Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes. N Eng J Med. 2017 Jun 12. doi: 10.1056/NEJMoa1611925. [Epub ahead of print]
Neal B et al.
PMID: 28605608
ClinicalTrials.gov No.: NCT01032629(CANVAS), NCT01989754(CANVAS-R)
【資金提供】
Janssen Research and Development
【利益相反COI or 開示disclosure】
http://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1611925/suppl_file/nejmoa1611925_disclosures.pdf
【統合解析方法のペーパー】
Optimizing the analysis strategy for the CANVAS Program: A prespecified plan for the integrated analyses of the CANVAS and CANVAS-R trials. – PubMed – NCBI
PMID: 28244644
試験背景
カナグリフロジン(商品名:カナグル)は、糖尿病患者の血糖値、体重、およびアルブミン尿を減少させるナトリウム – グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害剤である。
心血管、腎臓、および安全性アウトカムに対するカナグリフロジン治療の効果を報告する。本論文は、CANVASおよび CANVAS-Rという 2試験の統合結果である。
結論
カナグリフロジンはハイリスク 2型糖尿病患者の心血管および腎イベントを抑制した。ただし日本での承認用量と異なる点、セカンダリアウトカムであっても下肢切断のリスク増加については慎重に検討する必要がある。従って同クラスの他の薬剤より優れているとは言いがたい。
組入基準
HbA1c 7.0~10.5%の 2型糖尿病の男女、30歳以上で症候性アテローム性心血管疾患を有しているか 50歳以上で心血管疾患リスク(糖尿病罹患10年以上、収縮期血圧 140 mmHg以上で降圧薬を 1つ以上使用、喫煙、微小アルブミン尿あるいは顕性アルブミン尿、あるいは HDLコレステロール 1 mmol/L=38.7 mg/dL未満)を 2つ以上有す患者、eGFRが 30 mL/min/1.73 m2以上 etc.
除外基準
糖尿病性ケトアシドーシスの既往、1型糖尿病あるいは膵細胞移植、膵炎あるいは膵臓切除による糖尿病、スクリーニング前に治療薬および用量が少なくとも 8週間安定していない患者、ベースライン/Day1時の空腹時血糖 270 mg/dL(15 mmol/L)超あるいはスルホニルウレア剤またはインスリン使用中の患者の場合は空腹時血糖 110 mg/dl(<6mmol/L)未満、スクリーニング前 6ヶ月間に 1回以上の重症低血糖の既往 etc.
批判的吟味
RobotReviewerによる Risk of Bias Table
PICOTS
P: 心血管ハイリスク 2型糖尿病患者(罹患期間は平均 13.5 ± SD7.8年)
I :標準治療へのカナグリフロジン(商品名:カナグル)追加
CANVAS trial
→ カナグリフロジン 300 mg/day、100 mg/day、placeboの 3群
CANVAS-R trial
→ カナグリフロジン 100 mg/day(12週以降 300 mgまで増量可)の 2群
※300mgまで増加した患者は71.4%
※日本での承認用量は 100 mg/dayまで(2017年9月時点)
C: 標準治療への Placebo追加
O: Primary — 心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合
Secondary — ①全死亡、②心血管死、③アルブミン尿の進行(30%以上のアルブミン尿の増加および、正常アルブミン尿からの微小アルブミン尿あるいは顕性アルブミン尿への増悪、微小アルブミン尿からの顕性アルブミン尿への増悪)、④心血管死および心不全による入院の複合
T: 予防・治療、ランダム化比較試験、追跡期間 =188.2週(3.9年)
S: アジア-太平洋、北アメリカ、ラテン系アメリカ、ヨーロッパ諸国、その他
30ヵ国、667施設(少なくとも約20%がアメリカから参加と推定)
ランダム割り付けされているか?(観察者バイアスはないか?)
→ されている。Interactive Web Response System(IWRS)を採用
ブラインドされているか?(マスキングにより観察者バイアスは抑えられているか?)
→ されている。Double-blindだが検査値でバレバレな気はする(本文 Figure 1A参照)。2週間の run-in期間は single-blind(患者のみ)
隠蔽化されているか?(選択バイアスはないか?)
→Concealmentの記載はないが、IWRSを採用していることから隠蔽化されていると判断(中央割付)。トライアルスポンサーであるヤンセンが実施しているところが少し気になる(気にしすぎ?)
プライマリーアウトカムは真か?明確か?
→ 真であるが複合であるため結果の解釈に注意が必要
交絡因子は網羅的に検討されているか?
→ 概ねされている
Baseline は同等か?どんな患者背景?
