Baloxavir Marboxil for Prophylaxis against Influenza in Household Contacts
Hideyuki Ikematsu et al.
N Engl J Med. 2020 Jul 23;383(4):309-320. doi: 10.1056/NEJMoa1915341. Epub 2020 Jul 8.
PMID: 32640124
Funded by Shionogi; Japan Primary Registries Network number, JapicCTI-184180.
背景
Baloxavir marboxil(バロキサビル)は、ポリメラーゼ酸性タンパク質(PA)エンドヌクレアーゼ阻害薬であり、合併症のリスクが高い外来患者を含む合併症を伴わないインフルエンザの治療に臨床的に有効である。家庭環境におけるバロキサビルの曝露後予防効果は不明である。
方法
2018-2019 年シーズンに日本でインフルエンザが確認された指標患者の家庭内接触者におけるバロキサビルの曝露後予防効果を評価するために、多施設共同、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照試験を実施した。
参加者は、バロキサビル単回投与またはプラセボ投与のいずれかを受けるよう1:1の比率で割り付けられた。
主要評価項目は、10日間の臨床インフルエンザの発症を逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応検査で確認したものとした。また、感受性の低下に関連したバロキサビル選択的PA置換の発現を評価した。
結果
・インデックス患者545例と接触した試験参加者、合計752例がバロキサビル投与群とプラセボ投与群にランダム割り付けされた。
・インデックス患者のうち、インフルエンザAウイルス感染者は95.6%であり、12歳未満は73.6%、バロキサビルは52.7%に投与されていた。
・評価対象者(バロキサビル群374例、プラセボ群375例)のうち、臨床インフルエンザ発症率は、バロキサビル群の方がプラセボ群よりも有意に低かった(1.9% vs. 13.6%)。
★修正リスク比 =0.14、95%信頼区間[CI] 0.06~0.30;P<0.001
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・バロキサビルは、ハイリスク、小児、ワクチン未接種の参加者のサブグループにおいて有効であった。
・症状にかかわらず、インフルエンザ感染のリスクは、バロキサビルの方がプラセボよりも低かった。
★修正リスク比 =0.43、95%CI 0.32~0.58
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・有害事象の発現率は両群で同程度であった(バロキサビル群22.2% vs. プラセボ群20.5%)。
・バロキサビル群では、ウイルス性PA置換体I38T/MまたはE23Kがそれぞれ10例(2.7%)および5例(1.3%)で検出された。
・バロキサビル治療を受けた指標患者からプラセボ群へのこれらの変異体の感染は検出されなかったが、バロキサビル群の参加者への感染例を除外することはできなかった。
結論
バロキサビルの単回投与により,インフルエンザ患者の家庭内接触者におけるインフルエンザ予防に有意な予防効果が認められた。
コメント
過去の研究により、インフルエンザ治療に対するバロキサビル(ゾフルーザ ®️)投与は、オセルタミビル(タミフル®️)に非劣性であり、プラセボに対して約1日ほどインフルエンザ罹患期間を減少させました。しかし、コストが高く、また耐性ウイルスが検出されたことから、ここ1年ほどは処方数量が減少しています。
さて、本試験結果によれば、インフルエンザ治療ではなく、インフルエンザに対する予防的なバロキサビル投与は、プラセボ投与と比較して、臨床的インフルエンザ発症率を有意に低下させました。さらに、症状にかかわらず、インフルエンザ感染のリスクもバロキサビル群で低かったとのこと。
一方、有害事象の発現率は両群で同程度でした(バロキサビル群22.2% vs. プラセボ群20.5%)が、耐性ウイルスにおいては、バロキサビル群で、ウイルス性ポリメラーゼ酸性タンパク質置換体I38T/MまたはE23Kがそれぞれ10例(2.7%)および5例(1.3%)検出されました。
やはり耐性ウイルスの出現については注意が必要ですね。また、予防的な薬剤使用については、他の抗インフルエンザ薬においても同様に認められています。依然としてハイコストであるバロキサビルを使用する意義に疑問が残ります。
続報を待ちたい。
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