Outcomes in hypertensive patients at high cardiovascular risk treated with regimens based on valsartan or amlodipine: the VALUE randomised trial.
Julius S et al.
Lancet. 2004 Jun 19;363(9426):2022-31.
PMID: 15207952
DOI: 10.1016/S0140-6736(04)16451-9
背景
バルサルタン抗高血圧長期使用評価(The Valsartan Antihypertensive Long-term Use Evaluation, VALUE)トライアルは、心血管リスクの高い高血圧患者において、バルサルタン使用が、同じ血圧コントロールで、アムロジピンよりも心臓の罹患率と死亡率を減らすという仮説をテストするために設計された。
方法
治療中または未治療の高血圧と心イベントリスクが高い50歳以上の15,245人の患者が、バルサルタンまたはアムロジピンに基づく治療のランダム化二重盲検並行群間比較に参加した。治療期間はイベント駆動型であり、少なくとも1,450人の患者が、心死亡率と心疾患罹患率の複合として定義された主要エンドポイントに達するまで試験は継続した。 31ヵ国からの患者が平均4.2年間追跡された。
調査結果
・血圧は両方の治療によって低下したが、アムロジピンベースのレジメンの効果は、特に初期においてより顕著だった。
★1ヵ月後の血圧:バルサルタン群-アムロジピン群
1ヵ月後の絶対差 =4.0 / 2.1 mmHg
1年後の絶対差 =1.5 / 1.3 mmHg(グループ間 p <0.001)
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・主要複合エンドポイントは、バルサルタン群の810人(10.6%、25.5/1,000患者年)およびアムロジピン群の789人(10.4%、24.7/1,000患者年
★ハザード比 =1.04、95%CI 0.94-1.15 、p = 0.49
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結果の解釈
心臓病の主なアウトカムは、治療群間で差はなかった。血圧の不均等な低下は、原因別のアウトカムにおけるグループ間の違いを説明するかもしれない。本調査結果は、心血管リスクの高い高血圧患者の迅速な血圧管理の重要性を強調している。
コメント
バルサルタンはディオバン®️事件で地に落ちたと感じていましたが、過去の臨床試験では心血管イベントの抑制効果が示されています。その臨床試験の1つとしてよく出てくるのがVALUE試験です。しかしプラセボ対照ではなく、実薬のアムロジン®️/ノルバスク®️との比較ですので、そもそも薬を飲まないことと比較して、心血管イベントを抑制できるのかは本試験からだけではわかりません。
さて、本試験結果からバルサルタンとアムロジピンとの間に、心血管イベント(心臓関連アウトカム発症および心血管死亡の複合)に差は認められませんでした。また介入後1ヵ月の血圧低下はCa拮抗薬であるアムロジピンの方が大きかったとのこと。1年後の降圧差が小さくなっているのは、薬剤用量や他クラスの降圧薬を併用したためであると考えられます(降圧値に応じてSTEP5まで治療スキームが組まれていた)。また試験からの脱落は両群とも25%超とやや多い印象ですが、脱落の内訳が両群同程度かつITT解析されているため、大きな問題はないと考えられます。
今となっては最早当たり前のことですが、高血圧治療において(食事や運動を除いて)、持続的な降圧に優る治療法はなく1次治療薬であるCa拮抗薬、ACEi/ARB、利尿薬にクラス差はほぼないとされています。
ただ気になるのは、著者の述べている「不均衡な血圧低下は、原因別のアウトカムにおけるグループ間の違いを説明するかもしれない」という点。結果をよくよく見てみると、
1次アウトカム:Hazard Ratio =1.04 (95%CI 0.94–1.15)
心臓関連疾患による死亡:HR =1.01(0.86–1.18)
心臓関連疾患の発症:HR =1.02 (0.91–1.15)
致死性および非致死性の心筋梗塞:HR =1.19 (1.02–1.38) , P<0.02
致死性および非致死性の心不全:HR =0.89 (0.77–1.03)
致死性および非致死性の脳卒中:HR =1.15 (0.98–1.35)
総死亡:HR =1.04 (0.94–1.14)
新規糖尿病の発症:Odds Ratio =0.77 (0.69–0.86) , P<0.0001
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どうやら心筋梗塞リスクが高いことを言っているのかもしれませんね。副次評価であるため、あくまで仮説生成的な結果ですね。2004年頃の薬害オンブズパーソン会議で注意喚起されたようですが、近年のメタ解析ではリスク増加は認められていません。個人的にはそこまで気にしなくても良いのではと考えています。ただしACEiを使用できるため、ARBを積極的に使用する意義は少ないとも考えています。
糖尿病の新規発症については、バルサルタンの方が低かったようです。この点については、他の試験でも取り上げられていますが、RAS系およびCa拮抗薬自体にリスク増加が報告されており、近年では薬剤による糖尿病発症リスク自体がそこまで大きくないことも報告されていますので、殊更気にする必要はないと考えています。Ca拮抗薬よりもARBで糖尿病の併発を抑えられたとしても、そもそも心血管イベントが減らなければ益は少ないと考えられますし、バルサルタンの最後っ屁のような気もします。
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