HF試験の結果に基づき、米国心臓病学会および欧州心臓病学会の最新のコンセンサス・ステートメント(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31129923/、https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31526538/)では、ACEi/ARBの使用経験の有無にかかわらず、新規発症の高血圧症または慢性高血圧症の増悪で入院した患者に対して、サクビトリル/バルサルタンの投与開始を推奨しています。PARADIGM-HF試験では、アジア太平洋地域の18%を含む47ヵ国のHF患者 8,442例がランダム化され、地域による治療効果の違いは認められませんでしたが、日本からの患者は登録されていませんでした。 […]

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