Angiotensin-Neprilysin Inhibition in Heart Failure with Preserved Ejection Fraction
Scott D Solomon et al.
N Engl J Med. 2019 Oct 24;381(17):1609-1620. doi: 10.1056/NEJMoa1908655. Epub 2019 Sep 1.
PMID: 31475794
Funded by Novartis
ClinicalTrials.gov number, NCT01920711.
背景
アンジオテンシン受容体ネプリルリシン阻害薬サキュビトリル/バルサルタンは、駆出率が低下した心不全患者において、心不全による入院または心血管系疾患による死亡のリスクを減少させた。
駆出率が温存された心不全患者におけるアンジオテンシン受容体ネプリルリシン阻害薬の効果は不明であった。
方法
ニューヨーク心臓協会(NYHA)クラス II~IV の心不全、駆出率45%以上、ナトリウム利尿ペプチド高値、構造性心疾患を有する心不全患者4,822例を、サキュビトリル/バルサルタン(目標用量:サキュビトリル97 mg、バルサルタン103 mgを1日2回)またはバルサルタン(目標用量:160mgを1日2回)の投与群にランダム割り付けした。
主要評価項目は、心不全による総入院と心血管系原因による死亡の複合体とした。
主要評価項目の構成要素、副次評価項目(NYHAクラスの変化、腎機能の悪化、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire [KCCQ] clinical summary score [尺度:0~100、高得点の場合は症状や身体的制限が少ないことを示す])、安全性についても評価した。
結果
・主要イベントはサキュビトリル/バルサルタン群526例で894件、バルサルタン群557例で1,009件発生した。
★発生率比 0.87、95%信頼区間[CI] 0.75~1.01;P=0.06
・心血管疾患による死亡率は、サキュビトリル/バルサルタン群で8.5%、バルサルタン群で8.9%(ハザード比 0.95、95%CI 0.79~1.16)であり、心不全による総入院数はそれぞれ690例、797例(率比 0.85、95%CI 0.72~1.00)であった。
・NYHAクラスが改善したのはサキュビトリル/バルサルタン群で15.0%、バルサルタン群で12.6%(オッズ比 1.45、95%CI 1.13~1.86)、腎機能が悪化したのはそれぞれ1.4%、2.7%(ハザード比 0.50、95%CI 0.33~0.77)であった。
・8ヵ月後のKCCQクリニカルサマリースコアの平均変化率は、サキュビトリル/バルサルタン群で1.0ポイント(95%CI 0.0~2.1)高かった。
・サキュビトリル/バルサルタン群では、低血圧と血管浮腫の発生率が高く、高カリウム血症の発生率が低かった。
・12のサブグループの中で、駆出率の低い患者と女性においてサキュビトリル/バルサルタンの有効性が示唆され、不均一性が示唆された。
結論
心不全で駆出率が45%以上の患者において、サキュビトリル/バルサルタンは心不全による総入院率および心血管系疾患による死亡率を有意に低下させなかった。
コメント
これまでの研究結果によれば、駆出率の低下した心不全患者(HFrEF)患者に対するバルサルタン/サキュビトリル使用は、心不全による入院または心血管系疾患による死亡リスクを減少させました。
一方、駆出率の保たれた(HFpEF)患者に対する利益の大きい治療法はほぼありません。心不全全般における治療薬であるβ遮断薬、RAS阻害薬は一定の効果を示していますが、HFmrEFあるいはHFrEFと比較して、HFpEFにおける効果は微々たるものです。
さて、本試験結果によれば、駆出率45%以上の心不全(HFpEF)患者に対するバルサルタン/サキュビトリル使用は、バルサルタンと比較して、主要評価項目(心不全による総入院と心血管系原因による死亡)の発生率を低下できませんでした。ただし、低下傾向ではあります(発生率比 0.87、95%信頼区間[CI] 0.75~1.01)。主要評価項目の構成要素の結果は以下の通り;
- 心血管疾患による死亡率:ハザード比 0.95、95%CI 0.79~1.16(サキュビトリル/バルサルタン群 8.5% vs. バルサルタン群 8.9%)
- 心不全による総入院数:率比 0.85、95%CI 0.72~1.00(690例 vs. 797例)
どちらかと言えば、心不全による総入院を低下する効果が大きそうです。ちなみに総死亡はHR 0.97、95%CI 0.84〜1.13で、やはりバルサルタン/サキュビトリルの効果はなさそうです。
HFpEFに対する治療効果の大きい治療法の確立が待たれます。
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