Relationships between maintenance of sinus rhythm and clinical outcomes in patients with heart failure with preserved ejection fraction and atrial fibrillation
Murata N et al. J Cardiol. 2019
2019 Volume 83 Issue 4 Pages 727-735
PMID: 30910388 DOI: 10.1016/j.jjcc.2019.02.014
【背景】
心房細動(AF)患者の間で直接経口抗凝固薬(DOAC)の適応外投与が臨床的に行われているが、日本では過剰投与および過少投与の臨床アウトカムに関するデータが欠けている。
【方法と結果】
本研究ではSAKURA AF Registry(日本における多施設共同登録レジストリ)を使用して、適応外DOAC投与の臨床アウトカムを調べた。 3,237人の登録者のうち、4つのDOACレジメンのいずれかで1,676人が中央値39.3ヶ月間追跡調査された:適切な標準用量 746人(45.0%)、適切な低用量 477人(28.7%)、過量 66(4.0%)、適応外の低用量投 369人(22.2%)であった。 標準用量群と比較して、過少用量群および過剰用量群の患者は有意に高齢であり、脳卒中リスクが高かった。多変量調整後、脳卒中/全身性塞栓症(SE)および死亡イベントについては標準投与群と過少投与群で同等であったが、大出血イベントは過少用量群でより低い傾向だった(ハザード比[HR] =0.474, P =0.0739)。
複合イベント(脳卒中/ SE、大出血、または死亡)では、標準用量群よりも過量用量群の方が高かった(HR =2.714, P =0.0081)。
【結論】
臨床アウトカムにおいて、異なる背景を有する患者間で、標準用量と比べて低用量でも悪化は認められなかった。しかし、過量服用者においては全ての臨床イベントに対してリスクが高く、慎重な追跡調査が必要であった。
日本での適応外DOAC投与の安全性と有効性を明らかにするためにはさらなる研究が必要である。
【コメント】
アブストのみ。
日本の人口ベースの後向きコホート研究。DOACを低用量で使用しても、標準用量と比較してアウトカムに大きな影響はなかった(リスク増加は認められなかった)とする結果であった。
とはいえ主要アウトカムは複合であり、個々のアウトカムを慎重に検討する必要がある。また過量投与群の例数は66と、他の群に比べて少なく、また追跡率も悪い。
本解析では傾向スコアを利用し、性別、年齢、体重、持続性心房細動、DOACの新規使用、高血圧、糖尿病、心不全、脳卒中/ TIA歴、血管疾患、心房細動アブレーション歴、CrCl、抗血小板薬の使用について調整した後のハザード比を算出しているが、だとすると各群の例数は多くとも66例となってしまう。つまり、用量で層別化しても研究結果の信頼性はかなり低いと考えられる。さらにコホート研究の中でも後向きコホート研究は、質として前向き研究に劣る。もちろん試験プロトコルがしっかりしていれば研究の質は高いが、その点においても本研究プロトコルは今ひとつであると考えられる(解析モデルとして傾向スコアを利用しているのは問題ないと考えられる)。
日本の人口ベースコホート研究は報告数がまだまだ少ない。その中で本研究にも利用されているSAKURA-AFレジストリーにはかなり期待しているのだが、本研究の解析方法は不十分であり、個人的には残念な気持ちでいっぱいである。
過去の報告では、低用量DOAC使用による脳卒中イベントのリスク増加や(薬剤用量少ないのに何故か)出血リスク増加が報告されている。それらと照らし合わせてみても、本研究の結果にはやや疑念が残る。
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