→ 同等と判断。心血管疾患既往が 65.6%とハイリスクな集団であると考えられる。利尿薬の使用患者が 44.3%という点が個人的には気になる。内訳も知りたい。
ITT 解析されているか?
→ されている。
追跡率(脱落)はどのくらいか?結果を覆す程か?
→ ITT解析であるため追跡率100%
試験完遂率はカナグリフロジン群 96.1% vs. placebo群 95.7%と同等
脱落は全体で4.19%(184+224 / 4163+5571)と問題なさそう。
サンプルサイズは充分か?
→ 心血管セーフティ検討のために 688例のイベント発生が必要(β =90%パワー、αレベル =0.05)。しかしプライマリーアウトカムのイベント発生数は、CANVASでは 658(425+233)と足りず、CANVAS-Rを合わせた CANVAS program全体としては 1,011と充分。
→当初の計画では、CANVAS試験のみで 18,000例を予定していたが、第一段階の組入れ後に試験スポンサーが第二段階の被験者募集を中止することを決定した。そこで代替案として、アウトカムを腎臓病等に変更し、イベント発生抑制効果を検討する CANVAS-R試験を新たに計画した。
(Study Design Figures. Major study heralds new era in treatment of type 2 diabetes: CANVAS results available | The George Institute for Global Healthより一部引用)
結果は?
3-Point MACE
ハザード比 =0.86(95%CI 0.75〜0.97)
P <0.001(非劣性)
P =0.02(優越性)
Number Needed to Treat for Benefit(NNTB)=218
プライマリーアウトカム
MACE
カナグリフロジン群(n=5795), イベント発生数 =585
プラセボ群(n=4347), イベント発生数 =426
セカンダリーアウトカム
全死亡
カナグリフロジン群(n=5795), イベント発生数 =400
プラセボ群(n=4347), イベント発生数 =281
心血管死
カナグリフロジン群(n=5795), イベント発生数 =268
プラセボ群(n=4347), イベント発生数 =185
アルブミン尿の進行
ハザード比 =0.73(95%CI 0.67〜0.79)
カナグリフロジン群(n=5196), イベント発生数 =1341
プラセボ群(n=3819), イベント発生数 =1114
→eGFRの 40%低下、腎移植、腎不全
ハザード比 =0.60(95%CI 0.47〜0.77)
心血管死・心不全による入院
カナグリフロジン群(n=5795), イベント発生数 =364
プラセボ群(n=4347), イベント発生数 =288
有害事象
全重篤な有害事象
NNTB =64
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:104.3
プラセボ群 :120.0
下肢切断
NNTH =333
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:6.3
プラセボ群 :3.3
全骨折
NNTH =286
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:15.4
プラセボ群 :11.9
生殖器感染(男性)
NNTH =41
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:34.9
プラセボ群 :10.8
浸透圧利尿
NNTH =47
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:34.5
プラセボ群 :13.3
体液量減少
NNTH =133
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:26.0
プラセボ群 :18.5
真菌性生殖器感染(女性)
NNTH =19
イベント数(/1000人年)
カナグリフロジン群:68.8
プラセボ群 :17.5
コメント
標準治療へのカナグリフロジン追加は 3-point MACEを優位に低下させた(NNTB =218)。ただしセカンダリであっても下肢切断については留意した方が良いと考えられます(NNTH=333)。
一応、ベネフィットは下肢切断リスクよりも上回ります。しかし同クラス薬はエンパグリフロジンがありますので、カナグリフロジンを選択する必要性は無いと思いました。
またプライマリーアウトカム、セカンダリーアウトカムの一部について、リスク比は増加した。個人的には驚愕の結果です。イベント発生率は両群で同程度なのに、ハザード比においてカナグリフロジン群はプラセボ群に比べ有意に低下。ちなみにですが EMPA-REG OUTCOMEでは、ハザード比(追跡期間を考慮)とリスク比(ある時点の値)は同じぐらいになります。気になる方は是非、算出してみてください。
SGLT-2阻害薬の大規模臨床試験としては、ダパグリフロジンの DECLARE-TIMI58試験(Multicenter Trial to Evaluate the Effect of Dapagliflozin on the Incidence of Cardiovascular Events – Full Text View – ClinicalTrials.gov)が進行中です。Follow-upは 6年を予定しています。何気に楽しみ。
追加情報
アルブミン尿の基準(デザインペーパー参照)
・Normoalbuminuria:尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR*)が 30 mg/g未満
・Microalbuminuria:ACRが 30~300 mg/g
・Macroalbuminuria:ACRが 300 mg/g超
*ACR=Albumin Creatinine Ratio
-Evidence never tells you what to do-
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